47話 敵に灯る残火
イルゼとアリーセと別れ、中継場と繋がっている教会へと戻ってきたゆづりとノア。
別邸から教会まで、ノアの瞬間移動の魔法を使ったため、足は疲れていない。
だが、やはり創造者について新たな情報が得られなかったという事実が、心に重りをかけて息を詰まらせていた。
「結局、創造者については何も見つからなかったな」
「うん。でも、理想者が何か残してる可能性の方が低かったから、しょうがないよ」
理想者は他の賢神と違い、五百年前という遥か昔に生きていた人だ。資料が綺麗に残っている可能性の方が低かったのだ。
それでも奇跡が起こることを期待していた。誰かが後世のために記録を遺してくれていると、そう淡い期待を抱いていた。
しかし、そんな偶然は起きなかった。希望を持つだけ無駄だった。それだけの話だ。
「なぁ、これからはどうするんだ?今のところ何のヒントもないぜ」
「……やることはあるっちゃあるんだよねぇ…」
燃え殻同然の『叛逆者』の手記の復元。『開発者』の日記の翻訳の続き。大事な資料を破り取ったであろう古葉との対峙。
創造者と向き合うために出来ることは、ポンポン浮かんでくる。
が、それらの行為も創造者が見つかる可能性があるかもしれないというだけで、確実にどうにか出来る手段ではない。
もうイヤになりそうだ。
やはり、何のヒントもなく、ただただ千年前にいたとされる人物を見つけ出すなんて無理なのかもしれない。
ゆづりはあまり明るくない今後に憂いを感じつつも、ノアに付いていく。すると、その途中であるものを見つけた。
この星には無いであろう、というか必要そのものがないであろうモノを。
「ゆづり?どした?」
「いや、火敵星にも地球の地図があるんだなって」
教壇の上に置いてある聖書らしき本。そのページの一つに、地球の世界地図と全く同じ形をした地図が貼ってあった。
地図の中央に配置されてある国は日本ではなく、ヨーロッパになっているが、それ以外は何もかも、普段ゆづりが見ている世界地図と全く同じものだ。
「変なの」とゆづりは呟く。火敵星に地球の地図なんて要らないだろうに、書いてあるなんてと。
すると、ノアがそれを越す勢いで「何言ってんだよ」と笑いだした。
「これは地球の地図じゃなくて、火敵星の地図だろ」
「…え?」
意味が分からない。ノアは何を言っているのだ。これはどっからどうみても地球の地図だろう。
六つの大陸と三つの海洋。それに、日本や中国、アメリカ、イギリス等、地球に存在する国全てがこの地図に乗っているというのに。
おかしなことを口走るノアに、ゆづりは下手な冗談を言うなと半笑いになる。一方、ノアもまた同じことを言いたげに苦笑していた。
「………」
「………」
二人して、相手の反応をジョークだと捉えている奇怪な空気。
ゆづりがノアの言っていることが本気なのかと真顔になっていくその頃、彼は「知らないのか」ととんでもないことを言い出した。
「八星はどれも地形は同じなんだよ」
「…は?」
「あぁ。やっぱり知らなかったのか」
ノアはほらと指を上げ、隣の祭壇を指差す。
すると、その先には地球があった。ユーラシア大陸やアメリカ大陸が広がり、まわりを太平洋や大西洋などの青い海で囲まれている、至って普通の地球儀が。
しかし、ノアの言うことを信じるのなら、あれは地球ではないのだろう。
火敵儀。そう呼ぶのが正しいと。
「ど、どういうこと…」
ノアの言っていることは理解した。
しかし、意味が分からない。気味が悪いといった方が近いのもしれない。
八星の有り様は、やれ魔法だの獣人だの天災だのと地球とは全く違っている。
それなのに、どの星も地形は同じです。地球と同じような色、形をしていますも言われても違和感しかないだろう。
「そんなに変か?どの星も同じ形をしてるってだけの話だぞ」
ゆづりにとってはかなり突っかかる状況だが、ノアは当たり前だろというようにケロリとしていた。
確かにノアの言う通り、それだけの話と言えばそれだけのことだ。八星の地図が全て同じだという、些細なこと。
だから、ゆづりもその常識を受け入れそうになって。
「いや、やっぱり変だよ」
ストンと脳に落としきれず、ストッパーに止められる。
やはり、この状況は奇妙だ。
なんで地球と異なる星にいるのに、地球と全く同じの地形をしているのか。普通なら地図は大きく変わり、共通点を見つけるのが大変くらいには異なるはずだろう。それなのに、どうしてこうも妙なことになっているのだ。
「………」
創造者は十個の星を作った。そして、星たちの性質は個性的で唯一なものになっている。
だから、ゆづりは創造者はゼロからそれぞれの星を作ったのだと考えていた。
例えば、土獣星を舞台にするなら、まず初めにヒトのいない星を作って、その後に獣人を産み出して、神座剥奪の儀だのを追加して、今の土獣星を作ったのだと。
「……もしかして」
しかし、八つ、いや十の星たちの地形がまったく同じなら、全て地球と同じ姿をしているのなら、違う考え方も出来る。
元々一つの星があって、その星をコピーか何かで九つに増やしてから特性を植え付け、全く違う様相の星を作ったのではないか、とか。
「ゆづり、どうした?急に変な顔して」
「もしかしたら、創造者のこと分かるかもしれない」
爛々と輝く夕日が、ステンドグラスから差し込んでくる。
オレンジ色に染まっている光は、希望を見い出してキラキラと輝いていたゆづりの表情を更に明るく照らしていた。
****
時は少し遡って、場所も別の星に変わり。
地球にあるとある国こと日本。時刻は夕方六時過ぎにて。
「あーあ、俺が犯人だってこと多分バレたなぁ」
長い一日の授業を終え、自宅へ帰ってきた古葉。
彼は暗い部屋で一人、紙を弄びため息をついていた。
「鋭い目付きと良く利く鼻。まぁ土獣星の竜族ってカンジかな?」
古葉が思い出しているのは、今日の放課後、教室で出会ったとある娘のことだ。地球らしくない、人間離れした鋭い瞳孔で自分を見つめていた女の子。
おそらく彼女は気付いたはずだ。ゆづりが所持していた開発者の日記を破り取った犯人が古葉だということを。そして、そのことをゆづりにも伝えてしまったのだろう。
自分のやった悪事が被害者に発覚するという面倒な事態。
しかし、それは古葉にとって大した問題ではない。渡りたい信号で赤信号を食らった程度のハプニングとしか見なしていない。
だって、古葉が開発者の本を奪い取ったことがゆづりにバレようと、別に構わないのだから。
最も重要な部分は、古葉が奪った本のページの内容がゆづりの目に触れないこと、なのだから。
「証拠隠滅」
古葉は近くに転がっているライターを絡めとり、火を付ける。そして、躊躇うことなく、ユラユラと揺れている火に古ぼけた紙を近づけた。
たった三ページの切り抜きは、端から順当に火の手に襲われていく。そして、あっという間に黒くくすみ、燃え殻へと化していった。
その最中、「to kill bro」という物騒な文字列も、小火に燻られて空中へと消えていった。
今回で二章終わりです。ブックマーク、☆評価、ご感想、リアクション等頂けたら嬉しいです。
来週は三章に入るのではなく、今まで出てきた登場人物のまとめを投稿します。加えて、水魔星関連の短編を一つ載せます。一万字くらいです。是非そちらの方も読んでいただけたら幸いです。
いつも読んで下さっている方、2025年お世話になりました。来年もよろしくお願いします。良いお年をお過ごしください。




