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死に戻りの処方箋  作者: 沢野 りお
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過信と誤解と特別な何か

ミレイユ様の第二王子への評価が低いのは、兄よりも爵位の高い婚約者をと望み自分に執着しているのと、何をするのも兄王子を意識していて、兄の親友のイレール様を自分の陣営に引きずり込もうと画策していることが原因らしい。


本来なら公爵家が歯牙にもかけない子爵家の私たちに、王族との関係など話す必要はないのだけれど、第二王子が私の兄であるサミュエル・アルナルディに興味を持っていると知って、幼いときのエピソードから詳しく話してくれた。


モルヴァン公爵兄妹の話を要約すると、でき過ぎた兄を持った弟の妬みが捻くれた結果、兄に対抗する能力もないのに張り合い、それでも兄より秀でることができず腐った挙句、周りが自分を過少評価していると疑心暗鬼になっている、と。


「それで側近の方も替わって、今の二人になったんですか?」


私の質問にイレール様は苦々しい顔で頷いた。

第一王子殿下の側近の方たちの中には、以前第二王子の側近候補として侍っていた者もいたが、いろいろと空回りする第二王子に助言したら、癇癪を起した第二王子に罷免されたらしい。

なので、王子たちと同世代の優秀な者は第一王子殿下の元へ集まり、第二王子の近くには世辞を言うのが取り柄の者しか残らなかった。


「でも、あの方はそれでいいと思っているの。残った方たちで十分ジュリアン様に対抗できると信じているのよ」


病に苦しんでいるとは思えない苛烈さで第二王子を罵倒するミレイユ様は、たぶん彼の婚約者候補として散々嫌な目にあってきたのかもしれない。


「どうしてですか? 正直そんなに爵位は高くないですよね?」


アンリエッタが首を捻ると、クツクツとミレイユ様は不気味に笑う。


「こら、ミレイユ。確かに爵位は高くないし、あいつらの能力もそこそこだ。問題は父親だな」


父親? 宰相様と騎士団長様よね?


「ああ、もしかして、父親が宰相位だから自分が宰相になれると誤解しているのですか?」


兄の言葉に私は驚く。

だって、そんなことあるの? 親から継ぐ爵位とは別なのよ?


「そうみたいだ。宰相の息子だから宰相。騎士団長の息子だから騎士団長。その二人が押す第二王子は王太子になれるだろうと」


「まさか……」


思わず呟いた言葉にミレイユ様が大きく頷いた。


「その、まさかです。あの方たちはそれを信じているの」


外交に強い家に生まれれば、教育として外交に必要なものを詰め込まれる。

それが法律だったり、財務だったりすることはある。

だから、あの家は法律に強いとか、外国語が達者だとか評価されるわけだけど、政治を担う役目は世襲制ではないわ。


「第二王子は自分の能力を見誤り、第一王子殿下を差し置いて王太子の地位、ゆくゆくは王位を狙っているの」


「そんな、ばかな」


アンリエッタが呆然とするのも無理はない。

ほぼ王政の国は長子継承を主とする。

そこに男子のみとか、王妃が生んだ子のみとか条件は付くことはある。

我が国は長子継承、男子優先としている。


第一王子殿下に瑕疵がないのに、第二王子が立太子するのは難しいと言わざるを得ない。

でも……前の時間では、第一王子殿下の両翼をもぎ取っていた。

婚約者であるフルール様と右腕となるイレール様を。


今回はどうするのかしら? やっぱりミレイユ様を人質にイレール様を縛るつもりなのか……でもイレール様と取引するためのミレイユ様を治す薬は存在しない。


王族の……第二王子の闇に誰もが口を閉じていたそのとき、そっと右手を挙げて兄が恐る恐るイレール様を呼ぶ。


「あのぅ」


「どうした? サミュエル殿」


イレール様に名前を呼ばれた兄は、ゴソゴソと姿勢を正しガバッと勢いよく頭を下げた。


「お願があります。どうかミレイユ嬢の手を握らせてください!」


「「ええーっ!」」


私とアンリエッタが同時に叫んだ。



















夢魔病。

兄がその病に興味を持つようになったのは、実際にその病に侵された人を見たときだった。

母と二人で領地の教会を訪れたとき、旅人のその人は粗末な寝具に横になり死んだように眠っていたという。


「見えた気がしたんだ……」


何を? と問う前に兄は切なそうに笑って自分の手をじっと見つめた。


「母も……亡くなった母もそうでした。僕はなぜか人に見えない何かが見えるのです」


「お母様も? 私……そんなこと知らなかったわ!」


母も兄と同様、人に見えない何かが見えるなんて、そんなこと教えてもらっていない。


「父も知らない。母が不思議な人だったのはシャルロットだって知っているだろう」


兄の眼に映る私が子どもが泣くのを我慢する酷い顔をしていて、恥ずかしかった。

兄と母が私と父とは違っているのは理解していたはずなのに。


アルナルディ家の屋敷の敷地の外れにある温室。

母が作らせた不思議な温室……あの温室は今は兄のためにある。

父は辿り着くことさえできず、温室の記憶もあやふやだ。

私は温室に入れてもらえるけど水やり以外の世話はさせてもらえない。

兄ではなく、温室にある植物たちに拒否されるからだ。


母は不思議な人。

そして、兄にもその能力が受け継がれている。

でも、それが夢魔病とどう繋がるの?

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