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死に戻りの処方箋  作者: 沢野 りお
暴く

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薬草と毒草

何がなんだかわからないという困惑顔の父を、半ば兄と二人で脅して聞き出した医師の名前は、聞いたことのない名前だった。

国の代表使節団の一員として参加している医師が有名でないなんてことがあるのか?


「でも、ニヴェールのおじ様もイレール様、フルール様も知らないのよ? 王宮に召し抱えられていてもおかしくないはずなのに」


「とにかく、父上からフェリエ子爵のご子息だったことは聞いたから、そちらに問い合わせてみよう」


兄が出した医師の消息を尋ねる手紙には、すぐに返事が届いた。

そこに書かれていたのは驚く内容で、父に報告したら「彼らしいな」と大笑いしていた。

どんな人なのだろう?

兄とアンリエッタで書かれていた場所へ赴くと、畑仕事に精を出す一人の男性が迎えてくれた。


「本当に……平民として農作業をしているのね」


アンリエッタの呆然とした言葉に私も頷いた。

彼は医師として望むべく地位を捨て、平民の女性と結婚し、小さな町で畑を耕し医師としても働いている。

高いお金で診る医師とは違い、民とともにある医師は町のみんなに愛されるだろう。


「いや、久々にクリスチャン・アルナルディから手紙がきて驚いたよ。しかも君たちがこんな辺鄙なところまで来てくれるなんて。大きくなったなぁ。君たちの母上であるカティンカ様の葬儀以来だね」


彼は懐かしそうに兄と私の顔を眺めたあと、悲しそうに眼を伏せた。


「作られているのは野菜と麦ですけど、もしかして薬草も?」


クンッと鼻を利かせ兄が問うと、彼は嬉しそうに自慢の薬草畑に案内してくれた。


「この町では風邪や腹下しに効く薬草で間に合うと思うが、いろいろと育てているんだ」


確かにアルナルディ家の領地でも見慣れている薬草もあれば、国営の薬草畑にしかない希少な薬草もあった。


「生きている間にカティンカ様とはもっと薬草の話を交わしていればよかった」


しゃがんで薬草の葉を手にとり呟いた言葉に滲む悔恨の思いに、兄と私は顔を見合わせて彼に協力を願うことにした。


最初は途方もない話、前の時間の話はしなかったのに、王位継承に纏わる企みと聞いて尻込みしていたが、昨今下位貴族子息たちの間で出回っている怪しい薬物に使われている薬草や、この国では知られていない毒草には興味を示した。


「それで私のところにきたのか。ふむ、昔、クリスチャンと一緒にヴォルチエ国に訪れたときに薬草をいくつか分けてもらっていたのは確かだ」


「その中で、いま話した効果のある薬草はありますか?」


「それが……、あの国と我が国では土壌が違うせいか、生育することはできなかったのだ」


ヴォルチエ国から持ち帰った薬草は、こちらの薬草園に移し育てようとして枯れてしまったという。


「そんな……」


オレリアたちの罪を暴く証拠となったはずなのに……。



















確実な証拠を手に入れることができなかった……と思ったのに。


「まさか、エドモン様が複数株持ち帰ってきていたなんてね」


兄には理解できた行動らしいが、私とアンリエッタは紛らわしいエドモン様の言い方に呆れてしまった。

彼は栽培用、保存用、研究用と少なくとも一種類につき三株から五株ほど手に入れており、その種や苗まで集めていた。


この国での生育は諦めたけれどその効能については研究を続けていて、薬の精製や改良、危険薬物への忠告など、自分に医学を教えてくれた王宮医師たちと密に連絡を取り合っているそうだ。


私たちはエドモン様に、イレール様の従者が手に入れた下位貴族たちが嗜んでいる怪しい薬物を渡し、使われている薬草の識別を頼んだ。

当然、ヴォルチエ国から持ち帰った薬草と照らし合わせてもらう。


その成分の分析途中で、私がフルール様の毒殺時期の早まりを不安視したため、エドモン様には王宮医師としての身分を第一王子から特別に用意してもらい、いざというときに備えてもらっていた。

そのため、オレリアたちがフルール様の毒殺として愚かな手段に出てすぐに毒の判別が可能だったのだ。


「使われた毒も下位貴族たちに出回っていた薬物も、すべてヴォルチエ国でしか育たない薬草だった」


アンリエッタの重々しいセリフに、兄は悲し気に眉を寄せた。


「毒とはいうが神経を麻痺させる薬草は痛みを和らげる効果が、中毒性のある麻薬も同様に精神の負担を減らし眠りを誘う効果があるのに」


それぞれ、病や精神的苦痛に苦しむ人を助ける薬草のはずが、悪人の手によって悪しき使われ方をしてしまったことを憂える兄に、薬を扱う薬師としての矜持を感じた。

そんな兄を誇りに思うのと、前の時間で違法薬物や毒物を作り出したとして処刑した人への憎しみが募る。

決して許しはしない。

前とは違い、この手の中にはあなたたちを追い詰める策も、心強い味方もいるのだから。


「で、どうするの、シャルロット? フルール様はご無事みたいだけど」


アンリエッタが王宮からの手紙から顔を上げる。


「フルール様のデュノアイエ侯爵家はこの好機を逃さないでしょう。必ずジョルダン伯爵家に捜査の手を入れて悪事を白日の下に晒すわ」


そしてジョルダン伯爵家とヴォルチエ国との関係が明らかなれば、ジョルダン伯爵家の養女になったオレリアの正体もわかるはず。


「あとは第二王子たちが罠にかかるのを待つだけか」


兄の言うとおり、あとはただ待つだけだ。

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