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異世界たちと探し人  作者: みあし
一章 土獣星編
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八話 秘匿秘匿秘匿


 ソフィーから月祈星の事情を聞いた後、ゆづりは月祈星の部屋を出た。すると、外で待機していたらしいノアが廊下の壁に凭れていた。


「ノア。ここにいたんだ」

「まぁな。俺様も月祈星のことは気の毒だと思ってるからな」


 ノアは月祈星の扉を憐れんだ目で見つめる。どうやら彼もソフィーと彼女の弟のことは気がかりなようだ。


 ゆづりも出来る限り早く創造者を見つけたい。その為にはさっさと行動を起こした方がいいだろう。


「これからどうする?」

「……やっぱり、ジンギュラリティからもっと話を聞きたい」


 先ほど、ゆづりがシンギュラリティに創造者について知っているかと聞いた際、彼女は秘匿と答えた。知らないではなく、秘匿と。そう言ったのだ。


 つまり、彼女は創造者の正体は知っている。お前には教えるつもりはないけど。というスタンスなのだろう。


 堅牢な彼女から何か話が聞けるかはあまり期待できないが、ヒントくらいは貰えるかもしれない。

 ゆづりがそうノアに伝えれば、彼は何かいいたげにしていたが、まぁいいんじゃねと肯定してきた。


「天機星のドアはこれだ」


 ノアは早速天機星へ繋がる扉を選ぶと、大胆に開け放つ。ゆづりはノアにお礼を言った後、シンギュラリティがいるドアに身を入れた。すると目がチカチカするくらいの人工の光が目に刺さる。


 あまりにも目に悪い空間に、反射的にうわっという驚きが漏れる。すると、その声が届いたらしい、シンギュラリティがこちらを振り返った。


「…再会。要件?」


 シンギュラリティは多くのテレビが張り付いている壁の前に立っていた。異常なまでに強い光はそこから出ているようだ。ゆづりはそっと近づくと、画面に映し出されているまた気味の悪い風景を目に映した。


「……なにこれ……」


 画面にはどれも病室のような空間が映し出されていた。病室といってもゆづりの常識とは少し違う。病人達は全員、頭や腕に何かの機械を付けられて横になっているのだ。


 しかも、病人は高齢者ばかりでは無く、若者は勿論赤ん坊までと幅広い。老若男女問わず、ベッドの上にズラリと並んでいる。


 一見すると死体が置いてあるようにも見えるが、胸が動いていたり寝返りを打っていたりする人もいるので、全員生きているのだろう。しかし、あまりにも生を感じない暗い光景だった。


 その何にも例えられない独特の雰囲気が不気味すぎて、一歩ゆづりは引き下がってしまう。が、後ろにいたノアがなんだよと押し返され、再び画面と向き合うことになった。


「再度。要件?」


 軽く揉めそうになっているゆづりとノアに、シンギュラリティは淡々と言葉を投げつけてくる。その無機質な態度にゆづりは我に変えると、薄気味悪い画面を指差した。


「あ、えっと…その、これは何しているんですか?」

「『代表者』任務」

「任務…これが?」


 天機星の神の仕事は病人の容態を管理することなのだろうか。想像しているものよりショボいし、意味が分からない。ゆづりがたまらず眉を顰めれば、思考を読んだのであろうノアが吹き出した。


「ははっ、別にコイツら病人じゃないぞ」

「……じゃあ寝てるだけ、ってこと?」

「いいや、夢を見ているんだ」

「夢?」

「あぁ。天機星の人間は生まれた時から死ぬ時まで、ずっと夢を見続けるんだ。永遠に幸福で楽しい、本人が望む夢をな」


 ノアは画面に映っている人達を憐れむような目で見上げる。

 目の前の病人のなりをした人間たちは、どうやら全員夢を見ているらしい。いや、備え付けられている機械によって、夢を見せられているの方が正しいのだろう。目を覚ますことを許されず、永遠に夢の中で生きることを強いられているのだから。


「えっ、なんで、こんなことしてるの?」

「絶対幸福。これがシンギュラリティ筆頭の機械人たちが、寝てるやつら…天機人たちに約束している言葉だ。だけど、普通に生きていて永遠に幸福でいられる訳がないだろ?人と関われば軋轢は生まれるし、転べば痛い思いをする」

「そんなの当たり前じゃないの」

「そうだな。でも、この星じゃ許されないんだ。だから、強制的に幸福にするしかない。不幸を排除した夢を現実と思い込ませてな。……こんなもんだろ、シンギュラリティ」


 肯定。シンギュラリティは無情に呟く。

 ゆづりはここまで説明されて、ようやく目の前に広がっている光景をまともに解析できるようになる。そして同時に、不快感も込み上げてきていた。


 だって、こんなの生きていると言えるのだろうか。生まれてから死ぬ時まで作られた幸せの夢を見せられ、自分が夢を見ていたことすら知らぬまま朽ちていくなんて。恐ろしい世界なんて言葉じゃ片付かないくらい、退廃的で幽々な星だ。


「…………」


 しかし、これはゆづりが傍観者でいるからであるから生まれる不快感であって、肝心の寝ている人達は幸福真っ只中なのだろう。

 現に画面の中央で寝顔を晒している少女は、幸せそうに頬を緩ませていた。


 何ともいえない複雑な気持ちになって黙ってしまったゆづりに対し、シンギュラリティは何も思うことがないのか、そもそも感情がないのか、黙って画面を見つめているだけだった。


「……あれ、この人たちは…」


 ゆづりもシンギュラリティのように寝ている人たちを観察していると、チョロチョロと機械人たちが動いているのが目に付いた。

 何をしているのかと注視すると、機械人たちは甲斐甲斐しく寝ている人間の口に食事を運んだり、おむつのようなものを交換したりしていた。


「…これって介護?」

「あぁ。これがシンギュラリティ達の仕事だよ。人間は夢を見てても餓死するし、排泄もするだろ。それへの対処がシンギュラリティと機械人の仕事だ」

「それって、機械人の負担が多すぎじゃ……なんでシンギュラリティはこんな制度を作ったんですか」


 寝ている人間の世話を永久的にし続ける。それは想像以上に大変な仕事であるはずだ。

 食事一つとっても、寝ている人間の口に食べ物を注ぎ込むだけで無く、食材を調達するところから調理までしないといけない。

 排泄物の処理も、そもそもの仕事がまずやりたくないことのはずなのに、何万、何十万の人を相手しないといけないのだ。並みの人間なら頭がおかしくなる。


 それからベッドの掃除、部屋の掃除、機械の管理、人間の繁殖と、軽く考察しただけでこんな嫌なことが溢れてくるのだ。何十年、何百年とやり続けていたら、狂ってしまってもおかしくない。

 寝ている分にはいいかもしれないが、起きている身からすれば地獄だろう。


 しかし、シンギュラリティはそんなゆづりの心配に小首を傾げる。


「否定。規定制作者、創造主。当機規則服従」

「……創造者がこんな星を作りたいと言っている…?」

「肯定。主、八星全部意図制作……会話省略、主意図不明」

「天機星じゃ無くて他の星も全部、創造者が方針を決めてて、なんでそうしているのかは分からないと」


 肯定。そう言うようにシンギュラリティは頷く。

 五十年に一度しか現れなかったり、こんなSFチックな星を作ったり、創造者は一体何者なのだろうか。ますます気になってくる。


 ゆづりが多くなってきた情報を頭の中で整理していると、シンギュラリティがジッと見つめてきた。


「要件以上?」

「あっ、そうだ。その、創造者について聞きたいことが」

「秘匿。会話拒否」

「えっ」

「秘匿。会話拒否」

「あの」

「秘匿。会話拒否」


 それ以降、シンギュラリティは何を聞いても秘匿会話拒絶としか返してこなくなってしまった。


****



「なんて口が固い…」

「残念残念。まぁ、だろうとは思ってたけど」


 シンギュラリティから創造者のことを聞き出すことは出来ない。おそらく、創造者のてによってそういう風にプログラムされているのだろう。


 ゆづりが工学を齧っていたらその制限を解くことも出来そうだが、そんな知識は持ち合わせていない。諦めるしかないのだろう。


「どうしようかな……」

 

 シンギュラリティから創造者について聞けないとなった以上、ゆづりは別の神から話を聞かないといけない。

 狙いはノアのように昔からいる神だ。長く神をやっている神のほうが、なにかと知っていることも多いだろうから。


「ねぇ、神様ってどの順番で古参なの?」

「うーん?古い順から、『理解者』、俺様、『在監者』、『統治者』、『継承者』、『代表者』、『放棄者』、『責任者』……ん?あれ、『在監者』が先だっけ…?」

「ちょっと、しっかりしてよ」


 雲行きが怪しいノアをゆづりはジト目で見つめる。長く生きすぎてボケたのだろうか。

 しばらくノアは自分の記憶を引っ張ろうと唸っていた。しかし、別の方法を思いついたのか、不意に手をポンと打つ。


「あっ!そうだ、ちゃんと記録を取ってたんだ」

「まさか頭の中に、とか言わないよね」

「馬鹿、ちゃんと資料室があるんだよ!昔からある由緒正しいやつがな」

「………」


 それなら別にノアの力でもなんでもないのに、なんでノアが誇らしげなんだ。ゆづりの喉にそんなからかいが浮かんできたが、煩くなりそうなので自重する。


 代わりに資料室とやらに案内してくれと頼んだ。すると、ノアは付いてこいと、先陣を切る。

 頼もしいところは頼もしい。使いやすいとも言える。


 一回、一面ガラス張りの部屋に戻る。そこでは相変わらずいすずがもぐもぐと栗鼠になっていた。


 それを見たノアは吸い込まれるように机に寄り道する。そして無造作に右手を広げて、皿に置いてあったクッキーを鷲掴んだ。

 ポイとノアの口に放られるクッキー。数枚掴んでいたはずなのに、たったの一口で消えてしまった。


 一気食いなんて行儀が悪いなと、ゆづりは咎める視線をノアに送ったが、全く効かなかった。むしろ私にも寄越せと言っていると見做したらしく、皿を差し出してくる。

 ゆづりは躊躇った後、一枚だけ手に取り食べた。味は美味しい。ついつい手が伸びそうになるが、思い止まって止めた。


 ノアは手に何枚かクッキーを持ったまま、フラフラとガラスの方に近づく。そして空いている方の手でガラスに触れた。


 すると、ガラスにヒビが入りバラバラに砕ける。その散らばった破片が集まり一本道を作った。その先には、本のマークが掘られているアンティーク調の扉が出来ていた。


 ノアは颯爽と駆け出すと、ドアのノブに手を掛け扉を開ける。すると、思わず感嘆の声が出るような光景が広がっていた。


「すご……!」


 ゆづりの前には、見たことのないくらい多くの本がズラリと並んでいた。壁一面本棚で覆われていて、どの本棚にもみっしりと本がつまっている。全部で軽く一万冊はありそうだ。


 ゆづりは好奇心のまま近くにある本棚から一冊の本を抜き取る。そしてパラパラとページをめくった。しかし、文字は見たことのない形をしており、到底読めそうになかった。


「ねぇ、これって何語なの?」

「さぁな。分からない。それぞれの神がそれぞれの言葉で残しているからな。俺様には読めない」

「えっ」


 本は多く残っているが、文字は読めない。資料として致命的な欠陥ではないだろうか。


 まさかこれらの本を読むのに、ゆづりは今から八星の言葉全て覚えなければならないのだろうか。早速挫折しかけたゆづりに、ノアは大丈夫だと笑う。


「諦めるな。全ての言語を修めた神はいるからな」

「えっ、凄い。誰?」

「木黙星の『理解者』。他の星は何回か代替わりしているが、ソイツはずっと神をやってる。一番昔からいるヤツだよ」

「もくもくせい…?それって人間を受け入れて無いっていう」


 最初の説明で、月祈星と木黙星には行けないと言われた。メンテナンス中だから、人間を引き受けてない星だから、と。メンテナンス中の星が月祈星だから、木黙星は後者の星なのだろう。

 ノアは意外そうな顔をした後、当たりと手を叩く。


「一回、ソイツに会って協力要請でもしてこいよ。俺様は俺様で読めそうな本、日本語にしてやるから」

「えっ」

「なんだよ。もしかして付いてきて欲しいのか?」

「違う。使えるなって思っただけ」

「おいお前、もうちょっと言葉は選べよ!」


 ノアは不服そうな顔でゆづりを睨む。が、ゆづりはべっと舌を出していなした。

 そしてノアによろしくと言い残し、資料室を後にした。

登場人物


ゆづり…主人公。八星を作ったとされる『創造者』を探している。

ノア…水魔星の神。ゆづりに協力してくれている気さくな人。

シンギュラリティ…天機星の神。女の見た目をしたロボット。

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