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異世界たちと探し人  作者: みあし
二章 火敵星編

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46話 新たな協力者たち 

 

 イルゼとアリーセに案内されるまま、別邸とやらに足を踏み入れたゆづりとノア。


 きっと王城のような、豪華絢爛な城に迎え入れられるのだと思っていたゆづりだったが、その期待は入り口から易々と裏切られた。


「……これは…」


 別邸は一言で言うなら、廃墟だった。

 入り口の鉄門は雨に晒され赤黒く錆び付いていた。外装はろくに手入れされていないらしい。ヒビ割れが多発している。

 大きなガーデンにも、王城のように切り揃えられた芝生や色とりどりの花は一切なく、蔦や蜘蛛の糸に好き放題荒らされまくっていた。

 

 本当に此処に王族がいたのだろうかと疑ってしまうような、荒んだ様子の別邸。

 ゆづりが唖然としていれば、ノアは「ボロいな」と素直すぎる感想を洩らした。

 

「ここには誰も住んでないのか?王族の代わりに執政権をつかんだヤツとかいたり、保全活動がされていたりしてもおかしくないだろうに」

「王族が途絶えてからは、この国は民主主義に移行して、政界トップには国民の投票で選ばれた執政官どもがついている。ヤツらはみな金持ちだからな。自分で立派な家をお持ちだよ。こんな所に寄りはしない。保全活動も…まぁやらないだろう」

 

 アリーセの父や兄姉が亡くなった後、王のサポートをしていた宰相が王に代わりトップになったらしい。そして、その下に執政官と呼ばれる、おそらく日本だと議員に相当するであろう人がついているようだ。

 王が代々得ていた神の座も、アリーセの父『異端者』が亡くなったと同時、この世界から消滅したのだと考えられている、とのこと。


 なんだか歴史の授業で習ったヨーロッパの革命のような話だ。

 ゆづりが時代の流れは恐ろしいなぁと軽く流す傍ら、ノアは気になることがあったらしい。さらにイルゼに迫る。


「誰も使っていないなら、いっそのこと撤去しちまえばいいじゃん。こんな汚い状態で放置していてもいいことないだろ」

「もちろん、そのような計画は過去にあったようだ。王政の時代の産物を壊すことで、新たな時代が幕開けたことを示そうと。だが、呪われるとか何だかで誰も手出しはしてない」

「呪われる?」

「この星の民たちは、王族がみな私に殺された事実を知らない。だかは、彼らは王たちが急に錯乱して自殺したと思っている。それで噂が立ったのだ。長居をしたら、己の命を絶ちたくなるような呪いにかけられると」


 これも聞いたことのある話だ。撤去しようとすると、何故か事故が起こってしまって、解体を諦めざるを得ない建物なんて、探せば地球にいくらでもあるのではないだろうか。


「ふはっ、魔法がある星でそんな噂が立つのかよ」

「実際、死体が出歩いていると騒がれていてな。誰もいないはずの城で、いくつもの死体が夜な夜な暴れていたと」

「……いや、それはお前のせいじゃないのか。初めて会った時、お前死体を操っていただろ」

「あぁ。糸を手繰る練習がしたくて、適当に死体を漁って動かしていたんだ。おそらく、それを見た人間が吹聴して回ったんだろう」

「バリバリお前のせいじゃないか!よく他人事のように語れるな!」


 ノアが全力を賭して突っ込む。すると、イルゼは煩わしい虫でも見るのような、荒んだ視線を彼に投げた。そして、一言「そのお陰で城や別邸が残っているんだろうが」と吐き捨てる。


「………お、お前…」


 イルゼの人の心を失ったとしか思えない暴論に、ノアは返す言葉を失ったらしい。ワナワナと唇を噛むことしか出来なくなっていた。


 やはり魔族と人間には、価値観に相当の乖離があるようだ。

 ゆづりが種族の違いをまじまじと痛感する側、今までニコニコとイルゼを見つめるばかりだったアリーセが、ぷくりと頬を膨らます。


「イルゼ、ダメよ。人命を蔑ろにすることを言っちゃ」

「も、申し訳ございません、アリーセ様。以後気をつけます」

「うん。人前では慎んでね」

「………」

 

 前言撤回。人間でも変わっている人は変わっているようだ。

 ゆづりが隙を見てはイチャコラするアリーセとイルゼを死んだ目で見続けること数分。

 ようやく目的地についたらしい。イルゼがピタリと足を止めた。


「資料館に着いた。少し片付けたため、居座れる程度にはなっているはずだ」


 イルゼは壊れ物を振れるような丁寧な手付きで、扉のノブを回す。そして、己の体を扉に預けて、重そうな両開きの扉を開けた。

 さらりと足元を撫でる冷えた空気。その一瞬で分かる、部屋の異質な雰囲気。

 これはなかなかに荘厳そうなものが見れる。ゆづりはそう胸を膨らませて、部屋へ入室した。のだが。


「……え」


 部屋の中にあったのは、数えきれないほどの本棚だった。ダークブラウンの本棚が、迷路を成すかのように入り乱れて並んでいる。

 しかし、何もない。本棚に本が入っていない。本棚だけが部屋に取り残されている。

 これは一体どういうことだ。ゆづりが戸惑う目の前、イルゼも言いづらそうに顔をしかめていた。


「ここには他の国との条約文、過去の法律案、魔族との交渉文など、政治的なものが多く保管されていた。しかし、王が崩御すると同時にそれらの資料は他の施設に移されたらしい。ここにはもう、重要そうな文献は残っていないようだ」

「………」


 何故だろう。とても嫌な予感がする。

 ここに創造者を見つけるためのヒントがある、そんな気が微塵もしない。なんとなく徒労に終わる気がする。


 だが、諦めて帰りましょうとは言えない。帰る気もない。ゆづりは静かに「そうですか」とだけ答えると、近くの本棚から物色し始めた。


 そして、同じく途方に暮れているノアの手を引き、あちこち資料室を探し回ること三十分。


「ないな」

「うん…」


 一通り部屋の中にある資料と見つめあったが、やはりと言うべきでだろう。創造者に繋がる資料は何一つ見つからなかった。

 そもそも部屋に日記など紙状のものが存在しないのだ。絵や壺といった、古ぼけた骨董品たちしか部屋に置かれていなかった。


「なぁ、イルゼ。他に資料が保管されている場所はないのか?ここには何もないんだけど」

「……もう心当たりはない。アリーセ様は何処か思い付くところはありますか?」

「うーん……。私もピンとくる場所はないなぁ」


 イルゼが匙を投げた横、アリーセも顎に手を添えて小首を傾げる。そして、「そもそもさ」と言いづらそうにしつつ、話を切り出した。


「日記って個人的なものじゃん。だから、大半のものは本人が処分しているか、本人しか知り得ない場所に隠してあるんじゃない?」

「そ、それは……」

 

 そうなのかもしれない。

 日記は他人に保管を頼むようなものではないし、大っぴらに飾られることを想定して書くものではない。

 アリーセの至極真っ当な追及に、ゆづりは返答を詰まらせる。すると、代わりにノアが「まぁそうだろうな」と口を開いていた。


「ゆづり、多分ここに資料はないだろうよ。だから、今日は帰ろう」

「………うん」

「ほら、落ち込むなよ。火敵星には無くとも、中継場の資料室の方にギリギリ読み取れるようなモノが残ってるかもしれないぜ」


 ノアが元気出せよと励ますように、バシバシと背中を叩いてくる。ゆづりは流されるままに頷き、「分かった」とだけ答えた。 

 もちろん、少しは渋りたかった。折角ここまで来たのに、もう帰るのかと。しかし、無いものはない。どうしようもない。


「もういいの?」

「はい。あまり長居も出来ないので」


 ゆづりは明日も学校がある。ここで駄々を捏ねても、自分の首を締めるだけだ。

 ゆづりがあっさり断れば、アリーセは「そっか」とだけ溢す。そして、それ以上は言及して来なかった。


「なら、今日はお開きだな。貴様らを中継場まで送っていこう」

「いいや、送迎は大丈夫だ。俺様が魔法を使うからな。それより、最後に一つだけお前らにお願いがあるんだけど、聞いてくれるか?」

「……なんだ」


 イルゼが露骨に嫌そうな顔をする。それもそうだろう。ノアがこう切り出すのは今回が初めてではない。何度もこのように尋ねられて、一悶着起こしているのだから。

 

 しかし、今回は大丈夫なはずだ。

 ノアがイルゼとアリーセに要求することは、月祈星の修復への手伝いだ。そこまで無茶なことではない。


「そこまで面倒な話じゃない。半年後くらいに、お前らの魔法を貸りたいだけだからさ」

「……魔法?」

「そうだ」


 ノアは壁に凭れ、イルゼとアリーセに向き合う。そして、滅多に見せない真剣な顔で、淡々と事情を語り出した。

 八星の一つである月祈星が、天災に襲われ壊滅状態に陥ったこと。だから、現在、月祈星の神、放棄者の姉であるソフィーが星の修復にあたっていること。しかし、彼女一人では力が足りないため、他の魔法使いを必要としていることを。


「うん。いいよ。協力する」


 要点だけを詰んだノアの説明。さて、ここから協力してもらうための説得が始まると、ゆづりが息を飲む間もなく、アリーセはあっさりと頷いていた。断るなんてあり得ないと言わんばかりの速さだった。


「……え、いいのか」

「うん。二人には沢山お世話になったからね。私たちに出来ることがあるなら手を貸すよ。イルゼもそれでいいよね」

「はい。貴方がそうおっしゃるのなら、私は共に付き添うまでです」


 イルゼも特に反論はないらしい。手慣れた様子で己の胸に手を当て、力強く頷く。


「サンキュー。助かるよ。んじゃ、詳しい話をしてもいいか」 

「あぁ。聞こう」


 ノアは意気揚々と、イルゼとアリーセに仔細を伝える。

 一方、話に参加する必要がゆづりは、一人群れから離れた。そして、暇を潰すようにもう一度資料室を見て回った。

 が、やはり目的の資料は見つからない。空の本棚が成す簡易な迷路を楽しむことしか出来なかった。


「……またダメか……」


 今回も何も上手く行っていない。こんなに時間と労力を削ったのに、ゆづりが得たものはゼロだ。

 いや、厳密にいえば、皆無というわけではないのか。イルゼとアリーセという協力者は得られたのだから。

 もしかしたら、創造者とやらに頼らなくとも、月祈星がどうにかなるかもしれない。


「………」


 だから、いいか。ゆづりは一人ため息をつく。そして、空虚な本棚に凭れて、談笑を繰り広げている三人を遠くから見上げていた。

登場人物


ゆづり…主人公。『創造者』を探している。

ノア…水魔星の神。ゆづりの協力者。

アリーセ…火敵星の神。呪いから解放され、百年ぶりに目を覚ました。

イルゼ…アリーセの付き人兼眷属。

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