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死に戻りの処方箋  作者: 沢野 りお
暴く

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動き出した悪意

兄とアンリエッタと同じ馬車に乗って学園に行き、淑女科らしくマナーやダンス、時には手紙の書き方などを習う。

一日の授業が終われば、誘われるままに第一王子の婚約者であるフルール様とお茶を楽しみ、卒業論文の研究がある兄より先にアンリエッタと馬車でニヴェール子爵家の王都屋敷へ帰る。

兄が帰ってきたら一緒に夕食を食べ、サロンで一息。


そんな日常を繰り返していると、ある日私たちに王宮から手紙が届いた。


「……まさか」


緊張で震える手で封筒を持ち、これが断罪される私たちへの召喚状でないことを祈る。


「断罪って何よ? シャルロットもサミュエル様もまだ何もやってないでしょ?」


サッと私の手の中から手紙を奪い取るアンリエッタだが、その手紙も兄の手でササッと取られてしまう。


「まだって、僕たちは何も断罪されるようなことはしないよ」


苦笑する兄は、ピリリとペーパーナイフで封を開けていく。


「そ、そうよね。だいたい冤罪だったのだし」


前の時間で起きたことは、すべて第二王子、いいえオレリアによって仕組まれた罠だった。

今回は、まだオレリアの術中に嵌っていないし、時間も事件が起きるよりもまだ早い。


「早い……とは思うけど、でも前の時間よりも彼女たちの動きが前倒しになっているのよね」


私が時を戻ったせいで、前の時間で起きることに齟齬が生まれている。


兄は夢魔病の薬についての論文は書いてないし、表向き研究すらしていないことになっている。

アルナルディ家の領地にいて、ほんの少し我儘で貧乏子爵令嬢らしく、王都や王家にキラキラとした憧れを持っていた私は、王都の学園の淑女科に通っている。

しかも、前の時間のときの厳しい公爵夫人教育が功を成し、私の成績はなかなか良い。

イレール様とのことで仲違いしてしまったアンリエッタとは、今でも仲良しだしオレリアと戦う同士でもある。

正直、アンリエッタの実家、ニヴェール子爵家が営む商会からの情報は、とても重宝した。


その結果、兄の学園卒業から動くはずだった彼らが在学中から動きだすことになってしまったみたい。


「……まいった。シャルロットの考えたとおりだ。王宮での茶会でフルール様のカップに毒が盛られたらしい」


「「えっ!」」


毒?


「しかも、シャルロットが言っていたとおり、王宮の医師や薬師も知らない毒らしいよ。ちなみに毒を盛って犯人として捕らえられた侍女はその毒を服毒して死亡。毒はフルール様が王宮に賜ったはずの部屋の引出しから見つかった」


パサリと手紙を私の手の上に落として、厳しい目つきで虚空を睨む兄の姿に、私とアンリエッタは恐怖でゴクリと喉を鳴らした。



















前の時間での私は、公爵家で不当に扱われていて、公爵家以外の情報がまったく入ってこなかった。

意地悪なメイドに教えられたときには、兄の処刑日で罪状が「王太子妃の毒殺」だ。


本当なら、まだ数年先の未来の話だけど、オレリアがサミュエル・アルナルディというカードを手にすることができずに、何かに焦ってコトを進めようとしたら、もしかしてフルール様の毒殺は第一王子殿下との結婚より前に起きるかもと考えた。


オレリアが……隣国ヴォルチエ国から捨てられた子どもなら、その復讐のために我が国を手に入れようと画策しているなら。


「まずは、第二王子を手懐けて彼を王位に就けるために、邪魔な第一王子を排除する」


「ええ。その第一王子が王太子となるために必要なのは強い後ろ盾。それはフルール様との結婚で手に入れる」


アンリエッタの言葉に私が続けると兄がさらに言葉を重ねた。


「なにも結婚するまで待たなくてもいい。王太子妃となる候補の一人ミレイユ嬢は病に侵されている。フルール様を弑すれば他の令嬢を婚約者として表舞台に上げるまでに、第二王子が頭角を現しているってことか」


もちろん、そのときの第二王子の婚約者はミレイユ嬢であり、モルヴァン公爵子息のイレール様を自分の側近として縛り付けているでしょうね。


「そんなこと許さない」


ギリッと唇を強く噛んだ私は、手の上の手紙へ視線を走らせる。


「……やっぱり、毒を作るのに使った毒草は……ヴォルチエ国で栽培されているもの?」


「ああ。でもあの国は毒草として栽培しているわけじゃない。使い方によっては薬になる植物だ」


私たちは、ジョルダン伯爵家が密輸しているヴォルチエ国の薬草……中毒性の高い幻惑を齎す薬の原材料を知っている人物を探すことにした。

どうしてもジョルダン伯爵家やオレリアの罪を暴くために、ヴォルチエ国の薬草に詳しい人物が必要だったのだ。


だけど、わかっていたけれども、その人物を探すのには困難を極めた。

当たり前よね。

ヴォルチエ国は他国との交流を絶っている鎖国国家で、行き来していた人もいなければ母のように移住してきた人もいない。

捨てられた孤児たちも、そこまでの知識はなさそうだし。


母が生きていればと何度も思った。

そこで思い出したのが、アルナルディの父だった。

父は昔、王宮で文官として働き、例の特使としてヴォルチエ国へ訪れたことがある。

もしかしたら、誰かヴォルチエ国の薬草に詳しい人を知っているのでは?


兄と一緒に屋敷に慌てて帰り、父の執務室へと走り、息も絶え絶えにそのことを伝えると、父の答えはあっさりとしたものだった。


「医師が同行して、いくつかの薬草は持ち帰ったはずだぞ?」


教えて、お父様!

その医師のお名前を!

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