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陰陽師盲愛奇譚  作者: 彩月野生
一章【鬼神に取り憑かれし者】
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第十三話〈鬼の声〉


 英心は、式神の結縁を呼び、泰正を見張るように言いつけると、両の手の平を開き、見据えて長い息を吐くと、顔を振って屋敷を出た。



 座敷に残された泰正は、人形の式神に導かれ、湯殿に向かう。

 この日は湯に入るべきではないのだが、触られたのもあるし、入るしかない……それに、泰正は庶民と同じように、あまり占いの結界を気にしてはいないのだ。


 どうやら英心も同じだと確信する。

 貴族は、陰陽師が占った通りに従う日々を過ごしているので、風呂も決まった日にしか入らないが、庶民や泰正のような一部の陰陽師は、然程気にしていない。


 それは、庶民や陰陽師達は、占いで決められた日以外に行動したからといって、滅多に邪気が入って死んだり呪われたりしないと、身を以て知っているからだ。


 湯殿は、通常貴族が使用しているのだが、紫倉宮程の陰陽師一族であれば、屋敷に造られていてもおかしくない。

 泰正の屋敷には、貴族が使うもう一つの

 “風呂殿”蒸し風呂があるが、それは弟子の千景の為に、わざわざ後から増築したものだ。


 どうやら英心の屋敷には、その蒸し風呂もあるようだが、指示されたのは湯浴みなので致し方なし。


 成人男性一人ですでに窮屈な、この湯殿の中で肌をさわり、ため息をついた。


 あまりにも、貧弱である。 

 程よく筋肉はついているが、何せ細過ぎる。

 ふと、長い髪が顔に張り付くのが不快で顔をふった。

 普段は髻をして烏帽子をかぶっているからか、癖がついて波打っている。

 帝に言われた“禍々しい”という言葉が、脳内に蘇った。


 ――私は、目つきが悪いからな、英心のような、人好きのするはっきりした目鼻立ちでもないし……人並みに整った顔立ちはしているが、このツリ目は人を嫌な気分にさせる。


 たがら、帝は泰正が宿す鬼神の事ではなく、泰正自身を嫌悪している――そう信じたかった。


 ――だが、もはや何の違いがあるのだ?


『そうだ、違いなどない』


「お前!?」


 鬼神がはっきりと声を上げた。

 泰正の脳内だけに語りかけるだけにとどまらず、これは、周りの人間にも聞こえてしまうだろう。


「……ぐ、ぐはっ」


 泰正はこみ上げる寒気と胸の痛みに、血を吐いた。


 ――同化だ!


 両親が施した術に、泰正が強化をして鬼神を抑え込んでいたが、とうとう限界を迎えたのだ。


「ん、ぐ……っい、いかん!」


 泰正は、這いずって戸口に向かい、式神に声をかけた。


「結縁!」


 呼びかけると、すぐに戸口が開け放たれ、結界が張られ、女の式神が目を光らせて泰正に向かって声を張り上げる。


「泰正! 貴方はやはり、鬼に――」 「賀茂忠行殿を呼んでくれ! 頼む!」

「!? な、何故ですか!?」

「結縁、主人を守りたくば、黙って従うのだ……!」

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