表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死に戻りの処方箋  作者: 沢野 りお
暴く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/68

第一王子からの招待状

兄は夢魔病について、症状を抑えるだけではなく完治させるべきと考えて、吸魔草の薬ができたあともいろいろと研究を続けている。


早々に卒業論文を完成させ、既存の薬の補助薬として大量生産ルートも確保でき、あとはニヴェール子爵のおじさまに丸投げすればいいとなった後は、変装してまでミレイユ様の病室に通っていた。


勢いついでに、「体が診たい」とミレイユ様に申し出て、モルヴァン公爵家の使用人とイレール様に羽交い絞めにされたのは笑い話だ。

本当にやめてほしい。

アルナルディ家の滅亡の運命を変えたつもりだったのに、別ルートで没落するなんて考えたくもない。


まあ、兄の言い分としては、魔力を作り出している器官が体のどこかにあるはずだから、その器官の動きを弱める効果の薬を作りたいという気持ちが溢れだしたそうだ。

だから、「体が診たい」とは発言したが、別に夜着を着ていても問題はなかったとか。


いえいえ、お兄様。

未婚の淑女が例え相手が婚約者だろうとも、夜着姿を見せるわけないでしょ!


「ねぇ、アンリエッタ?」


「ひえええっ。あ、そう……そうね。そう……サミュエル様は診察のつもりだったのよね。あー、よかった」


……アンリエッタも挙動不審なんだけど?


「もう、お兄様はもう少し気をつけてくださいね。公爵家にとって子爵家なんて簡単に踏み潰せるのですから」


貧乏子爵家であれば、公爵家はそれはそれは簡単にひょいと潰せます。


「ああ、気をつけるよ。ミレイユ嬢の魔力の流れは確認させてもらったからね。それを参考に魔力を弱める効能の薬を考えているんだ」


「あら、サミュエル様。魔力を弱めるだけでよろしいの?」


「アンリエッタ。元々魔力のない体なら魔力は必要ない。でもミレイユ嬢は魔力がある体で生まれついた。夢魔病を発症したのは、魔力が強すぎた、もしくは多すぎたせいだよ。害のある魔力をすべて消してしまった場合、ミレイユ嬢の体に齎す影響はわからない。だって彼女は元々魔力がある体で生まれたのだから」


兄の説明では、魔力がある体から魔力すべて奪った場合、体の機能に障害が出ることを危惧しているとわかった。

血液が流れている体から血液を奪ったり、代わりに水を流しても、体に及ぼす影響は甚大で命に関わる。

魔力も同じようだと考えている、と。


夢魔病の患者を助けるためには、魔力を消す効果ではなく弱める効果が必要なのだろう。


「お兄様、頑張ってくださいね」


「ああ。シャルロットが未来を変えてくれたから、僕はこれからも病気と向き合って薬を作っていくことができる。ありがとう」


ニコッと笑った兄の顔に、私は胸が詰まる思いでポロリと涙を零した。



















イレール様から手紙が届いたその日の夜に、学園からしばらくの間休校する旨の通知が届いた。


在校生である第二王子やその側近、取り巻きたちが疑いをもたれ王宮内に留め置かれていることと、騎士科の生徒を中心に例の麻薬が流通していたことを受けて、学園でも独自の調査を開始することになったらしい。


私とアンリエッタは、学園に通っていた目的をほぼ達成したので、このまま学園を去っても問題はない。

兄は卒業論文は提出済で、卒業に必要な試験も合格済のため、このまま通わずに卒業資格証明書だけもらえば終わりとのこと。


「……終わったのかしら?」


オレリアの狙いがなんだったのか、この事件の深いところまではわからなかったけれど、兄が処刑されることもなく、アルナルディ家の屋敷が燃えることも、父が死ぬこともない。

私がイレール様と結婚することもないし、崖から落ちて死ぬこともない。

いつのまにか疎遠になってしまっていたアンリエッタは隣にいるし、なんだか彼女と兄との距離が縮まっている気もする。


ぼんやりとサロンの窓から庭を見て紅茶を飲んでいる私に、屋敷の執事が恭しく一通の手紙を差し出した。


「私に?」


「はい。シャルロット・アルナルディ子爵令嬢様宛でこざいます」


……父からではないわね。

真っ白い封筒の質が悲しいかな我が家で愛用している封筒よりも格段に高級品だった。

ヒラリと裏を見て驚いた。

この封蠟は……。


「まさか……王家から?」


この国の貴族なら見慣れている、見慣れているけれども恐れ多いこの印章は、王家のものだ。

私はまだ部屋に残っていた執事に兄とアンリエッタを呼ぶように頼み、丁寧に封を開けていく。

そこには一枚の便せん。


「王家からの呼び出し?」


第一王子ジュリアン様の名前で、明日の午後に王宮に登城するようにと簡潔に書かれていた。

なぜ、フルール様やイレール様からでなく、ジュリアン様からの呼び出しなのだろう?

しかも兄ではなく、シャルロット・アルナルディへの呼び出し。

無意識に眉間に寄ったシワをツンツンと兄に突かれた。


「あ痛」


「そんなに難しい顔をしてどうしだんだい?」


私は無言でジュリアン様からの手紙を兄へと渡す。

兄の背中からちょこんと顔を出してアンリエッタも手紙を読んでいく。


「……なにこれ? なぜ、シャルロットが呼ばれたの?」


「さあ?」


この手紙はもしかして罠なのかしら?

まだ、前の時間で起きた悲劇は終わっていない?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ