親の責任
「…………えっと、どうゆう事ですか?」
思いがけない懇願に、俺は一瞬呆けてしまった。そんな俺の様子に気付かず、ゴードンは更に息を弾ませながら答える。
「そのままの意味です。その子の才能は素晴らしい! 絶対に芸の世界で活躍するべきです! あれだけの大魔法を使えるのであれば、一日で千万ギラン! いや、二千万ギラン稼ぐことも出来るでしょう!」
ゴードンの興奮した様子に、俺は一歩引いてしまう。何としてでもソフィアが欲しいとでも言うように、瞳を限界まで見開いて力説する様子は狂気的ですらあった。
「あー………いや、この子は、そうゆうことにはあまり興味がないようでして」
そう言って、やんわりと提案を拒否する。
ソフィアの魔法が凄いことなど分かっているが、この子は人前に出るようなタイプではないし、何より魔族だ。
大勢の前で見せ物などして、何かの拍子にそれがバレてしまったら取り返しがつかない。
「そんなものはこれから持てば良いじゃないですか! 絶対に芸の道に進むべきです!」
俺の説得に耳を貸す様子もなく、ゴードンはそう主張する。けど、ゴードンには悪いが、どう考えてもありえない。
「いや、だから、子供には好きな道に進んでもらいたいんですよ。まだこいつも十六歳ですし、これからゆっくり考えますから」
「――っっ! その過保護が、その子の才能を腐らせていると言っているんです!」
痺れを切らしたゴードンが、苛立ちを爆発させる。鋭くなった視線がソフィアに向けられ――
「大体、何ですかそのみすぼらしい格好は! その子が可哀想だとは思わないんですか!?」
「……………え?」
ゴードンの言葉に、一瞬思考が止まる。
みすぼらしい? 可哀想?
――誰のことだ?
たった今聞いた言葉を頭の中で復唱し、徐々にその意味が全身に響くように浸透する。
今まで、そんなことを言われたことがなかった俺は、考えたこともなかったことから目を背けたくなる。
今までも、そんな風に見られてたってことか?
「………あ……いやっ、………えっと…………」
何か反論しようとするも、動揺が思考を阻害して言葉が出ない。
いや、そもそも、反論なんて出来るのか?
周りを見渡すと、ソフィアと同じくらいの子供を見つける。確かに、その子が着ている服は装飾や模様が描かれていて、ソフィアが着ている服とは値段の桁が違うであろうことも理解出来てしまう。
そう思うと、この場で強く出ることができなかった。
俺の反応に手応えを感じたのか、ゴードンが畳み掛けるように話を続ける。
「そうです! 貴方は、その子の将来を、――いや、今この瞬間ですらも犠牲にしているのです! この子が力を発揮できれば、もっと良い暮らしができるはずなのに! こんな服しか買わせてあげられないことが、貴方は恥ずかしくないのですか!!」
「―――っ!」
ズキリと、胸に刃物が刺さったような鋭い痛みが走る。
もし、ゴードンの言う通りであるのなら、ソフィアが一日働いただけで、俺たちの一年分に近い生活費が収入として入る。子供達全員がもっと良い服を好きなだけ買えて、美味しいものがいくらでも食べられる、莫大な金が。
「自覚もなかったのですか? 子供達の可能性を潰しているという自覚すら。………そんな人が親気取りとは、恥を知りなさい!」
「………け、けど」
何にも知らないくせにって、言ってやりたかった。
この子は魔族で、それがバレないようにこっちも必死なんだって。
言葉にできなかったのは、事情よりも俺の心の問題だ。
もしかしたら、俺は本当に――
「あっ、あの!」
俺が反論もできずにいると、背後からソフィアが声を上げた。
それに驚き、反射的にそちらを向く。孤児院の相手以外で、ソフィアがここまで大きな声を出したことはない。
そんな当の本人は、顔を真っ赤に染めながら震えていた。
「ゆっ、ユーゴはっ! 何も………悪くないっ…………から、だからっ………そ、それじゃあバイバイなのだし!!」
少しずつ威勢が削がれていき、最後は逃げるように俺の手を取って転移魔法を発動するソフィア。
ゴードンが何かを言う前に、瞬く間に、俺とソフィアの体は人通りのない場所まで瞬時に飛ばされた。
「………………」
さっきまでの喧騒が嘘のように、周りの音が消えている。だから、余計に言われたことを意識してしまう。
「………………」
沈黙が続く。けど、ここでこの反応はまずいってことは俺も分かってる。何でもないように装え。嘘でもいいから、何でもないって。――いや、変わらないといけないのか? 今までと同じじゃ親代わり失格で……けど、今急に変わったら変だよな? これも逃げてることになるのか?
焦燥感に駆られる俺は、堂々巡りの思考回路に陥る。その時、隣のソフィアが不安気に見つめてくるのを視界の端で捉え、笑みを作ろうとした。
とりあえず、今はいつも通りに………
――いつもの俺って、どんな感じだったっけ?




