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大切に育てた子供達は大陸を滅ぼしかねない存在でした 〜最強の魔族が支えるスローライフ〜  作者: 達磨 紺紺


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六人の子供達


 夢を見ていた。



 遠い遠い昔の夢だ。



『ユーゴ!』



 自分を呼ぶその声に、何より安心した。



 誰よりも大切な友達だった。



 いつも一緒に、暗くなるまで遊んでた。



 その子のことが大好きだった。



 周りと同じ、どこにでもある普通の友情。



 きっとこの先もずっと、一緒に歳を取って、変わらない関係が続くんだって、




 そう、思ってたんだ。






 それが壊されたのは突然だった。



 いつもの様にその子と遊んでいた時、その子が被ってた帽子が風に飛ばされ、帽子の下にあった、隠されていた『角』が周りに見られたからだ。





 そこから、周りの人達の態度が変わった。





 あらゆる場所、あらゆる時間に、その子の家には大勢の人が詰めかけた。


 罵詈雑言を吐きかけ、石を投げる。幼いながらに、見慣れたはずの場所を違う世界の様に感じていた。


 一番信頼していた両親ですら、もうあの子とは関わっちゃいけないと、今まで見たこともないくらい怖い顔で言われた。



 そしてすぐ、その子の家族が村から出て行った事を知り、あれだけ仲が良かったのに、別れの言葉すら無かったことに深く傷ついたのを覚えてる。


 けど、そんな心の傷も、悪い意味で長く感じていられなかった。


 その子が村からいなくなってから、住人の怒りの矛先は、その子と仲が良かった俺に向いたから。


 そこからの悪夢は、出来ればもう見たくもないくらいに酷いものだった。


 誰も彼もが、俺を見る目に悪意を乗せる。それに言いようのない、言葉にできない恐怖心を抱いていた。

 それも当然だ。まだ七歳だった俺には、何もかもが、何一つ理解できていなかったんだから。



 そう、当時は分からなかった。



 大人になれば、理解できると思ってた。



 あの悲しい別れには、恐ろしい敵意には、何かどうしようもない理由があるんだって。



 そして――









 大人になった今でも、あの頃あった理不尽の意味を、理解できずにいる。






                 ********






「……んん」


 窓から朝日が溢れる、いつもより少し遅いくらいの時間に目が覚める。

 微睡の中で体を起こし、少し前まで見ていた夢の内容を朧げに思い出しながら、自身の女々しさを呪った。


 既に二十年近く前の出来事をいつまで引きずっているのか。あの子だって、もう覚えちゃいないだろう。


 それでも今まで、この胸の喪失感が消えたことはない。


 だから俺は――


「んみゅう〜」


「……………」


 ふと、隣から気の抜けた声が聞こえ、反射でそちらに視線を向ける。


 まず目についたのは、美しい金髪だった。

俺の茶髪とは違い、耳が隠れる程度のショートヘアで整えられた髪は、太陽の光を反射してより輝いて見える。その下には、まだあどけなさを残した未完の美貌が静かな寝息を立てていた。

 しかし、視線を横にずらすとそこには、逆に大人の女性ですら羨むほどの豊満な脅威の胸囲が――



「……待て待て、現実逃避には早いわ………」



 衝撃的な光景に完全に覚醒した頭で、今の状況を整理する。少なくとも、昨夜は確かに一人で寝たはずだ。


 俺は一度視線を外し、再度確認のために隣を見る。先程と変わらず、一人の少女が一糸纏わぬ姿で気持ちよさそうに寝ていた。

 分かっていても頭を抱える。第三者が見たら完全に事後だ。


(……大丈夫だ。自分を信じろ。俺は何もヤってない。酒だって飲んでないんだ。記憶もしっかりしてる)


 第一、こんな状況も初めてじゃない。犯人は分かりきってる。

 一度深呼吸をして、朝から強烈な目覚めを提供してくれた奴にどう説教してやろうかと口を開いた、その時、


「ユーゴぉ、飯出来たぞ? いつまで寝てん――」


「…………あ」


 ノックもなしに現れたのは、その真っ赤な髪を後ろで束ね、威圧感のある体格をした大男。ただ、彼が人族でない事は、額にある尖った角を見れば一目でわかる。


 人に比べて、いや、多くの種族が存在するこの世界の中でも、腕力という面で突出した才を持つ種である、『鬼』の証だ。


 まずいと思った時には既に遅い。彼はその頬を髪と同様赤く染め、文字通り鬼のような形相で、家が揺れるほどの大音量で叫んだ。


「何してんだユーゴオオオオオオオオオ!!」


「俺じゃねえよ!」


 俺の魂の叫びは、悲しいかな、誰の耳にも届く事なく鬼の声に呑まれて消えた。






                 ********




「ったく、風紀乱すようなことすんじゃねーよユーゴ」


「だから説明したろ。あれはリリスが入ってきたんだって」


「えーだってユーゴとヤリたかったんだもん」


「リリス、貴様には品というものがないのか?」


「品とか以前の問題じゃ! 主ら、儂のユーゴに手を出すなとあれほど言っておろうが!」


「お前のでもないであろう、シーナよ。ユーゴは妾と前世から愛し合っているのだから」


「君達、食事の時くらい少し静かにできないのかい?」


 ダイニングにある大きな丸テーブルを囲むように、七人が座る。それはよく見られる家族としての団欒だが、明らかに他とは違うところがあった。

 同じ卓を囲み、同じものを食べ、同じ時を過ごし、同じ会話に花を咲かせているその全員が、種族の異なる存在であることだ。


「だって全然手ぇ出してくれないんだもん。こんなドスケベボディーしたエロい女そうそういないよ?」


 悪びれる様子もなくそう言い放った《リリス》は、自身の豊満に実った胸を両手で持ち上げ、その質量をアピールした。

 今は一応服を着ているが、『サキュバス』の本質なのか、俺の部屋に侵入する時は必ず全裸だ。


「我の話を聞いてなかったのか?食事中に話す内容では無いと言ってるだろう」


 薄い水色の髪をストレートに伸ばした《ハクリエル》、通称ハクが、その切れ長な瞳を細めてリリスに軽蔑の眼差しを向け、クールビューティーな印象を一層強める。

 これが、世にも珍しい『龍人』だということは見た目では分からない。一見すると普通の人間にしか見えないくらいだ。


「小娘が! ユーゴと添い遂げようなど百年早いわ! こやつは儂のものじゃ!」


 この中で、俺を除いた最年長であり、唯一の成人、つまり二十歳を超えてるのが、見た目はどう見ても最年少の《シーナ》。

 長寿として知られる『エルフ』のためか、未だに幼女と言って差し障りのない姿だった。新緑のような髪を振り回し、人より長い耳を真っ赤にしながら癇癪を起こす様は保護欲すら刺激する。


「クックック。ユーゴ、もうはっきり言ってやればよかろう。妾との盟約があるから、お前達には興味がないとな」


 左目に眼帯をつけ、その白い髪をかきあげながら無駄なポージングをとって話す《ソフィア》は、偶に何の話をしてるのか分からない時がある。

 前世だの盟約だの邪眼だのと言った話は大抵分からんが、それでも頭の両側にある『狐』の耳をパタパタさせて、上機嫌だと言外に語っているのは、言葉よりよほど分かりやすい。


「ったく、朝っぱらから盛りやがって。同じ家に住んでんだから節度は守れや」


 朝、起こしに来てくれた《ギン》が、呆れた様子でとても常識的なことを口にした。この中で一番威圧感がある癖に、一番まともな感性を持っているのがこいつだったりする。


「それには僕も同意見かな。確かにリリスは自由すぎるよね」


 そして最後の1人、吸い込まれるような漆黒の瞳と、同様の髪。人間離れした中性的な美貌を持つ《アルフレット》には、偶にまだ少年であることを忘れそうになる程の色気を感じる。

 けど、美しいからこそ、その氷のように冷たい視線を向けられたリリスへのプレッシャーは尋常じゃなかった。


「家族とはいえ、男女の違いはある。距離が近すぎるのも問題だよ。あんまり度が過ぎると……分かるね?」


「ヒッ!………や、やだなぁ、あははは!………ご、ごめんてアルフ! 気をつけるからぁ!」


 早々に敗北を受け入れたリリスに満足したのか、アルフは朝食のパンに視線を戻した。こんなやりとりも初めてではないが、なかなか改善する様子はない。しばらくしたらリリスはまた同じ事をするだろう。


「ううう………別にいいじゃんかぁ。前までは私、ユーゴと一緒に寝てたんだから」


「もうそんな歳でもないじゃろうが。成長したのは身体だけか?」


「シーナ姉は身体も成長してないじゃん」


「あ゛ぁ!? 表に出るのじゃ小娘ぇ!!」


「ボケ共があ! 飯時に騒いでんじゃねえぞ!」


 いつも通りの朝の喧騒に耳を傾けながら、目の前の光景を見つめる。


 一人一人、出会った頃の様子が重なり、いい意味で変わった姿に目頭が熱くなるのを感じて一度目を瞑った。


 本当に、元気に育ってくれたと思う。"こんな世界"で、世を恨んだことだってあるだろうに、真っ当に生きてくれた。


 変な感傷に浸っていると、不意にギンが思い出したように声を上げた。


「おい、ユーゴ。そろそろパンとか買いに行かねーと。もうあんま残ってねえぞ」


「あー、そっか。ついでにこの間採った薬草も売りに行かないとな。次の当番って誰だっけ?」


 この家は山の奥にあるため、周りは深い森に囲まれている。そしてこの辺りには食べられる薬草や動物が多く、庭では野菜も育てているから食べ物には困らないが、流石に主食となるパンや日用品は、一度人間の街に降りて買わなければならない。


 街には保護者として俺が毎回ついて行ってるが、他は一人ずつ当番制となっており、前回はギンが一緒だった。


「妾だ」


 俺の問いに答えたのはソフィアだった。無駄に不遜な態度で胸を張るその姿は、保護者としては微笑ましく思う反面、将来人間の社会でやっていけるのかと不安にもなる。


「ああ、ソフィアか。よろしくな」


「フン! 妾を使いに出すとは、仕方のない奴等だ」


 面倒臭がってると取れる発言だが、その耳はパタパタと嬉しそうに揺れる。余程街に降りるのが楽しみなんだろう。


「あ、ソフィア嫌なの? 私変わろうか?」


「…………へ?」


「待て、そうゆうことなら我が行こう」


 そこで、成り行きを見守っていたリリスとハクが言葉を挟む。呆気に取られたようなソフィアはポカンとした表情だが、その間にシーナまでもが話に入ってきた。


「何を言っておる! 貴様ら、ユーゴとデートしたいだけじゃろ!」


「そうだけど?」

「そうだが?」


「なっ!? そ、それなら儂が行く! 貴様らがデートなど百年早いわ!」


「いやいや、もう何回もしてるし、それにシーナ姉が行ったら絵面が危ないじゃん」


「全くだ。親子と言うにも無理がある。犯罪にしか見えん」


「き、貴様ら……好き放題言いおって! 儂だって何度も行っておるわ!!」


 ヒートアップした会話はとても割り込める感じではなかったが、ここでようやく我に返ったソフィアが慌てて声を上げた。


「ま、待て待て! お前らはこの間行っただろう!? こ、今回は妾の番で――」


「無理して行くことないよ? 私が代わりに行ってあげるから」


「やかましい! 小娘共が! 儂が行く!」


「だから我が行くと言ってるだろう。チビとビッチは引っ込んでいろ」


『あ゛ぁ!?』


 女三人寄れば姦しいとは言うが、四人揃って喧嘩しなかった試しがない。買い出しなんて普通は嫌がるものなのに。


 それでも、先程まであんなに楽しみにしていたソフィアが流石に気の毒に思えてきた。素直にならないところは少し悪い気もするが、それはソフィアの個性でもあるので今のうちは尊重したい。


「う、ううぅぅぅう〜〜〜っっ!」


 現に、ソフィアが目に涙を溜めながら唸り、次の言葉を探すように視線を迷わせる。恨めしそうな視線を喧嘩してる三人に向け、何かを我慢するように両拳を握る。そして――


「う、うるさああああああああああい!!う、うちが行く! 行くんだもん! ユーゴと買い物いくのだしぃ!!」


 その目に涙を溜め、握った手をブンブンと振り回しながら感情を爆発させた。





                 ********





「くふふふふふふふふっ」


「………ずいぶん機嫌がいいな」


「!? は、はあぁ!? ぜ、全然良くないのだし!」


 直前まで満面の笑みを浮かべていた顔を赤くし、そう否定の言葉を紡ぐソフィアは、いつものような喋り方を忘れていた。朝食の席では軽く騒動があったが、結局ソフィアが行くことになった。


 売るための薬草が入ったカゴを背負った俺たちは、家の地下にある部屋に移動し、そこに描かれている魔法陣の上に並んで立つ。これは転移魔法用の魔法陣で、特定の二点間を移動する為のものだ。

 街までは馬車でも数日かかるほど距離があるが、この転移魔法を使えば数秒で行けるのだから、魔法の利便性には舌を巻く。


 ただ、これを起動させるにはソフィアかアルフの協力が必要だった。今回同行するのはソフィアだからそのまま行けるが、他の奴だったら術式を起動させるために二人のうち一人に手伝ってもらわなければならない。

 こう見えてソフィアは多彩で、複雑な術式をすぐ覚えたり、大抵のことは一発で出来てしまう器用な奴だった。


「じゃあ、ユーゴ。気をつけて」


「おー、アルフ。留守番お願いな」


「おい、うちには何も無しか?」


 唯一の見送りであるアルフに対し、ソフィアが不満げに文句を言う。他の面々は、その日に割り振られた家事をこなすためここにはいないが、アルフの要領の良さはその中で飛び抜けて一番だから問題ないだろう。


「ん? あぁ、じゃあ一つだけ」


 そう言ってソフィアの耳元に口を近づけ、何かを囁くアルフ。何しても絵になるなぁこいつ。ソフィアも見てくれは整ってるし、側から見たら美男美女のカップルだ。学校に通ってればさぞかし羨望の的だったと思う。


 ただ、その空間の美しさとは対照的に、話を聞いていたソフィアの体が一瞬ビクッと跳ねたかと思うと、次の瞬間には顔から一気に血の気が引いていた。


「どうした? ソフィア」


「なっ、ななななな! 何でもないのだ! 早く行くのだよ」


 語尾変わってんぞ?


 急に慌て出したソフィアは気になるが、まぁ結構よくある事だ。流石にもう慣れたし、気を使う間柄でもない。ソフィアが何でもないというのなら、あまり詮索するのもよくないだろう。


「ユーゴ。今日はどこに行く?」


「今日は【キージャ】に行こうか」


「承知したのだし!」


 ソフィアが魔法陣に手を添え、そこを起点に光が走る。その光が瞬く間に俺達を包み、一瞬の浮遊感を感じた次の瞬間には、俺たちの体は別の場所に移動していた。






                 ********





「鬼畜じゃのう」


 二人がいなくなった地下室に、先程までいなかった人物の声が響く。黄緑色の髪をした少女のような見た目のエルフは、腕を組みながら部屋の入り口で壁に背を預けていた。


「流石。長い耳は伊達じゃないね」


「茶化すな。お主、ソフィアに言ったことはどこまで本気じゃ?」


 シーナの目には、先程までの緩んだ雰囲気は既に無く、剣呑とした声に乗る殺伐とした空気が肌を刺すようだった。今にも攻撃を繰り出しそうなシーナに、しかしアルフは慌てる素振りもなく話す。


「多分勘違いしてると思うんだけど、僕は君達の事は好意的に見てるよ。大切な家族としてね」


 その言葉はどこまでも自然に語られているように感じるし、嘘とは思えない。それこそ、先の言葉を聞いていなかったら、シーナも何の疑問も持つことは無かっただろう。


「まぁ実際、お主の言葉に嘘はないんじゃろうが………むしろそれ故に、儂はお主が理解できんよ」


「シーナ。僕は『悪魔』だよ? 人の常識で考えない方がいい」


「……それ、ユーゴには言わんのか?」


「言葉には気をつけなよ」


 その言葉が発せられた直後、部屋中を禍々しい魔力が覆った。制御されていなければ、上の家ごと粉々に破壊できるほどのエネルギーが部屋中に広がり、魔力の扱いでは他の追随を許さないと言われるエルフのシーナが、圧倒的な威圧感に冷や汗をかく。


「彼は僕をある程度理解してると思ってる。けど、多分この家で一番僕を理解していないのはユーゴだ。そして僕は、わざわざそれを訂正する必要もないと思ってるよ。……ここまで言えば、分かるね?」


 何の罪禍も感じさせず、そう話すアルフレットに対し、シーナは身の毛がよだつ思いだった。親代わりのユーゴに対し、本性を見せる必要はないと堂々と宣言してみせた目の前の男は、まだ十四歳の子供のはずだ。が、その異様な笑みからは得体の知れない悍ましさを感じずにはいられない。


「………歪んでおるのう」


 苦笑いを浮かべるシーナに、魔力を引っ込めたアルフレットが、先程の自身の言葉を思い出し、嗤う。

 その顔は確かに、ユーゴの前では一度だって出したことのないものだった。



『ユーゴに何かあったら、君を殺す』



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