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死に戻りの処方箋  作者: 沢野 りお
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危険な調査

私たちは改めてアンリエッタが調べてくれた第二王子たちの調査書を眺める。

冷めてしまった紅茶を私が淹れ直したけど、アンリエッタがしょっぱい顔して「やっぱり別人だわ」とつぶやいたのは聞き洩らさなかった。


「だって、あなたが淹れたお茶ってば、渋かったんだもん」


「そ、それは、いつもはリーズが淹れてくれたから」


アンリエッタの指摘に、前の時間の自分のいたらなさに顔が熱くなる。

そこへ、のんびりとした声が聞こえてきて、私たちの気が削がれる。


「うう~ん。どの人も僕とはこれと言って接点はないけどなぁ」


兄が一枚一枚第二王子たちの調査書を丁寧に見ているが、所詮貧乏子爵家の嫡男では、同じ学園に通う学生以外の接点が見つからなかったようだ。


ディオン第二王子殿下、その側近で宰相の息子シリル・ロパルツ伯爵子息、同じく側近の騎士団長の息子、レイモン・コデルリエ子爵子息。

兄と結婚する謎の女性、オレリア。


「このオレリアって女性、本当に何者なの? 調べてもはっきりと素性がわからないのよね」


アンリエッタが、彼女の調査書を指で摘まみ、ヒラヒラと振ってみせる。


「前の時間では、シャルロットと交流はあったのかい?」


兄の気遣う視線に微笑みで返しながら、私は彼女のことを思い出そうと目を瞑る。


彼女と過ごした時間は、ごく僅かだった。

でも、私は彼女のことを「義姉」として慕っていたのだ。
















あの頃の私は、オレリア・ジョルダンと婚約しすぐに結婚した兄に腹を立てていたし、顔も知らない挨拶にも来ないオレリアという女性に不満を募らせていた。


でも、そのあとすぐに、ディオン殿下の紹介でデビュタントのエスコートをしてくださったイレール様との婚約話があり、夢みたいな出来事にふわふわと浮揚する心のまま過ごし、いつの間にか兄の結婚など興味を失くしていた。


私の住む子爵屋敷の古い応接室には、公爵家とディオン殿下からの使者が毎日のように贈り物を手に訪ねてきていたし、詰込みで始められた淑女教育に目を回していた。


そういえば、一緒に暮らす父は複雑そうな顔で浮かれる私を見ていたわ。

そんなときに、彼女と初めて会ったのだ。


彼女は兄の妻としてではなく、ディオン殿下の使者としてアルナルディ家を訪れた。

父と私はそのことに眉を顰めたけど、彼女の差し出した大きな宝石のアクセサリーに、言いたかった文句を飲み込んでしまった。

ぜひ、私の結婚式にと贈られたアクセサリーは私を有頂天にし、父は蒼褪めた。


父はその贈り物を分不相応としてディオン殿下へ返そうとして私と口論となり、生まれて初めて父から強く叱責された私は家を飛び出した。

今思い返せば、慣れない淑女教育で心が疲れていたのだろう。


庭の隅で声を押し殺して泣く私を優しい言葉で慰めてくれたのは、大嫌いだったはずのオレリアだった。

素直な気持ちで彼女と話をすれば、母を亡くした私の心の隙間を埋めるような包容力と、控えめで落ち着いた雰囲気、なによりも自分を尊重してくれる言葉に、止めようもなく自分の心が開いていくのがわかった。


兄は相変わらず王都から帰らず、手紙も寄越さなかったし、本当はイレール様との結婚に反対している父とは気持ちがすれ違ったまま、しかも無二の親友であるアンリエッタと喧嘩別れした私には、義姉であるオレリアしか相談できる人がいなかった。


彼女は、いつでも優しかった。

私から兄への手紙も贈り物も、すべて彼女経由で渡してもらっていた。


……本当に?


死に戻って、オレリアが第二王子と共にいる姿を見て、私はなぜか確信していた。

あの、恐ろしい企みに彼女は加担していたのではないか? と。


イレール様と結婚し、公爵家に閉じ込められ虐げられていたとき、私は何度も彼女を呼んでほしいと頼んだ。

でも、公爵家の使用人はその願いを叶えてくれることはなかったけど、あれは意地悪でオレリアに伝えなかったのではなく、彼女自身が私に会いにくるつもりがなかったのでは?


私の推測まで含めて話し終えると、アンリエッタはもう一枚の調査書を出した。


「シャルロットが彼女を伯爵令嬢だって言い張るから、こちらも調べておいたわ。ジョルダン伯爵家よ。ここは子どもができなくて養子に迎えた遠縁の男性がいる。オレリアなんて娘はいないわ」


「え……?」


「シャルロット。僕は彼女とは話したこともないけど、ある意味有名だから知っている。彼女は成績優秀者で平民出身のはずだ」


「へ……平民?」


オレリア・ジョルダンが平民?


「じゃあ、ジョルダン伯爵家に養女に入るのはこれからかしら? サミュエル様と結婚するから養女になるのか、第二王子の何らかの理由で養女になるのかわからないけど」


私はアンリエッタが差し出したジョルダン伯爵家の調査書を凝視した。


そう……そうよ、彼女は私の家族の話はよく聞いてくれたけど、一度だって自分の家族の話はしなかったわ。

私は今まで知っていたはずの彼女が、見知らぬ不気味な何かに姿を変えた気がして、寒気がした。


「安心して、シャルロット。今までの調査はあなたが結婚相手を探しているのかと誤解していたから、そっち方面ばかり調べていたけど、奴らの目的がアルナルディ家なら、別の角度から調べるわ」


むんっと腕を曲げてポーズを取るアンリエッタに笑いが零れたが、兄は難しい顔でスーッと片手を上げた。


「ちょっといいかな? どんな危険があるかわからない。第二王子たちの調査は止めておいたほうがいい」


「「えーっ!」」


「相手は、冤罪で人を処刑したり、貴族屋敷に火を放ったりする輩だ。身辺を探られていると知られたら何をするかわからないぞ」


ギラリと私たちを脅すように光った兄の眼に、私たちはゴクリと唾を飲み込んだ。


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