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ライバーさんとの甘い罠  作者: 困ったクマー


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part 51 森の独白

【森視点】


最近の配信を見ていると、

弓さんの声はちゃんと明るい。


笑い方も、

新しいリスナーへの反応も、

一見すると前よりも滑らかで、

“配信者としての弓”は前進しているように見える。


ただ、その画面のどこにも、

俺の居場所はなくなりつつある。


 


前は、

コメント欄に俺の名前が流れるとき、

ほんの一瞬だけ空気が変わった。


視線が止まる感じとか、

言葉を選ぶ間とか、

そういう小さな揺れで

「ああ、こっちを見てくれてるな」とわかった。


今はそれが、ほとんどない。


他のリスナーと同じテンポで拾われて、

「そーなんだ」と流されて、

次の話題の踏み台みたいになって消えていく。


頭では理解できる。

枠全体のことを考えれば、

俺ひとりに引っ張られないほうがいい。


それでも、

心のほうはそう簡単には整わない。


 


俺は、弓さんが好きだ。


それはもう、否定しようがない。


ただ、今までの人生で

自分が“好きになるタイプ”として想定していた人物像とは

だいぶ違っている。


価値観も、

生活のリズムも、

物事の優先順位も、

ほとんど重ならない。


「ちゃんと考えてから動く派」の俺と、

「動きながら考える派」の弓さん。


正直なところ、

合うはずがない組み合わせだと思う。


それなのに、

一度心を許したというだけで、

ここまで引きずられている。


(好きになる理由は説明できないくせに、手放す理由ばかり増えていく)


 


俺は、

人と関わるときの“釣り合い”を気にしてしまう。


どちらか片方だけが

時間や気持ちを差し出し続けている状態を見ると、

長くはもたないと分かっているからだ。


お互いさま、でいたい。


どちらかが我慢している時間が長くなるほど、

その関係は形を変えてしまう。


弓さんと話しているときも、

その感覚だけは手放さないようにしてきたつもりだ。


 


最初の頃は、

まだバランスが取れていた。


配信のあとに少しだけ電話をしたり、

お互いの弱みをこぼし合ったり、

聞く側と話す側が

ゆっくり入れ替わっていく感じが確かにあった。


「今、大丈夫?」


その一言が届くたびに、

時間を分け合っている実感があった。


俺も、

そこに応えたいと思っていた。


 


けれど、

あるところから傾き始めた。


配信中の態度が、

わずかに硬くなる。


俺にだけ向けられていた視線の揺れが消えて、

名前を呼ばれる回数が減っていく。


それだけなら、

新規を優先しているんだな、と

無理やり解釈することもできた。


実際、それは必要なことだ。


だから、

「こうしたほうがいいんじゃないか」と

何度か喉まで来た言葉も飲み込んだ。


俺は配信の管理人じゃないし、

弓さんの上に立ちたいわけでもない。


あくまで一人のリスナーとして、

必要以上に口は出さない。


そう決めていた。


 


そこに、刈り上げくんが現れた。


彼の言葉は、

耳ざわりのいい意見だけじゃなくて、

きちんと枠全体を見ている提案が多い。


「枠のため」という言葉が、

ちゃんと実感を伴っている。


それが、余計に堪えた。


俺が以前に

言おうとしてやめたこと。


弓さんが嫌そうな反応をしたから

深追いしなかった部分。


そこを、

彼は軽やかに踏み込んでいく。


弓さんはそれを受け入れて、

少しずつ態度を変えていく。


「なんで俺のときは、

 届かなかったんだろうな」


そんな思いが、

じわじわと染みていった。


 


いちばん苦しいのは、

変化の理由を説明されないことだ。


「森さんにはこうしようと思う」


その一言があれば、

きっと受け入れられた。


枠のことを考えるなら、

俺が一歩引くほうがいい場面もある。


そう言われれば、

ちゃんと身を引く準備だってできた。


「嫌だからやめてほしい」


そう言われたっていい。


痛いけれど、

まだ筋は通っている。


なのに、

何も言われないまま態度だけが変わっていく。


こっちから理由を探しに行って、

そのたびに“しつこい側”に立たされる。


気づけば、

俺だけが弓さんに依存しているように見えてしまう。


それが、一番つらい。


 


ほんの少しのズレが、

取り返しのつかない亀裂になる。


それを俺は知っているから、

今の状態がどれだけ危ういかも

敏感に感じ取ってしまう。


(気づかなければ、

 もう少し楽だったのかもしれない)


 


本当は、

ここで完全に離れるのが正しいんだと思う。


連絡も、

配信も、

全部一度切ってしまえば、

心はそのうち別の形を覚えていく。


過去に、

そうやってドアを閉めたこともある。


閉めたドアは二度と開けない。


それが俺なりのやり方だった。


 


でも、弓さんにはそれができない。


ここまで散々振り回されて、

理解されないままで、

それでも会えば、

手を伸ばしてしまう。


理屈じゃない。


恋だと簡単に呼ぶには

どこか違うし、

単なる欲望とも少し違う。


壊れているとわかっている場所に、

自分から戻っていく。


それでも、

そこで触れる温度を

まだ捨てきれない。


(自分でも呆れるくらいに、未練がましい)


 


彼氏を作ろうと思う。


弓さんからその言葉を聞いたとき、

予想していたよりも

冷静でいられた。


俺には家族がいる。

それは最初から変わらない事実だ。


だから、

弓さんが“ちゃんとした形”を求めるのは

当然だとも思う。


ただ、

俺の知らないところで

すでに話が進んでいたことだけは、

腹のどこかに重く残った。


気づいたときには、

俺の入る余白なんてほとんどなくて、

既にレールが敷かれていた。


 


それでも、

会えば抱きしめる。


抱きしめてしまう。


キスをすれば、

弓さんは抵抗しない。


それが許される関係じゃないことくらい、

何度も自分に言い聞かせてきたのに、

身体だけが別の答えを出してしまう。


次にいつ会えるかもわからない。


職場や家の予定を考えれば、

きっと何ヶ月も先になる。


そのあいだに関係がどう変わるかもわからないのに、

それでも会う予定を入れてしまう。


だったら、

ここで全部終わらせたほうがいい。


そう思う瞬間は、

一度や二度じゃない。


 


弓さんはきっと言う。


「今のままでいいじゃん」


今がどれだけギリギリなのかを知らないまま、

そう言うと思う。


その無邪気さが好きで、

その無邪気さに何度も傷ついている。


 


好きなのは、たしかだ。


人として認めている部分と、

どうしても認められない部分が

入り混じっている。


何度考え直しても、

この関係に筋の通った答えは見つからない。


それでもなお、

完全には手放せないまま、

今日もまた画面を開いてしまう。



(名前のつかない感情が、

 細い綱の上で、

 まだ落ちずに立っている)

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