I 星の起源
そもそもソフィーから創造者について話を聞いた時から、おかしなところはあった。
『創造者はおよそ千年前に、ここ八星を作った人物だと言われています』
千年前に創造者が十個の星を一から作った。そんなワケがないだろうと。
だって、地球が出来たのは数十億年前だ。ゆづりが想像も出来ないほど遥か昔に、惑星からガスやらが衝突を繰り返して成形されたのが、今の地球だ。
そもそも千年前だと、日本では平安時代真っ盛り。すっかり人間たちが己の世界を作り出し、生活を営んでいた時代だ。
だから、千年前に星が作られたわけがない。中継場が生まれたというだけなら理解出来るが、星まで生み出したというのなら矛盾が生まれてしまっている。
ソフィーから創造者について話を聞いた時は、そんなことよりも衝撃を受けたことが多かったために、深く言及しなかった。だが、そろそろこれについての擦り合わせもしないといけないのだろう。
「ねぇ、ノア」
「……お、おう」
悠然と差し出される夕日を浴びて立ち尽くしていたゆづり。ノアはゆづりがただならぬ状況を醸していることに面食らっていたらしい。しばしポカンと口を中途半端に開けた後に、「なんだ」と静かに首を傾げた。
「創造者って本当に千年前に八星…十個の星を作ったの?」
「…どういう意味だ?」
「星が生まれた時代は、千年前で合ってるのかっていう質問だよ」
「え、そうなんじゃないのか」
ノアは唐突に始まった尋問に怪訝そうな顔はしたものの、肯定はする。
しかし、そこには確固たる確信はない。例えるなら、明日宿題あったっけと聞かれて、あるんじゃない?と適当に返すような、何となくそうだと信じているから頷いておくとでもいうような、軽い意思が見え隠れしていた。
これがただの雑談だったら、それで別に構わない。だが、今は困る。創造者の正体を暴くために必要なことなのだから、きちんとした返事が欲しい。
だから、ゆづりはしつこいとあしらわれること覚悟で、ノアに迫った。
「じゃあさ、千年前っていう数字は何処から来てるの?創造者が何か言い残したりしてるの?」
「いいや、推測だな。ほら、最初からいた『理解者』が、創造者に選ばれて神になったのが千年前なんだよ。だから、星が出来たのもそれくらいなんじゃないのかって話」
「……ふーん」
随分と杜撰な決め方だ。
その考えだと、創造者が星を作って、しばらくしてから神を選抜したという可能性が考えられていない。
おそらく、千年前という時代設定に確証はないのだろう。ただずっと昔のことだという意識があるだけで。
「で、急にどうしたんだよ。この問答で創造者の正体が分かるのか?」
「まぁまぁ。それよりさ、ノアは千年前に水魔星が作られたって聞いて、違和感は無かったの?」
「えぇ?」
「水魔星がどうやって生まれたのかとか、ノアも人間時代に授業で習ったわけじゃん。それと異なってなかったわけ?」
「もちろん違うぜ。俺様が習った話は、数千年前に宇宙を漂っていたとされる大魔女様が、数多の星で作られた髪飾りを落とした。そんでその飾りが長い年月をかけて宇宙中の魔力を吸い取って膨らんで、今の水魔星になった、って話だからな」
「へぇ」
魔法の星と云われる水魔星らしい、ロマンチックでファンタジーな話だ。
ゆづりが本題から逸れて感動していた最中、ノアはゆづりの言いたいことを察したらしい。「俺様だって」と膨れっ面をしながら、口を開いた。
「そりゃ、初めて千年前に創造者とやらの手で星が作られたって聞いた時は、そんな訳あるかって思ったよ。でも、実際水魔星とは全く違う星があったワケだし……あぁ俺様が教えられてきたことが間違ってたんだとしか思わなかったな」
「………でも、千年前にも人間はいたんじゃない?だから、千年前に星が創造されたのは流石におかしいんじゃ…」
「それも別に気にならなかったよ。創造者が星を作った後に、歴史やら人やら何やら全てを構成したのだと思ってるから」
「全てを……」
「あぁ。創造者の掌の上で踊らされているようで、いい気はしないけどな」
ノアは不機嫌そうに鼻を鳴らす。その隣でゆづりは突拍子もない彼の考えに呆気に取られていた。
今のノアの話を地球で例えるなら、こうなる。
約一万年に存在していたと信じられている縄文時代は、実際には存在していない。それどころか、千年前には人どころか地球そのものがいなかった。
創造者の手によって、地球が生みだされた時に初めて人類は命を紡ぎ出したのだ、と。
そして、星を作った際に、創造者は存在していない地球の歴史をでっち上げた。あたかも数億年前から、地球が存在していたかのように。地球が数万年前から生活を続けて生きていたかのように。
まぁはっきり言って、まともな考えではない。陰謀論も裸足で逃げ出すような、支離滅裂で根拠のない話だ。地球の学者たちが聞いたら、まず猛反発してくるだろう。
しかし、ゆづりは反論できない。魔法やら獣人やらロボットやらが、この世界に存在しており、地球では絶対に起こりえないことをやってのけている所を見てしまっているから。
最新の科学でそんなことは不可能であると証明しても、魔法使えば可能だ、創造者に不可能はないと言われてしまえば、受け入れられてしまう。いや、受け入れるしかない。
「……そっか。…そっか」
ノアの考えも一理ある。しかし、この推論でも疑問点は残る。
創造者が星の住民に信じさせた歴史や過去などは、星ごとに異なっているのに、どうして地形だけは全ての星で統一したのかという、些細な違和感が解消されないのだ。
創造者に、星の地形を一から作る力がなかったのか。それとも、星を作るのがめんどくさくなって、地形作りには手を抜いたのだろうか。それとも、己の欲を満たすためには、地形を変える必要がなかったのか。
色々と説は沸いてくる。しかし、どれも確信に迫れている気はしない。
創造者に何が出来て、何が出来ないのかすらも分からない現状では、答え合わせをすることすら許されていないからだ。
「どちら様ですか」
ゆづりがノアを差し置いて一人頭を回していた最中、静まり返っていた教会に声が響いた。少し掠れて、語尾が少し伸びた老人の声が。
誰の声だ。
ゆづりは驚きから肩を揺らして、後ろを振り返る。すると、教会の入り口に人がいた。黒い宗教服を纏った、腰の折れ曲がった老婆が一人こちらを見ている。
おそらく彼女は火敵人だろう。この教会にお祈りでも捧げに来たとか、そんなところだろうか。
ポカリと立ち尽くすゆづりとは対照的に、ノアは思い当たる節があるらしい。老婆の顔を見るなり「あっ」と気抜けた声を出して、気まずそうな顔をする。そして、老婆の方もノアと目が合うと、瞑れた目を見開いてガタガタと震えだした。
「貴方、前の幽霊じゃ……!だ、誰か!」
「や、やべぇ!」
老婆はワタワタと覚束無い足取りで、開けた扉を潜り教会を出ていく。そして、人でも呼び寄せるように必死で誰か、誰かと叫んでいた。
尋常ではない焦り方だ。まるで指名手配犯に遭遇してしまったかのようなテンパり具合。一体、ノアと何があったのだろう。
「ノア。あの人は誰?」
「ほら、前にゆづりとはぐれた時があっただろ?そん時に、この教会の信者たちに姿を見られちまったんだよ。しかも絶賛礼拝中だったらしくてさ、人が大勢いてな」
ノアの姿はゆづりとは違い、火敵星の人に認知されてしまう。そして、火敵人たちは神は既に死んだと見なしており、八星のことも知らない。それが下手に噛み合って、面倒なことに巻き込まれたようだ。
「ゆづり、ここだとアレだから、話の続きは中継場でしようぜ」
「うん」
話す場なんて、声が出せれば何処でも構わない。だから、ゆづりは悩むこともなく頷いたのだが、ノアはゆづりの返答を聞く前に左手を本に添えていた。
そして、気付いた時には、ゆづりは中継場へと帰還していた。
登場人物
ゆづり…主人公。八星を作ったとされる『創造者』を探している。
ノア…水魔星の神様。ゆづりに色々と協力してくれている。
ソフィー…地球の神。ゆづりに創造者探しを依頼した。




