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ライバーさんとの甘い罠  作者: 困ったクマー


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Part10 静かな夜のまんなかで



[弓視点]


配信を終えて、ふうっと息を吐いた。

椅子に座ったまま、天井をぼんやり見つめる。

今日は……やっぱり、ちょっと特別だったな。


いつもなら、配信が終わった直後は

「やりきったー!」

みたいなテンションでスマホを放り投げるんだけど、

今日は違う。


なんとなく、胸の奥がざわざわしている。


(……ふつうに、楽しかったんだよな。)


昼間、山を一緒に歩いたのが大きい。

別に恋とかじゃなくて、

ただ、ああいうゆったりした空気を

“文句も言わず、ぐいぐいもせず、勝手に距離詰めもしないで”

一緒に歩いてくれる人なんて、ほとんどいない。


(そういう意味では……森さんみたいなタイプ、ほんと珍しい。)


他の男性リスナーは、

すぐ誘ってきたり、

自分語りをかぶせてきたり、

「会える?」って軽く言う人もいた。


わたしはそういうのが本当に無理で、

距離を守ってくれないと、

一気に心が閉じてしまう。


女として見られると慎重になるのは、

自分に自信がないからだ。

自分がどう見えているのか想像してしまって、

恥ずかしくて、気まずくて、

ああムリムリムリってなる。


だからこそ、

森さんみたいに

必要以上に踏み込まず、

気を遣って接してくれる人は……

正直、かなり安心する。


(今日も……なんか、自然だったし。)


わたしが財布忘れたときも、

「どうしよ……」って半泣きになったのに、

怒ったり呆れたりしなかった。

しっかりしなよ、って言われたら

心が折れてただろうけど、

あの人は言わない。


「大丈夫。無事に帰れればそれでいいですよ」

って、静かに言った。


その言い方が……すごく救われた。


(でも……それがダメなんだよな、わたし。)


優しくされると、

すぐ心が揺れる。

ほんとはそんなつもりじゃないのに、

勝手に期待したりして……

そのあと自分で自分を責める。


だから距離をとる。

深呼吸する。

“落ち着け、ただのファンだよ”

って自分に言い聞かせる。


わたしは配信者で、

向こうはリスナーで、

それ以上でも以下でもない。


(……わかってるよ。わかってるけど。)


今日の山だけは、

なんか話が別だった。


空気がよかった。

風が気持ちよかった。

歩きやすかったし、

黙ってても変じゃなかった。


(今の彼氏とは……絶対ないな。)


すぐ文句言うし、

人の趣味に興味ないし、

山も歩かないし、

“すごいね”の一言も出てこない。


プライドだけ高くて、

自分からは何も始めない。

気持ちは……もう、ほぼゼロ。

嫌いとかじゃなくて、

ただ、

別れる理由が見つからないだけ。


(理由がないなら別れられないって……自分でも意味わかんないけど。)


そうやって曖昧に生きているのが、

わたしという人間なんだと思う。


変わりたいけど変われないし、

離れたいけど離れられない。


でも、

今日だけは、

ちょっとだけ望んでしまった。


(……一緒に歩くの、もうちょっとしたかったな。)


それが恋なのか、

ただ居心地がよかっただけなのか、

答えは分からない。


ただ──


森さんがぐいぐい来るタイプじゃないから

安心して楽しく過ごせたのは

間違いじゃない。


むしろ、あれ以上近づかれたら、

多分わたしは逃げてた。


(……だから、ちょうどよかったんだよ。)


LINEを開く。


『よかった。

 またね。』


この二行が、

わたしの心を“守ってくれた”感じがした。


冷たくもなく、

優しすぎもしない。


ちゃんと距離を置いてくれて、

でも雑には扱われてない。


(ありがと……。)


返事は送らない。

送れないというより、

送らなくていいと思った。


こういう距離の取り方が、

たぶんわたしたちには一番合っている。


電気を消して、ベッドに横になる。


窓の外の風の音が、

昼間の山の空気を思い出させる。


(……たのしかったな。)


それだけで、十分だった。


明日になればまた、普通に配信をする。

森さんも普通に来て、

軽くコメントして、

わたしも笑って、

それで終わり。


それが一番いい。


それを壊したくない。


「……おやすみ。」


目を閉じると、

今日の景色が静かに浮かんで、

ゆっくり溶けていった。



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