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大切に育てた子供達は大陸を滅ぼしかねない存在でした 〜最強の魔族が支えるスローライフ〜  作者: 達磨 紺紺


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ソフィアの魔法

「くふふふふふふふっ!」


 すっかり機嫌の直ったソフィアと一緒に、来た道をそのまま辿る。

 目当てのものは手に入ったし、持ってきた薬草や野菜も全部売れた。いつもより順調に進んだ用事を終えた俺たちは帰路に着いていた。


「ん? 何なのだし? あれ」


 途中、ふと足を止めたソフィアの視線を追ってみると、赤い派手な服を着た男を囲むように扇状に集まった人々が、期待の眼差しで男を見ていた。


「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! この天才魔法使いゴードンが、皆様に世にも珍しい魔法をお見せしますよ! 見逃し厳禁のスペシャルショー始まり始まり!」


 声を張り上げ、自身への賛辞を述べるゴードンという男が、魔法陣が描かれた地面の上に立つ。その右数メートルのところには、同じような魔法陣が描かれていた。


「ご覧の皆様の中には、もうお気付きの方もいらっしゃることでしょう。そう、これからご披露させていただきますのは、S級魔法『空間移動』。この魔法陣からそちらの魔法陣まで、空間を越えて移動するという神業であります!」


 大仰に手振りを添えて説明するゴードンがそういった直後、信じられないといったようなざわめきが観客の中で起こった。

 S級魔法とは、人間が使う魔法の中で特に難易度の高い魔法に分類される。魔法を使える人間は多いが、大抵は火や水を出すことしか出来ず、特に空間に関する魔法は最高難易度の位置付けにあるものだ。


「あら? 皆様あまり信用していませんね? では、その目にしかとご覧に入れましょう! 奇跡の目撃者になる準備はよろしいですか!?」


 そこで一つ深呼吸をしたゴードンが、人好きする笑顔から一転。極限まで集中力を高め、魔法陣に手を添えて魔力を流し込む動作に入る。


「『混迷せし、万物を司る理の扉。逆なる真の地は幻影に沈み、天に掛かるは歪みの帳。開闢の時より尚遡り、幽微の世に立ちし己に空理を謳え』」


 紡がれた言葉と共に、強く輝きだした魔法陣に観客の歓声が上がる。まだ魔法は発動していないにも関わらず、徐々に大きくなる光に比例してその場の熱量が一気に高まった。


 魔力を言葉に乗せる『詠唱』。一見簡単そうに見えるそれは、見た目ほど安い芸当じゃない。体内で複雑な魔力の操作をしながら、一言一句間違わずに、その言葉そのものにも魔力を流す。

 当然、魔力の流れなど目で見えるものではないから、培った感覚に頼るしかない。歌を歌いながら楽器を弾く人をよく見るが、それを目と耳を閉じてするようなものだ。


 まして、ゴードンがしようとしているのは空間魔法。魔法の中でも最も難しい部類に位置付けられる一つで、詠唱へ流す魔力もほんの僅かなズレで全て台無しになる。


「『空間魔法 亜空転羅(あくうてんら)』」


 そんな神技をやってのけたゴードンは、先程の自画自賛が決して口だけではないことを証明していく。


 徐々にその身体を光に包まれ、完全にその身が見えなくなったかと思えば、次の瞬間、離れた魔法陣からも光が上がる。

 十秒ほど経った時、二つの光は同時に萎み、ゴードンの姿は――



 始めにいた魔法陣とは、逆の魔法陣の上に移っていた。



「――っ!! わああああああああ!!!」


 一瞬の沈黙。そして、割れんばかりの大歓声が、その場に響き渡った。


 熱狂の渦の中心で、両腕を広げて存在をアピールするゴードンは、やり遂げた偉業にこれでもかと胸を張る。


 止まることのない自身への喝采を、しかしゴードンは手を振る動作で制止。少しずつ静かになっていく観客に向けて、にこやかに一礼した。


「皆様。これが、選ばれしものにしか実現できない奇跡の魔法。空間魔法でございます。どうですか? 足を止めた価値はあったでしょう」


 額から汗を流し、疲労感の見えるゴードンだが、それに見合った成果はあったのだろう。鳴り止まない拍手に、ゴードンは顔に達成感を浮かべている。


「そちらのお嬢さん。随分と呆けた顔をしてらっしゃいますね? あまりの出来事に思考が追いつきませんか?」


 そこでゴードンが声をかけたのが、俺の隣でキョトンとした顔をしていたソフィアだ。得意気に話しかけたゴードンは、この場で唯一反応を示さなかったソフィアの様子が気になったらしい。


 だが、ソフィアは話を振られた途端、顔を赤くして俺の背中に隠れた。人見知り全開で顔だけを出し、ゴードンの様子を伺う。


「おや? どうも人前に出るのが苦手な様子。そのままで結構ですので、感想をどうぞ」


 そんなソフィアにも、構う事なくゴードンは続ける。問いかけの答えを振られたソフィアは、一度視線を下げ、今し方ゴードンが使った魔法陣を確認し――



「………今の魔法、何がそんなに凄かったんだし?」



 瞬間、それまで凄まじい熱気の中にあったその場の空気が、ピシリと音を立てて凍りついた。


 そして、それは俺も例外じゃない。


 ソフィアのまさかの発言に、こうゆう時の無難な答えを教えてこなかった自分を恨む。時間にして数秒だろうか。沈黙という名の地獄は、実時間以上の苦痛を周りに与える。

 そんな中、最も早く反応を返せたのがゴードンだった。


「こ、この魔法を大したことないとは、まさか! お父さんはこの程度の魔法など朝飯前だと!? そんな大魔法使いなのですか!?」


「え!? あー、いやいや、俺は魔法からっきしで――」


「でしょうねぇ。そんな感じします」


 俺の言葉に被せるようにそう言ったゴードンに、今度は観客から笑い声が漏れた。

 冗談めかして言っていたゴードンだが、一瞬凍った場を即座に笑いに変えるその腕には感心する。これでソフィアから関心は移っただろう。愛想笑いを浮かべながら、安心して歩き去ろうとした、その時。


「…………」


「ソフィア?」


 さっきまでとは打って変わった、ソフィアの睨みつけるような視線がゴードンに向いていた。

 普段のソフィアなら怒りどころか、他人には戸惑い以外の感情を見せることなどあまりないから珍しい。


 だが、あまり歓迎できる感情でもなさそうだ。


「どうした? 怖い顔になってるぞ」


 周りに聞こえないよう、声を顰めて言うが、既にゴードンは別の話をしており、観客もそちらに集中しているので、こちらに意識が向くことはない。

 それを確認した俺の前で、ソフィアは滅多に出さない低い声でつぶやいた。


「あいつ、今ユーゴのことバカにしたんだし」


「………いや、冗談だったろ。場を明るくしようとしたんだって」


「ユーゴも気付いてるんでしょ? あいつの目、本気で言ってたんだし」


「…………」


 正直、ゴードンの視線の中に、見下す類のものがあったことは分かった。


 何度も見てきた目だった。子供達が魔族だとバレた時は大抵の場合、恐怖か侮蔑の目を向けられる。今までの経験から、そういった感情には一際敏感になってしまったのは自覚もしてる。

 だが、一番問題なのは、まだ善悪もまともに分からない子供達に、そんな理不尽を経験させてしまうことだ。

 それが自分に向けられるものであるなら、大した問題じゃない。


「ソフィア。いいって、気にすんなよ。元はと言えばこっちが悪い」


「それとこれとは話が違うんだし」


「だとしても。どうするつもりだよ? こんな場所で。喧嘩とか絶対ダメだぞ」


 今いるのは、他の人も大勢いる広場の一角。こんな場所で揉めたら野次馬が集まるだろうし、そうでなくとも喧嘩なんて御法度だ。

 怒りを発散するなら、少なくともこんな場所でやるべきじゃない。


「………揉めなければいいんでしょ?」


「ソフィア?」


 そう一言残して、ソフィアは一歩前に出る。その様子を訝しむように、周りにいた人々の視線がソフィアに集まる。話していたゴードンも、先ほどまで前に出るような様子の一切なかった子供の、その突然の行動に目を向けた。


 その場の全員が見守る中、ソフィアは少し笑い、もう一歩を踏み出し、そして――



「……………………え?」


 その場の誰もが、踏み出したところまでは見えていた。だが、その場の誰も、その後にソフィアを視界に捉えられなかった。


 ソフィアが歩き始めたかと思えば、次の瞬間には何の予備動作もなくその場から"消えて"しまったのだ。


 それは比喩でも何でもなく、幻覚でも見ていたのかと思えるほどに、跡形もなく姿を消した。


 目の前で起こった理解不能の現象に、惚けた声の次には悲鳴が起こり、パニックになりそうな観客たちがあたりを見渡す。


「お、おい、上だ!」


「!!」


 その時、誰かの声が示した方向を反射的に見た観客たちは、皆一様に目を見開いた。


 観客もゴードンも、その視線の先に確かにソフィアを捉えた。だが、その顔は消えたと錯覚した時と同様に、驚愕に染まったまま硬直する。


 人が消えることと同じくらい、目の前の光景が信じられないものだったのだから、その反応も致し方ないだろう。


「ひ、飛行魔法だと!?」


 ゴードンの言葉の通り、ソフィアの体は宙に浮かびながら、地上にいる人間を見下ろしていた。そしてそれは、ゴードンが大衆の目の前で行った空間魔法を超える衝撃をその場にもたらす。


 飛行魔法は、空間魔法と同じく、魔法の難易度で言えば最高クラスに高いものだ。空に浮いている間、複雑な術式を発動させ続けなければならないということで、必要になる知識量と魔力量が尋常じゃない。


 数十万人に一人とも、数百万人に一人とも噂される使い手の少なさから、それを習得した者はその後の人生を保障されるとまで言われるくらいだ。


「バ、バカな………そんなことが……」


 先程まで得意気な顔をしていたゴードンが、今は信じられないものを見た衝撃で固まっている。


(いや、"見続けられている"ことが、信じられないのか)


 空間魔法と飛行魔法は、どちらが難しいかと聞かれれば様々な答えが出る。空間魔法の方が難しいと言う人もいるし、逆に飛行魔法の方が難しいと言う人もいる。


 だが、基本的に魔法とは、実用的であればあるほど難易度が高い傾向にある。誰もが使えるような魔法であれば効率のいい運用方法などもあるだろうが、空間魔法と飛行魔法はその対象じゃない。


 《数メートル移動する空間魔法》と、《飛び続ける飛行魔法》なら、間違いなく後者が選ばれるだろう。


 空間魔法を操っているということは、ゴードンが相当魔法に精通している証拠でもある。だからこそ、その衝撃は計り知れない。


 それに――


「………ち、ちょっと待て。まさか、飛ぶ前に消えたのは、空間魔法か?」


「正解なのだし!」


「!!?」


 ゴードンがそれに気付き、二度目の驚愕を受けた直後。確かに俺の頭上あたりにいたソフィアの姿は、一瞬にしてゴードンの背後に回っていた。


 それも、飛行魔法を続けたまま。


「なっ! は、はあ!? ま、魔法陣も無しに、飛行魔法と空間魔法を!?」


 素っ頓狂な声をあげ、ゴードンは信じられないといった様子でソフィアを凝視する。


 俺は見慣れてるからあまり分からないのだが、ソフィアがするこれはやはり常軌を逸したものらしい。


 そもそも、実用的というのなら、孤児院からキージャまで飛んだあれも空間魔法だ。数メートルの移動で拍手が起こるような魔法の、数十キロ版といえば、その規格外がわかる。


「ふふんっ、どんなもんだし!」


 いつの間にか、俺の隣に戻ってきたソフィアが得意そうな声でそう言ったのを最後に、少しの間沈黙が流れる。


 だが、その静寂が長く続かないことは、火を見るより明らかだ。


「……………す、すげえええええ!!!」


 観客の方から声が聞こえ、それを引き金に割れんばかりの喝采が沸き起こる。

 それは、先ほどのゴードンへのものを超える賞賛の証だった。地鳴りかと思うほどに空気が震える熱狂に、ただ圧倒される俺の横で、ソフィアが呆然とした表情をしている。


 ………いや、お前がやったんだろ。


「ど、どどどどどどどどうしようユーゴ。ち、注目されてるのだし!?」


「当たり前だろ」


 少なくとも、この場にいてソフィアに注目しないことなど不可能だ。あれだけの高等魔法を連発しておいて、何を今更。


「…………え……えっと…………あぅ」


 顔を真っ赤にしながら、オロオロし始めたソフィアが、救いを求めるように俺の手を握る。


 まあ、流石にこれ以上、不本意な注目を集めてしまうのはかわいそうだ。

 自分で蒔いた種とはいえ、元は俺のために怒ってくれたことが原因だし、今の感情としては、やっぱり呆れより嬉しいのが断然大きい。


「……ありがとな」


 握られた手を強く握り締め、もう片方の手で荷物を持ちながら、俺はソフィアにだけ聞こえるように囁いた。

 周りの大声にかき消されたか心配だったが、ソフィアの反応を見るに杞憂だったようだ。


「………へ、へへ」


 一瞬目を見開いたかと思えば、みるみる口角が上がり、照れたようにソフィアが笑う。こうゆう素直なところが、ソフィアの一番の魅力だと俺は思う。


「んじゃ、気が済んだんなら帰ろう」


「うん!」


 ソフィアの手を引き、人を掻き分けて熱気が残るその場から離れようとする。買ったものに不足はないかだけ頭の中で確認していると、


「お、お待ち下さい!!」


 俺たちを呼び止める声が聞こえた。


 振り返れば、焦って駆け寄るゴードンが息を荒げながら走ってくる。やばい。怒らせたかな?


 けど、俺の心配を他所に、ゴードンは歓喜と興奮に満ちた声で俺に懇願してきた。


「そ、その子を、私に預けていただけませんか!? 勿論、相応のお金は払いますから!」



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