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異世界たちと探し人  作者: みあし
一章 土獣星編
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六話 中継場への帰還


 目が覚める。徐々に稼働する目を凝らして時計を見ると、いつもより少し早く起きたことに気付いた。 

 そういえば昨日は早く寝たんだった。ゆづりは寝る前の事を思い出すと、ベランダに繋がるカーテンを開ける。すると、ノアがベランダの上に腰掛けている姿が見えた。


「ノア。入っていいよ」

「おー、おはよう」


 ゆづりが声を掛ければ、ノアは素早く首を回す。そして軽々しくベランダから飛び下りると、すらりと部屋の中に入ってきた。


「まさか、ずっと外見てたの?」

「そうだ。結構面白いぜ、違う星の景色を見るのは」

「へぇ…」

「あっ、あとは消費期限についても調べたな。食べても害は無いんじゃないか。脅かすなよ」

「まぁまぁ。ちなみになんだと思った?」

「食べたら死ぬ食べ物」

「そんなわけ。仮にそうだとしても神なんだから効かないでしょ」


 当然だが、ゆづりはノアを殺す気なんて更々無い。神を殺すとバチが当たりそうだし、何しろノアを殺害する理由なんてない。これから仲良くとまではいかずとも、色々お世話になるつもりだ。


 ゆづりが窓を閉めている背後で、ノアはじっと机に並べている朝食を不思議そうな表情で見つめている。そして、好奇心に我慢ができなくなったらしく、おもむろに一皿手に取ってこちらを振り返った。


「なぁゆづり。これ、何だ?」

「納豆」

「食べ物かこれ?変なニオイがするんだが…」

「れっきとした食べ物だよ。食べる?」

「い、要らない。代わりに昨日の飲み物をくれよ」


 鼻を摘まんで納豆を机に戻すノア。ゆづりはハイハイと言いながら麦茶を差し出す。ノアは麦茶が気に入ったのか、受け取るとすぐに飲んだ。


「五百年生きているのに、ノアってあんまり知識ないんだね」

「当たり前だろ。俺様は地球人じゃないんだ。そう簡単に他の星になんていけないしな」

「へぇ。滅多に行けないんだ」

「あぁ。星の神の許可がないと基本は入れない。ソフィーは比較的緩い方だが、うるさいやつも結構いるんだよ。最近だと、ソフィーの前に地球の神だったヤツとかが面倒だったな」


 ノアはらしくもなくゲンナリした顔をする。どうやらソフィーの前神はかなり生真面目な神だったようだ。


「そんで、ゆづりは今日も学校なのか?」

「ううん。学校は無いよ。だけど、教室は空いているから中継場に行こうと思う」


 今日は土曜日。学校のない日は、ゆづりは大体暇だ。部活はやっていないし、遊ぶ予定も皆無なのだから。


「土日で創造者について、もっと情報を集めないと」

「へぇ。頑張れよ」

「ちょっと。ノアもやるんだよ」

「あいあい分かってるよ」


 何処か他人事のような風を吹かすノアに、ゆづりが目を細めれば、彼は露骨にめんどくさそうな顔をする。加えてはぁと大きくため息をも吐いた。どうやら創造者探しはあまり気乗りしないらしい。

 しかし、それでも約束をすっぽかす気はないようで、ノアは一気に残りの麦茶を飲み干す。そして、空になったグラスを机に戻すと、勢い良く立ち上がった。


「さっ、行こうぜ!」

「いや、今から朝ごはん食べてるから待っててよ」

「………」



****



 ノアの早くしろやという視線に急かされつつも朝食を終え、ゆづりは早速学校へと赴いた。


「なんだか昨日と比べてずいぶん静かだな」

「人が少ないからね」


 土曜日の学校は限られた生徒しかいないため、閑散としている。たまに校庭からサッカー部の声が聞こえてきたり、吹奏楽部が練習している音が響いてたりする以外は無音だ。昨日の騒がしい空気が嘘のように鎮まっている。

 その落差にノアは気味悪そうな顔を見せる。帰宅部のゆづりも、土日は学校なんぞに来ないため、新鮮な感覚に襲われた。


「ここがゆづりの教室だろ?」

「そうだよ。よく覚えてるね」

「まぁな。俺様は天才だからな」

「わぁすごい」

「おい適当に言うな!」


 それぞれの教室は勉強する生徒の為に全て解放されている。だから、生徒が教室にいても何らおかしくないのだが、幸いゆづりの教室には誰も居なかった。これならノアと気軽に話せるし、八星にも簡単に行ける。ラッキーだ。

 

「それで…ここからどうすれば中継場に行けるの?」


 昨日の帰り道、ノアは教室に行けば中継場に行けると話していた。しかし、この教室には謎の扉もなければ、異世界に繋がりそうな鏡もない。

 キョロキョロと忙しなく教室を見て回るゆづりに、ノアも不思議そうに首を傾げる。


「ゆづりは、ここでどうやってソフィーに会ったんだ?それと同じのとすれば、中継場に飛べるぞ」

「えっ…」


 ゆづりの顔から血の気が引いていく。

 ソフィーにどうやって会ったか。そんなの思い出すまでもない。ゆづりがベランダから飛び下りたからだ。何も意識せず、ぼんやりと四階から転落したから、ソフィーに助けられたのだ。


「……マジか…」


 ゆづりはユラユラと吸い込まれるように、ベランダへ出る。そして、冷えた欄干をしっかりと掴んで下を見下ろした。

 ここは四階だ。だから、落下地点であろう地面も程遠い。落ちたらまず死ぬと脳髄に刻み付けてくるくらいには、かなり距離がある。

 それなのに、中継場に行くにはここからもう一度飛び下りないといけないらしい。最悪だ。思わず口からこぼれてしまう。

 

「ゆづり。お前ここから飛び降りたのか?」


 恐怖と絶望に打ち震えるゆづりの隣に、ノアが並ぶ。ゆづりがそうだよと頷けば、彼はへぇと短い返答を寄越した。続けて、恐れや不安など一切見せつけない素振りで、ひょいと欄干に飛び乗る。


「それならさっさと行こうぜ。ほら」


 ノアはバランスを失うことなく、欄干に添えられているゆづりの手を掴む。そして、ひょいと外の世界に背中から落ちた。


「え、ちょ…!」


 転落したノア。それにつられてゆづりの体も、一気に欄干の外側へ引っ張られる。手が離れないのだ。ノアに掴まれた手は、少しも離れる様子を見せず、しっかりと繋がれてしまっている。

 

 そこからはよく覚えていない。

 想像よりも遥かに軽く空を舞ったことと、ノアの手が驚くほど離れなかったことだけは覚えている。

 

 そして。


「おい、起きろ。着いたぞ」


 乱暴に額がつつかれる衝撃で目を覚ましたことも、鮮明に残っていた。


「う……えっ、……え?」

「しっかりしろよ。中継場についたんだぞ」


 昨日と同じようにベッドの上に寝そべるゆづり。その目の前、息のかかりそうなくらいの位置に、ノアの青い瞳が光る。そして、こちらを呆れたような顔で見下ろしているのも、焦点が合い始めた瞳が捉えた。


「大丈夫か?」

「う、うん平気…」


 ゆづりがゆっくり頷けば、ノアは安心したらしい。それなら良かったと呆気なく顔を退かすと、ベッドから離れていく。そこで彼の服装が学ランから、初めて会った時のローブ姿に変わっていることに気づいた。

 いつの前にか着替えたらしい。もしかして結構時間が経っているのかと不安になりつつ体を起こせば、目の前に整った顔があった。


「どうも。おはようございます」

「え、あっ、そ、ソフィー…!?」

「はい。ソフィーです」


 ソフィーだ。彼女は相変わらず穏やかな表情で、ベッドの下の方に腰掛けこちらを見つめていた。

 なるほど。どうやら自分はノアとソフィーの二人に見つめられて寝ていたようだ。

 易々と寝顔を晒してしまった事に対しての羞恥心から、ゆづりの顔がかぁと赤くなる。直後、ゆづりはベッドから転がるようにして逃げ出す。しかし、寝起きで上手く動かせない足がシーツが絡まり、見事顔から床に落ちた。


「鈍臭いな」

「うるさい」

「あら。ノアと仲良くなったみたいですね」

「なってません」


 ノアと親しくなるワケがなかろう。ついさっきだって、ノアにベランダから落とされたのだ。ろくに話すことも伝えることもなく、半ば強制的に。親密になるどころか、少しあった信頼すらも吹き飛んだ。

 細やかな怒りを自分の足に纏わりつくシーツを剥がすことで解消するゆづりの隣、ノアはけろっとした顔で首をかしげた。

 

「それで、ゆづりはどうやって創造者を探す気なんだ?」

「……それは…」

「えっノープランなのかよ」

「………」


 創造者について情報を集めたくて中継場に来たはいい。しかし、具体的にどうするかは決まっていない。

 だって、ヒントがないのだ。創造者がどういう人なのか、誰が創造者について知っているのか、普段は何処にいるのか。何もかもが不明ゆえに、何をしたらいいのかも決まらない。


「……とりあえず、色んな神たちから話は聞いてみたい。創造者について何か知らないかって」

「ふーん、妥当なやり方だな。ちなみに誰から聞きに行くつもりだ?」

「シンギュラリティ」

「あぁ。アイツが創造者に会ってるからか」

「うん。そう」

 

 シンギュラリティ含む機械人は、創造者が五十年に一度、中継場に来る理由だ。だから、彼女は創造者について何かしらは知っているはず。

 ゆづりの無難な案にノアは特に反論しない。ソフィーもそれは同じようで、それならと呟き立ち上がる。


「私がシンギュラリティをここに呼んできましょう。ゆづりはまだ疲れが残ってると思うので、休んでいてください」

「えっ、あ、ありがとうございます」


 ソフィーの気遣いに、ゆづりは咄嗟に立ち上がろうとする。が、足がまともに動かず、ソフィーが部屋を出ていくのを見送ることしか出来なかった。


「中継場に来る時って、毎回こんなに動けなくなるんだ…」

「神も同じようなもんだぜ。次第に慣れていって無くなるけどな」

「……神じゃない人は?」

「知らないな。俺様はただの人間をここに呼ぶことなんてしないからな」

「しないんだ」

「しない。俺様だけじゃなくて大半の神はやらないぞ。……あっ、でも、代替わりの時は呼ぶヤツもいるな。合意を取るとか何らかで」

「代替わり…?それって神の座のだよね」

「そうだ。神を辞めたくなったら他の神に頼むか、自分の星の生きている人間から選んで渡すんだ。その時に、相手をここに呼ぶ神は稀にいる」

「へぇ。じゃあ私も神になれるんだ」


 ノアはコクりと頷く。

 こんな何も取り柄の無い人間でも神になれるなんて、かなり適当な選び方だ。もっと賢者から選ぶとか、世襲制でもしないと、星が滅茶苦茶になってしまうのではないか。

 ゆづりがその懸念を元にノアへ質問をしようとした矢先、待ち人たちが帰ってきた。


「お待たせしました。シンギュラリティです」

「肯定。要件?」


 にこやかに微笑むソフィーの後ろ、シンギュラリティが真顔で突っ立っている。

 シンギュラリティは急いでいるのか、部屋に入ってくることはない。ドアの付近に立って、じっとこちらを見つめている。

 どうやら忙しいらしい。急に呼び出して申し訳なく思ったゆづりは、挨拶を抜かして本題に入ることにした。


「創造者からの命令を下されてるんですよね。それって五十年に一度ですか」

「肯定。次回約人間歴一年。他?」

「その命令内容は教えてもらえたりしますか?」

「秘匿。…譲歩。天機星運営指標提示。他?」

「創造者ってどんな人ですか?どこの星の人だとか」

「秘匿。他?」

「秘匿?」

「秘匿。他?」

「……もう大丈夫です。お時間ありがとうございました」


 知らないでは無く、秘匿。ゆづりはあれと思ったが、シンギュラリティの圧に負けて話を終わらせる。

 シンギュラリティは背を向けると、そのまま部屋を出ていく。頭と繋いでいるコードが尻尾のように揺れていた。それをじっと見つめていると、一つの影が視界に入り込む。


「ほら、俺様の話は合ってただろ?」

「うん。はい」

「なんか雑だな!」


 なぜか誇らしげなノア。ゆづりは適当にあしらうと、これからの事を考える。

 創造者と会えるのは約一年後。その間の一年間、色々な星を巡って創造者を探す必要性は低い。どうせ見つからないだろうから。

 むしろ探し回るより、他の神から話を聞いた方が早そうだ。少なくともシンギュラリティは何か知っているはず。しかし教えてくれなさそうだ。ロボットなら拷問なども無意味だろうし。

 うーんうーんと唸りながら頭を回すゆづりに、ソフィーが柔らかい声をかける。


「ゆづり。頑張ってくれていますね」

「そりゃ頑張りますよ。死ねなくなってますし…それで、参考までに聞いておきたいんですけど、ソフィーはどうやって創造者のこと見つけようとしているんですか?」

「そうですね。実はそこまで頑張って無いです」

「えっ?」


 急な梯子外しにゆづりは目を見開くと、身を乗り出す。

 昨日はあんなに創造者に会いたい、会いたいと気味悪く言っていたのに、なんで今日になってこんなに淡々とした態度に変わっているんだ。

 創造者を見つけないと死ねない身にされたゆづりとしては、聞き流せない話なのだが。

 ゆづりの戸惑いがソフィーに伝わったのか、彼女は首を振って自分の髪を触れる。


「弁明します。聞いて下さい」

「は、はい」

「私は創造者に会いたい。しかし、その理由は創造者を見つけること以外でも解決できる」

「…なるほど?」

「今もう動けますか?見た方が分かりやすいですので」


 ソフィーはゆづりの腰に手を回す。そして、宇宙空間が見渡せる部屋に導いた。

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