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陰陽師盲愛奇譚  作者: 彩月野生
一章【鬼神に取り憑かれし者】
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第七話〈蓮〉


 泰正は冷静になるように気をつけて、感情を出さぬ様に注意した。


「朝から奇遇ですな。昨夜はとんだ失礼を」

「いいえ。私も不躾でした。申し訳ない。しかし意外でした」

「何がでしょうか」

「貴方が想う人がいるとは。今年いただいた文の筆跡から分かりましたよ」

「……」


 花祭りは、平安京を四つの領に分けた時期と同じく、清明が消えてから始めた、まだ歴史の浅い祭りではあるが、大事な祭事である。


 やり取りをする文は、花祭りの際に燃やす決まりとなっていた。

 英心の眼からは逃れられない。

 仕方なく肯定の意を示す。


「見苦しいものをお見せして申し訳ない。しかし、英心殿がこんな子供じみた件に興味を抱くとは意外ですな。ましてや恋などと縁があるようには見えませぬ」


 嫌味を添えてやると、英心は肩をゆすり、口元を吊り上げた。

 珍しく嫌悪感をむき出しにした様子に、

 泰正は緊張する。


「あっさりと認められるとは、貴方らしくもない。余程強く想われているのでしょうね」

「ま、まあな……」

「……」


 急に黙り込む英心が陰鬱な表情で睨んできたが、一瞬で温和な顔つきに戻り、空気が和らぐ。


「ではまた」

「……はあ」


 踵を返し立ち去る後姿を見てもまだ心臓は静まらず、しばし空を見上げて落ちつかせてから帰路を急いだ。


 五条内にある屋敷に戻ると、男子は目を覚ましており、顔色も良さそうでひとまずは安心である。 

 彼の額には小さな赤い花が咲いていた。

 言葉を交わすための術符だ。

 千景が施したのであろう。

 男子はおずおずとかしこまり、深々と頭を垂れる。所作からするに、礼儀正しい性格のようだ。


「助けて頂いて本当にありがとうございます」

「うむ。大体の事情はわかる」

「先程千景さんにお聞きしました。僕のような人々を助けられていると」

「決して誰にも言わぬように」


 男子は頷くと「僕はれんといいます」と名乗り、指示通りに魔鏡師の格好に変装し、どのような職なのかを熱心に勉強した。


 幸い蓮は飲み込みが早く、三日目にはあらかたの概要を理解していた。

 泰正は花祭りの最大の見せ場である、舞の調整で忙しいので、千景に任せきりだ。


 その舞のにぎわいに紛れて蓮を“主”に預けるのだが、蓮はある人を探しているというので特徴を訊ねると、予想外の人物と一致して困惑する。


 その特徴は、ある貴族が可愛がっている、男子そのものだったのだ。

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