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大切に育てた子供達は大陸を滅ぼしかねない存在でした 〜最強の魔族が支えるスローライフ〜  作者: 達磨 紺紺


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違和感と葛藤

「うん。こんなものかな」


 孤児院の裏にある山で、大木が宙を舞い、次の瞬間には程よい大きさの薪となった。

人が数時間かけてする作業を一瞬で終わらせたアルフレットは、それらを浮かせたまま一つにまとめ、山を降りていく。

 とはいっても、既に日は大分傾いており、夕焼けが西の山々に隠れるかどうかという時間帯。


(そういえば、今日はユーゴが来なかったな)


 道中、珍しくユーゴの姿が見えなかった事に、少しだけつっかえるものを感じたアルフレットだが、心配をするには同行した少女の力が絶大すぎる。

 キージャくらいの街であれば、そこの人間全員でかかってもソフィアには傷一つつけられないだろう。万が一を潰すために、行く直前に脅しまでかけた。


 だが、ユーゴは自身の担当する家事が終わったら、他の子供達の様子を確認して回るのが日課だ。喉に小骨が刺さったような気持ち悪さを感じながら、アルフレットは帰路の足がいつもより速くなるのを感じていた。





                 ********



「ただいま」


「おお! アルフ!」


 玄関の扉を開けた先にいたのは、この家で最も視界に入りやすい大男のギンだ。切羽詰まったとまでは言わないが、どこか慌てた様子の彼は、どうやらアルフレットの帰宅を待っていたようだ。


「どうしたの? そんなに慌てて」


「いっ、いや………ユーゴの奴がよお」


 言いにくそうに頭を掻き、室内へとアルフレットを誘導するギン。珍しいことが続くと思っていたアルフレットだが、ギンの様子からして、それほど深刻な事態というわけでもなさそうだ。


 そう楽観視したアルフレットだが、広間に入ったところで、目の前の惨状に一瞬面食らってしまう。


「…………どうしたの? 君たち」


 その場には、この孤児院の女性陣三人が、各々の格好で固まっていた。


 顔を隠したり、頭を抱えたり、壁に向かって座ったり、と様々だったが、共通して、耳まで真っ赤に染まっているのが分かる。



「ひ、久しぶりに、抱きつかれちゃったぁ」


「クソッ! 我の頭を撫でるなど、あの男許さん……」


「どうなっておる? どうなっておる?」


 照れ、怒り、戸惑いと取れる、三者三様の言葉だが、全員その声には抑えきれない喜色が乗っていた。

 初めて見る光景だが、アルフレットは何となく事態を把握する。


「あー! アルフだぁ!」


 その時、アルフレットの肩に腕を回し、頬同士がくっつきそうなほどに密着したのは、この孤児院の大黒柱。

 だが、その頬は朱色に染まり、手には酒瓶が握られている。明らかに高いテンションと相まって、確実に酔っ払っていることは言うまでもないだろう。


「ちょっとユーゴ、酒臭いよ。酔ってるの?」


「んあー? そんな事ねぇよー」


 だが、往々にして、そういった輩ほど認めないものだ。自覚がないのか、認めたくないのか、酔っ払った経験のないアルフレットには分からないが、これでいつも通りを装えていると思っているなら本気で心配になってくる。


「オメェあいっかわらずクールだなぁ。もっとテンション上げろよぉ! ほら、ウェーイ!」


「ははは、絶対嫌だね」


「なんらとお〜〜」


 これではどちらが保護者か分からないなと、一度息を吐いたアルフレットがユーゴに肩を貸し、振り返って固まっているギンに声をかけた。


「ギン。僕はユーゴを寝かせてくるから、残ってる家事があるなら頼んでもいい?」


「あっ? お、おう」






                 ********




 足取りのおぼつかないユーゴに肩を貸して、アルフレットは階段を上がる。2階の突き当たりにあるのがユーゴの部屋だ。


 ドアを開けて中に入ると、アルフレットはユーゴをベットまで運び、漆黒の瞳を細めて周りを見渡す。


「相変わらず、ここは何もないね」


 久しぶりに入ったそこは記憶と大差なく、必要最低限のものしか置いていない。

 ベットと衣装棚。それと、あまり本の入っていない本棚と、作業机が置いてあるくらいだ。


 だからだろうか。端に寄せてある机の上、そこに置いてある写真や木箱といった、何の変哲もないものに目が行くのは。


「あー、あんま趣味とかねーからなー。てかあ、オメーの部屋だってどーせ似たようなもんだろ?」


「まあ、僕もあまり物は持たないかな。本はこの部屋より多いけどね」


「うははっ! お前意外と小説好きだよなー。専門書とか読んでそーなイメージなのに」


「偏見でしょ。それに、専門書って大体想像できることしか書いてないからつまらないんだよ」


「天才かっ! 嫌味なことを――」


「ユーゴ」


 唐突に話を遮られ、ユーゴはアルフレットの方へと顔を向ける。必然、アルフレットの深い漆黒がユーゴの視線と交わった。


「何があったの?」


 案の定、といえるのか、アルフレットは年齢に比例しない落ち着いた声で、諭すように問いかける。


「………何のことだよ?」


 だが、あくまでユーゴは、シラを切るようにそう応えた。それが分かっていたのか、アルフレットは特に表情を変えることなく視線を外し、机に置いてある写真を見る。


 まだ大人と呼ぶには早すぎる孤児院の子供達。その、更に幼かった頃の写真が、そこには飾られていた。


「昔、君が体調を崩して、家事ができなかった時は大変だったよね。僕達はまだ子供で、何もかもユーゴに任せてたから」


 懐かしむように口を開いたアルフレットは、当時を思い出して笑う。

 本当に、どうしようもなく何もできなかった。ユーゴが無理をして倒れ、代わりに家事をしようと分担して作業をしたにも関わらず、誰一人まともに出来なかったのだから。

 たった一人でどうやってこの仕事量を回していたのかと不思議に思ったほどだ。


「それ以来、君は自分の体調を考える様になった。ユーゴがここまでお酒を飲むのは、何かあった時だけさ」


 ようやく飲めるようになったお酒を我慢するようになり、大変な作業でも、子供達に不安を与えないように平気な顔でこなすようにもなって、日々の食事にも気を使うようになった。


 そんなユーゴが、こんなに泥酔するまで酒を飲んだのには、何か理由があるのだろう。


「…………」


 さっきまでの陽気はどこへいったのか、喋ることをやめたユーゴに対し、アルフレットは視線で話せと訴え続ける。


 逃れられないと感じたのか、ユーゴは一度天井を見つめ、過去に思いを馳せるようにしながら語り始めた。


「なぁ、アルフ………お前は今、幸せだと思うか?」

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