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異世界たちと探し人  作者: みあし
二章 火敵星編
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28話 自宅周りの探索 


 今日は大変な一日だった。

 朝には土獣星に行って叛逆者の遺物を回収。昼には火敵星へ行き、アリーセとの邂逅を果たした。そして、夕方は金時星と木黙星へ赴き、今持っている情報を纏めた。

 計四つ、地球を含めれば五つの星を行き来している。だから当然、ゆづりの体力は尽きてしまっているし、時間もかなり経過してしまっていた。


「……今日は帰るか」

 

 ゆづりとしては一晩中、中継場にいても差し支えない。しかし、万が一、母が家に帰ってきていたら面倒なことになる。だから、今日のところはここで切り上げて、一回帰宅しておこう。

 そうゆづりがぼんやりと思考を回しつつ、廊下を歩いていたその時。


「ね、ゲームは」

「うわ!」


 ぬるっと顔を出してきた桃に肝を抜かれ、ゆづりは後ろにのけぞった。そして、その勢いのまま背中から廊下にダイビングしてしまう。

 変な倒れ方をして軋む腰。ゆづりは痛い痛いと痛みは一切ない背中を擦るが、桃は微塵も気にしていないらしい。彼女は顔色一つ変えず、ゆづりを見下ろしていた。


「ね、ピコピコは」

「あー…」


 桃の言うピコピコとは、ゆづりが貸したゲーム機のことだろう。今朝、充電が無くなったからと、桃から返されていたんだった。


「ご、ごめん。今から充電してくるよ」

「え、やだ。いま欲しい」

「そう言われても。充電ってすぐに出来るもんじゃないし…」

「なら、君についていく。そしたらすぐ出来る」

「な、なるほどね」


 ゆづりが桃のゲームへの執着心に軽く引くそばで、彼女は律儀に尻尾を仕舞い、角を引っ込めてしまっていた。どうやら、彼女は既に地球に行く気のようだ。


「……」


 まだゆづりは桃に来ていいよとは言っていないのに。

 桃の横暴に納得は出来ないが、ぐっと堪える。言い返しても拳が飛んできて、負けるのが見えているからだ。下手に抵抗するよりは、受け入れてしまった方が早い。


「ねね、行こ」

「はいはい」


 桃は布を千切るつもりなのかという握力で、ゆづりのスカートを引っ張る。制服をダメにされては堪らないゆづりは、すかさず桃の手を掴み、地球へ降りた。



****



「お、旨そう」

「その魚は食いモンじゃないよ」


 教室につくなり早々、桃は水槽の中で泳いでいる金魚によだれを垂らす。そして、衝動に駆られるよう、水槽の中に手を突っ込もうとしたので慌てて止めた。


「行こう。早く」

「おー?」


 このまま桃を放っておいたら面倒なことになる。さっさと家に連れ去ろう。

 桃の狼藉を恐れたゆづりは彼女の両手をしっかりと握って、ベランダから身を投げる。そして、手を桃から離さないまま、学校の敷地外へ出た。


「なんでそんな急いでるの」

「いいや、そうじゃないけど…」


 寄り道もしなければ、会話もせず自宅に向かうゆづりに、桃が不審そうな顔を見せる。

 当然、「桃に地球を壊されないためだよ」と本音をぶちまけることが出来ないゆづりは、適当に笑って誤魔化した。

 すると、桃は納得してくれたらしい。へぇと一言だけ呟くと、大人しくゆづりの後をついてきてくれる。


「………」


 やっぱり桃は素直だ。素行が悪すぎるため、どうしてもガサツな印象が強くなる彼女だが、意外にも性根は真っ直ぐで無邪気だり

 それでも異星人ということもあって、桃は予想だにしないことをしでかす。だから、油断が出来ないのは悩ましい。

 難儀な桃の存在をゆづりが悩ましく思うその隣、桃が不意に足を止めた。そして、黄金の瞳を上へ向ける。

 珍しい鳥が空にいるのだろうか。それとも雲か。

 ゆづりも彼女の隣に並んで上を見れば、そこには見るからに高級そうなマンションがあるのみだった。


「桃、どうしたの。何か気になるの?」

「や、ここから君の匂いがする」

「私の匂い?このマンションから?」

「うん。桃は人の匂いにビンカン」


 桃はクンクンと鼻をひくつかせる。彼女はどうやら、このマンションからゆづりの匂いがすると言っているらしい。

 当たり前だが、庶民のゆづりにこんな施設に入った経験はない。だから、おそらく柔軟剤の香りが似ているだけの、ただの別人なのだろう。


「ごめんだけど、違う人だと思う。私はここに入ったこと無いよ」

「え、でも似てる。親族とかの人かも」

「親族?それでもいいなら、私の母の匂いだと思うよ。あの人、ここに住んでるからね」

「…………は?」


 ゆづりの返答に訳分からんと言う顔をする桃。ゆづりはなんでそんな顔をするのか戸惑いつつも、軽く説明をした。


 前行ったアパートはゆづりが生活を送る家で、このマンションは母が住んでいる家だということ。そして、たまに母がアパートに来るのは、洗濯物やゴミ処理をしてもらうためだということ。

 ゆづりは懇切丁寧な伝え方をしたのだが、桃は更に意味不明といった顔をするだけだった。


「いや、なんで別々の家に住んでんの」

「そっちの方があの人にとって都合がいいからだよ」

「は、なにそれ」

「人がいると邪魔でしょ。色々と」

「え、そういうもんなの」 

「そういうもんだよ」


 あっさりと切り捨てるゆづりに対して、桃は消化不良なのかうんうんと唸っていた。

 まぁ一族とか血筋とかを重視する土獣人たちにとっては、地球のライフスタイルは意味不明だろう。ゆづりだって、最初は土獣星の殺し合いだの監禁だので驚いていたわけだし。


「早く帰ろう。ゲーム出来ないよ」

「あ、待って」


 ゆづりがそれだけ返せば、桃は不満そうにしつつも口を閉じた。


***


 母の住むマンションを通りすぎてからは、ハプニングも何もなくすんなりと家に着いた。

 桃は脳内であの洗練されたマンションと、台風が来たら崩れそうなアパートを比べたらしい。あからさまに嫌そうな顔をしていた。


「や、ちっちゃい部屋」

「文句言うな」


 無礼なことを口走る桃を背後に、ゆづりは部屋に入る。幸い、家の中に母の姿はない。しんと静まり返っていた。

 ゆづりは手を洗った後に、持って帰ってきたゲーム機を充電器に指す。そして、桃に「しばらくしたら電源入るよ」と伝えた。


「で、何分?」

「三十分もすればつくようになるんじゃない」

「え、なっが」


 文句を言いながら、ゲーム機のそばでゴロゴロと寝返りを打ち続ける桃。ゆづりはそっと彼女から離れると、机に置いてあった『開発者』の日記に手を掛けた。

 そして、『創造者』についての情報を得ようと、意気込んで。


「ねね、ひーまー」

「はいはい」

「ひまひまひまひま」

「うんうん」

「おい、何とかしろ」

 

 退屈を持て余した桃に背中を叩かれ、髪を引っ張られ、挙げ句の果てには抱きつかれてと、全く本に集中できなかった。

 桃の我が儘に押しきられたゆづりは、仕方なく日記から目を逸らす。そして、辺りを見渡したが、ここに娯楽となるようなものはない。


 一応暇潰しにはなると思い、去年使っていた地理の教科書を与えてみた。これは写真を見るだけで授業時間が十分程度潰れる代物なのだが、桃はピラピラと二三枚捲ったかと思うと床に投げ捨てていた。


「ね、他のものないの」

「ないよ」

「は、いつも何して遊んでんの」

「睡眠。ずっと寝てる」


 ゆづりは学校がない日は、たいてい寝てるか勉強してるかの二択だ。桃も怠惰な性格だから同じようなもんだろうと踏んでいたが、ドン引きしている顔を見るからに違ったらしい。


「なら、桃はいつも何してるの」

「強くなるための特訓。あとパズル」

「えっ、桃ってパズルなんてやるの?」

「は?」

「ごめんなさい何も言ってません」


 ギロりと殺意高らかに光る、桃の濃い金色の瞳。その鋭い眼光にゆづりは咄嗟に自分の口を押さえ、首を振った。


 それにしても桃の趣味がパズルだとは。チマチマと小さなピースを埋めていく姿を、短気で粗雑な彼女からは想像出来ない。どちらかというと完成したパズルをぶち壊して、たのしーと言っている方が浮かびやすい。

 またも失礼なことを考えていれば、桃においと袖を引っ張られた。


「や、何想像してんの」

「な、なんでもないよ。…そ、そーだ。暇ならさ、外出て探索でもする?土獣星とは結構違うところ多いから、新鮮で楽しいと思うよ」

「………」


 不機嫌になった桃に殴られないよう、必死に話を逸らすゆづり。あまりにも露骨な態度に、桃は静かに目を細めた。そして、何か言いたげに口を開いた後、急に立ち上がる。

 無言のままスタスタと歩き、玄関へ向かう桃。急に動き出した彼女にゆづりが呆気に取られていると、桃はこちらを振り返った。


「え、外行かないの」

「あっ、行くのね」


 桃はゆづりの提案を聞き入れ、外に行くつもりだったらしい。なんだコイツという目をしていた。

 どうにも桃とリズムが合わない。ゆづりは苦笑しつつ、外へ出ていってしまった桃を追いかけた。

登場人物


ゆづり…主人公。八星を作ったとされる『創造者』を探している。

(トウ)…土獣星の神。マイペースな竜娘。

開発者…前前代地球の神。三大賢神の一人。

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