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死に戻りの処方箋  作者: 沢野 りお
終焉と始まり

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薔薇の色

無事に王都の学園を卒業した私と兄、アンリエッタは、アルナルディ子爵領地に戻り住み慣れたオンボロ屋敷でお茶をのんびりと楽しんでいた。

思いもかけず淑女科の優秀生徒として表彰してもらった私は、高位貴族家の侍女や王宮での女官など高額報酬が望める就職先が目白押しだったにも関わらず、この貧乏領地へと戻ってきた。


「本当によかったの? フルール様にも誘われていたんでしょ?」


「ええ。私に未来の王妃の侍女は務まらないわ」


そもそも、そんなに固苦しい生活なんて送りたくないし、王宮なんてオレリア並みの悪人が湧いて出てくる魔窟よ。


「私よりお兄様よ。勧められたのでしょ? 王宮専属の薬師」


私の言葉になぜかアンリエッタがギクリと体を固くしたが、兄は呑気にカップを傾けていた。


「僕だっていやだよ。そんな恐ろしいところに貧乏子爵子息が放り込まれたら、いい様に使われてポイッさ」


そして兄の返答にアンリエッタが深く息を吐く。


「ねえ、アンリエッタ……」


あなた、なぜそんなに兄のことを気にするの? と続けようとしたセリフは父の悲しいため息に消されてしまった。


「お父様?」


「父上?」


「……かわいい子供たちが王都での勉学を終えて戻ってきたのは嬉しいけどね。そんなに貧乏、貧乏と連呼しないでほしい」


あら、ごめんさない。

私と兄は互いに顔を見合わせて、首を竦めて笑った。


「しかし、サミュエルが夢魔病の薬を作るとはね……驚いたよ」


「まだ薬は完成していません。なんとか病状を押さえこむ飴ができただけです」


兄が作った夢魔病の薬(飴)は体内で作られた魔力を吸収し体外に出す効果はあるが、作られる魔力の量を抑え込む効果はない。

しかし、体内のどこで魔力が作られているかがハッキリわかれば、その器官にアプローチする薬を作り出すことは可能だろう。


その熱意に燃えている兄の手元には、オレリアから送られてきた一通の手紙がある。

――その手紙には、夢魔病の薬に関する様々なヒントが書かれていた。


前の時間で兄が完成させた夢魔病の薬……あれはオレリアの協力があって完成したものだったのかもしれない。

なぜミレイユ様を人質にするために薬を作るのに協力したのか? 彼女の心の中に善性がまだ残っていたのか……。

もう、真実が彼女の口から語られることはないだろう。


「この薬を完成させるためにも、母上の温室が必要ですから」


ニッコリと長い前髪で口元しか見えない兄は笑い、チャラチャラと音を鳴らして襟元からペンダントを引き上げる。


「父上。母上から戴いたこのペンダントですが、この薔薇のチャームの色に意味があると聞いていましたか?」


父は兄のようにペンダントの鎖を手繰り寄せ、薔薇のチャームを見つめる。


「ああ。聞いているとも。少し気恥ずかしいがね」


父が頬を赤らめてヘラヘラとだらしなく笑う。


「私の薔薇は黒薔薇。サミュエルは緑。えっと……シャルロットは青だったか? 彼女は赤」


私も自分の首を飾っているペンダントを服の中から出し、薔薇のチャームを手の平に置いた。

アンリエッタが隣でモゾモゾとしている。

父は背後の壁に飾ってある母の肖像画に目を細め、懐かしそうに語りだした。


「カティンカの赤は愛情を意味していて、彼女から贈られた私の薔薇は黒。これは永遠の愛を意味している」


ちょっと照れくさそうに笑ったあと、ゴホンと咳払いをして父は、兄へと視線を向けた。


「サミュエルは希望を持つとの意味がある緑、そしてシャルロットはあれ? 青……青? ああ、青は奇跡や神の祝福という意味だった」


ポンと握った手で片方の手のひらを打つ父の姿に、私はスーッと視線を逸らした。

だって、私が母から貰った薔薇の色は本当は「白」だったもの。

前の時間で死んで戻ったら、「白」から「青」へと色を変えていた。

どうして色が変わったのか。

それが今、わかった気がするわ。

奇跡。そして、神の祝福。

青の薔薇の意味。


「お、お父様。白、白の薔薇はどんな意味がありますの?」


「そうなんだよね。カティンカはシャルロットに白い薔薇のチャームを贈るって言っていたんだけどな? ああ、白はね清純って意味だよ」


不思議そうに首を捻っていた父は私の質問に、にこやかに答えてくれた。

そう、私が最初に貰った薔薇にはそんな意味があったのね。


「ふふふ」


「シャルロット?」


「お兄様。この薔薇は家族の印。大事にしましょうね」


ギュッと薔薇のチャームを握りこんだ私に兄は優しい微笑みを向け、父は涙声で爆弾発言をする。


「そうだね。家族の印だね。アンリエッタは何色だったけ?」


「へ?」


ギュルンとアンリエッタへと顔を向ければ、顔を真っ赤にしたアンリエッタが両手に何かを握りんこんでいた。


「ア、アンリエツタ」


「ち、違うのよっ。こ、これはおばさまが……」


アンリエッタの手の中には母から贈った薔薇のチャームがあることは疑いない、そして兄の爆弾発言が続く。


「ああ、父上。僕とアンリエッタの結婚式のことですが」


「「ええーっ!」」


兄とアンリエッタが婚約していたなんて聞いてないけど、なんでアンリエッタまで驚いた声を上げているのよっ。

私とアンリエッタは互いの顔を見合わせて、口をパクパク開けるだけで声にならなかった。

そのときアンリエッタの手からはオレンジ色の薔薇のチャームが転がり落ちた。



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