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死に戻りの処方箋  作者: 沢野 りお
暴く

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悪女の狙い

「本当に?」


兄の静かな声が部屋に響く。


「本当に、あなたはこの国を利用してヴォルチエ国を滅ぼそうと思ったのですか? 本当にそんなことができると?」


真っ直ぐに自分を見つめる兄の視線から逃げるように、オレリアは顔を横に向けた。


「確かに。第二王子の計画が奇跡的に成功しても、第一王子を差し置いて王太子になるにはまだ障害があるわ」


私は兄へ確認するように話す。

第二王子が目出度く王太子になっても、戦争を仕掛けるなら王位を継がないと厳しい。

例え王になったとしても、有能な臣下たちは意味のない戦争など許すはずもない。

彼女の一生をかけても戦争など起きず、祖国に復讐することもできない可能性が高いわ。


「ふふふ。わからないわ。あの国を滅ぼしてしまいたいと思ったのは本当。でも……あまりにも過ぎた願いだとわかってもいたわ。国では出来損ないと笑われた私が、この国の第二王子や貴族子息たちを操り、密輸で私財を肥やしていた伯爵までも手玉に取ってやった。捨てた私がどれだけ優秀だったが、教えてやりたかった」


ギュッと両手を固く握る彼女の姿から、悔しさと恨みが噴き出してくるのが目に見えるようだ。


「僕はね、君が僕の研究している薬を見て笑ったことを覚えている。そして、そんな誰でも作れる薬なんてやめなさいと言ったことも。君は僕にもっと難しい病気を治す薬を作ってみないかと誘ってきたことも」


兄が彼女を見る目は厳しいままだ。


「そして、君が妹のシャルロットを気にしていることにも気づいていた。君……本当はアルナルディ家を狙っていたんじゃないのかい?」


……え?

オレリアの狙いがヴォルチエ国への復讐ではなくて、私たちアルナルディ家だった?


「ふふふふ。おもしろいことを。なぜ私が貧乏領地の経営で息も絶え絶えなアルナルディ家を、わざわざ潰そうとするのかしら?」


「君が第二王子を操って王妃の座を望まないからさ」


兄はフンッと鼻で笑い、カップを手に取る。

そう、第二王子は第一王子の婚約者よりも高位貴族の令嬢と婚約することを望んでいた。

その令嬢は夢魔病に侵されたモルヴァン公爵家の令嬢ミレイユ様しかいない。

ミレイユ様と婚約すれば、第一王子の親友であり側近のイレール様も自分の側近にすることができると企んでいた。


……前の時間でもオレリアは第二王子と手を組んでいても、愛を交わす相手ではなかったような?

オレリアは監視役として兄と結婚していたし。


「王妃の座も第二王子にも魅力は感じないわ。別にあの男は薬である程度は操れるのだし」


「でも、自分が権力を持つほうがいいだろう? 本当にヴォルチエ国との戦争を仕掛けるなら、王妃の座は必要だ。君が孤児だったとしても、今のようにジョルダン伯爵の養女なら問題はない。その気になればもっと高位貴族の養女にだってなれるだろう。薬を使えばね」


兄は顔を隠すように伸ばしていた前髪を掻き上げ、素顔を晒す。


「君は復讐するにはヴォルチエ国は大きすぎることを理解していた。だから、小さなヴォルチエ国を破壊することにしたんだ。母親がヴォルチエ国の貴族だったアルナルディ家をね」



















小さなヴォルチエ国?


「お兄様。それはいくらなんでも。お母様はヴォルチエ国の出身でも魔法を自在に使っているところなんて見たことないですし。私やお兄様も魔法は使えないのでしょう? だったら、彼女と私たちの立場はそんなに変わらないのでは?」


「そんなことないでしょ!」


兄の発言に異を唱えていると、急にオレリアがテーブルを両手で激しく叩き立ち上がった。

私は驚いて彼女の顔を見上げる。


「あんたたちと私が同じ? ふざけないでっ! あんたの母親は自分から望んであの国を出たんだ。魔法も使えないつまらない男と結婚するために。あんたたちは魔法使いの子供のくせに魔法も使えない出来損ないだ。お前なんて魔力があることも気づかない。そんなあんたたちと私を同じだなんて言わないで!」


フーフーと肩で息をする彼女に、私は驚いて何も言うことができなかった。


「妬ましかった?」


「!」


兄の言葉に過剰に反応する彼女に、私にもなんだか彼女の気持ちがわかってきたかもしれない。


能力がないだけで家族から国から捨てられた少女。

他の子供のように、もっと幼ければ新しい場所で新しい夢を持って生きていくことができただろう。

でも、彼女は家族を恋しがり、国に帰りたかった。


心から渇望するその場所を、自ら進んで捨ててこの国に来て、結婚し子供を産んだ男爵令嬢。

その子供たちも、自分と同じ能力なしの出来損ないなのに、家族と一緒に幸せに過ごしている。

オレリアが歪んだのは、私たちアルナルディ家の存在だったのか。


「間違えるな、シャルロット。それは彼女の弱さで僕たちの責任じゃない」


ギュッと兄から手を握られて、私はハッと目が覚める思いがした。


そう、そうよ。

私たちの境遇が似ているようで違うのは、私たちのせいじゃない。

そんなことのために、前の時間で兄が処刑され、父が死んで、私が愛する人の目の前で崖から落ちていいはずがない。

全ては彼女の妄執が生んだ悲劇。


「オレリア。あなたが声をかけなければ第二王子はそのまま第一王子の弟として臣下として生きていけた。その側近たちだってそれぞれ貴族として歩いていけた。あなたがバラ撒いた薬のせいで、人生が狂ってしまった人が多すぎるわ」


「その目的が、僕たちの家への嫌がらせだなんて、迷惑すぎるよ。君はその命でもって責任を負うのだろうけど、巻き込まれる人たちがかわいそうだ」


第二王子を始め、その側近や薬に手を出した貴族子息や騎士見習いたち……その将来は闇に包まれている。

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