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大切に育てた子供達は大陸を滅ぼしかねない存在でした 〜最強の魔族が支えるスローライフ〜  作者: 達磨 紺紺


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挨拶…………あいさつ?

 一瞬前までいた地下室から転移した先にあったのは、広く開けた草原の真ん中だった。


 空間転移魔法には、基本的に二つの魔法陣が必要だ。その一つ一つが空間同士を繋ぐ扉のような役割を果たす。


 今回飛んだのは、【キージャ】という、この国で有数の栄えた街の、近くにある草原だ。もっと小さい集落にも行くことができるが、将来的にこいつらが都市部と田舎、どちらでも生活できるようにいろんな場所に行く事にしてる。


「んー! いつ来ても外は開放的なのだ!」


「ほら。人に見られる前に、その耳隠せ」


「おっと、忘れてたのだし」


 そう言って、頭に付いている耳を両手で覆うと、一瞬閃光が走ったかと思った次の瞬間には、ソフィアの頭についていた狐の耳は完全に消えていた。


 "ある理由"から、人間の世界では魔族の存在はタブーとされている。そのため、人のいる場所に入る前には絶対に人間と見た目を合わせなければならない。


 とはいえ、こうして擬態さえすれば外見から魔族だとバレる心配はほぼないので、そこまで萎縮しすぎるのもこいつらのためにならないだろう。堂々としてた方が怪しまれないし。


「よし、じゃあ行くか!」


「おう! なのだし!」






                 ********




 検問を済ませて街に入ると、まずその規模の大きさに圧倒される。首が痛くなるほどに高い建物、名前も知らないような種類豊富な食べ物を売る露店。服装や言葉も違う人々が、楽しそうに行き交っていた。


「いつ来ても、凄いな、ここは」


「クックックック。矮小な人間どもめが。精々妾の聖域に入らぬよう心がけるのだな」


「何を言ってるんだお前は」


「んにゃああああ!!」


 頭をくしゃくしゃと撫で付ければ、ボサボサになった髪を急いで整えるソフィア。狐のくせに鳴き方が猫なのは少し笑える。


「とりあえず、この薬草をアドウィンさんのとこに売りに行くか」


「ううぅぅー、ユーゴはもっとうちが女の子であることを意識するべきだし」


「今更何言ってんだ。行くぞ」


「むうぅぅ〜〜」


不満そうな顔をしながら、俺の後ろからポコポコと背中を殴ってくるソフィアを連れて、俺達は大通りを進んでいった。




しばらく歩くと、目当ての場所である薬屋に着いく。派手さの無い木製の建物は、入る人に圧迫感を感じさせないシンプルな作りになっていた。


扉を開いて中に入ると、数人の客が棚に並んだ薬を吟味しているところに、奥の受け付けから声が飛んできた。


「あら、ユーゴ君じゃないの! お久しぶりねえ」


「ご無沙汰してます。アドウィンさん」


 この店の店主である初老の女性、アドウィンさんは、俺たちが採ってきた薬草を買ってくれるお得意さんでもある。

 薬草を売るとなった時、色々と教えてくれたのも、初めて買ってくれたのもこの人だった。だから、俺と孤児院の子供達にとっても、この人は頭が上がらない存在だ。


「あら、今日の付き添いはソフィアちゃん? また大きくなったわね」


「っっ、……あ、………う、うぅ……………ご、……ごぶ………ごぶさた………なの………だしぃ……」


 顔を赤くして、俯きながらも何とかそう伝え切るソフィアが、モジモジと指を弄る様子に苦笑する。

 ソフィアはうちの六人の中でも特に内気な性格だ。家の中では普通に喋れるが、赤の他人とのコミュニケーション能力はまだそこまで高くない。

 けど、初めの頃は喋ることもできなかったのだから、これは大きな進歩と言ってもいいだろう。


 少し評価が甘くなってしまうのは自覚しているところだが、孤児院の子たちの、こういった成長がどうしようもなく嬉しくなるのは育ての親の特権だ。


「よく言えたな。偉いぞ」


「!! んへへへへ。と、当然なのだし!」


 先程よりも優しく頭を撫でてやれば、調子に乗って少し胸を張ったソフィアが満面の笑みでそう答える。それを見たアドウィンさんも同じように表情を緩め、少し興奮気味に言った。


「もうー。本当に良い子ねえ、ソフィアちゃんは。うちのバカ娘にも見習ってほしいわ!」


「ちょっと母さん? 聞こえてんだけど」


「あら、テンリ聞こえてたの? いつまでも親に甘える穀潰しって」


「そこまでは聞いてねえよ」


 アドウィンさんの声に反応するように、奥から長身の女性が出て来る。

 栗色の長い髪を三つ編みで束ね、切れ長の眼が印象的な気の強そうな人だ。男のような口調だが、リリスと張るくらい盛り上がってる胸囲には自然と目線が吸い込まれてしまう。


「お? ユーゴ君じゃん。久しぶり」


 この人と俺は歳が近いため、仲良くさせてもらってると思う。もう三十歳手前なのに嫁の貰い手が無いとはアドウィンさんがよくする愚痴だが、こんな綺麗な人が売れ残るだなんて世も末だ。



 そう。こんな綺麗な人が、俺に話しかけてるんだ。今。



 …………返事、しないとダメだろ。



「…………あ……あう………お……お久し………ぶり……………ですぅ………」


 言った! 言い切った!!


 やっぱり、若い女性と話すのはどうしても緊張する。ここ十年くらい、うちの奴らとしかまともに接してこなかった影響が出てしまうのは仕方ない。けど、今回は大分自然に挨拶できたんじゃないか!?


「かっかっか! 相変わらずウブだねぇあんた!」


「こら! テンリ、やめなさい!」


 そう言って豪快な笑い声を上げながら背中をバンバン叩いてくるテンリさんは、そのまま背後に回り、俺の肩に顎を乗せる形で身体を預ける。近い近い近い!


「聞いてよユーゴ君。最近母さん見合いの話ばっか持ってくんだよ。そーゆーのいいって言ってんのにさぁ」


「何言ってんの!? あんたくらいの歳なら、もう子供産んでたっていいくらいなんだから!」


「だぁから、男ってなんか気持ちわりぃのばっかでよぉ。……あ、じゃあユーゴ君。私とケッコンするか?」


「んごっ!?」


 突然の爆弾発言に、俺の思考は一瞬飛び、心臓が早鐘を打ち始める。一旦落ち着こうにも、肩に顔を乗せられてるだけなのに、体は金縛りにでもあったかのように動かない。


 結婚など、考えた事もなかった。孤児院のことで忙しかったし、何より俺なんかと結婚してくれる人なんかそうそういない。


 冗談だと分かっていても、そう言ってもらえるだけで舞い上がってしまうのは色々と拗らせすぎなのだろうと自覚してるところだ。


「ねぇ、どーする? 後悔はさせねえよ?」


「ひゃっ! いや、じ、じじ冗談はっ、………やめっ、て………くだひゃい…………」


 ………………やっちまった。


 噛み噛みの言葉。恐らく真っ赤になっているであろう顔。焦っていると一目でわかるほど一切余裕の無い俺の反応は、客観的に見てもかなりキツイものだったと思う。歳も二十七のいい大人が、こんな事で声が裏返るなどどう考えても気持ち悪い。


 しかし、テンリさんの反応は、俺の想像とは違ったものだった。一瞬目を見開いたかと思えば、次の瞬間には口角を上げ、頬を少し紅潮させながら視線を鋭くする。あまり見たことはないが、それは肉食獣が獲物に狙いを定めた時の眼を彷彿とさせるものだ。

 動けないでいる俺に、テンリさんはさらに体を密着させ、俺の耳元までその綺麗な顔を持ってきて話す。


「………やっばぁ。ユーゴ君のそれ、ドストライクかも。からかうつもりだったけど、やっぱり――」


「ユ、ユーゴ! 何デレデレしてんの! パン買わないとなんでしょ!? もう行くのだしぃ!」


 テンリさんの誘惑に必死に耐えているところに、ソフィアが腕をグイグイ引っ張って距離を取らせた。

 助かったような、少し残念なような感慨を胸に抱きながら、そのままソフィアの手に引かれるがままにその場を後にする。


「あっ、アドウィンさん! テンリさん! 毎度ありがとうございます! また来ます!」


 店を出る直前、後ろを振り返ってそう声をかければ、アドウィンさんがテンリさんの頭をぶん殴っている様子をバッチリ見てしまって少し気まずくなった。



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