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陰陽師盲愛奇譚  作者: 彩月野生
二章【愛憎の果てに】
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第八話〈蓮と久遠〉


 蓮は千景に部屋に通され、お茶を出してくれた彼女と向きあって座り、泰正の状況を話した。


 話を進めるうちに、千景の目はだんだんと輝いて、ついには潤み、嗚咽をもらしながら手元を両手で覆う。


「泰正様は、ぶ、無事なのね……!」

「はい。今は主の元で保護されてます。状況が落ちついたら、また、会えますよ。安心して下さい」

「あ、ありがとう……! 貴方のおかげね……!」

「え!? 僕は間に合わなかったし、晴明さんが助けてくれたから」

「何言ってるのよ? 貴方がとっさに鏡を使ってくれたからじゃない! 本当に……本当にありがとう!」


 力強く手を握りしめられ、何度もお礼を言う彼女に、蓮は参ってしまう。

 千景を落ちつかせると、今後について話をつけた。

 今は泰正が生きている事実を伏せて、目立たぬように過ごす事、晴明の式神が護衛につく事、英心には極力近寄らず、泰正の話題には触れぬように忠告する。


 蓮は、“先輩”を止めるべく、足早に立ち去った。


 今頃は、英心が先輩の元に向かっているはずだ。

 和泉氏の屋敷に急ぐ。


 同刻。和泉氏の屋敷には、紫倉宮英心が乗り込み、主人を追い詰めていた。

 主人は怒気をまとう英心に怯えきり、部屋の隅で縮こまりながら、涙目で訴えている。


「そんな男子など知らぬ! 知らぬのじゃ!」

「貴殿が傾倒していたあの男子をしらないとは!? 何処へ逃したのかを答えよ!!」

「ひいっ」


 部屋には結界を張り、誰も助けに来られない状態にしてあるが、それでも話そうとしない主人に苛立った。



 蓮は、和泉氏の屋敷の様子を、外から確認しつつ、辺を見回して、裏門へと回る。

 程なくして目的の人物を見つけた。

 桜の木の下で、妖艶に微笑んでいる。


 ――見つけた……やっと……!


「先輩……!」

「やあ。蓮、こうして顔を合わせるのは久しぶりだね」


 相変わらず、何を考えているのか分からない目をした人だ。

 蓮は慎重に近寄り、様子を伺う。


 先輩の唇がゆっくりと開かれて、心臓がどくりと跳ねた。


「お前の存在価値をなくしてやるから、覚悟しとけ」

「……っ」


 穏やかな声音に聞こえるが、憎悪が込められているのを、本能が感じ取り、蓮は息が乱れて、胸元を押さえた。

 身体が動かないのに気づき、目を一瞬離した隙に、先輩の姿は消えてしまっていた。


「……久遠先輩」


 蓮は、悔しさを込めて声を絞り出し、宙を見つめた。




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