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異世界たちと探し人  作者: みあし
二章 火敵星編

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6話 悪巧みは光の下で


 桃とゲームを済ませ、学校へと赴いたゆづり。その近くに桃の姿はない。彼女はすでに中継場へ行ってしまっているからだ。

 

「つ、疲れた…」


 一人になった途端、ゆづりは自分の机に臥す。


 疲れた。やっと解放された。

 何でゲームをしただけで、こんなに疲れているのだと思うだろう。理由は簡単だ。桃がうるさいから。それだけ。

 ゆづりは桃を適当に持ち上げて褒めてプレイすればいいと思っていた。しかし、違った。彼女はゆづりがゲームが下手なことを認めなかった。彼女はゆづりを己のライバルにするために、もっと上手くなれ早くなれと説教してきたのだ。

 その彼女の剣呑に呑まれて、ゆづりは必死でゲームをした。文字通り必死だ。下手なプレイをすれば殴られると思い、全神経を尖らせてゲームに向き合った。


 そのせいでゆづりの心と体は朝っぱらからボロボロだ。金曜日の夕方くらいには疲れている。


「でも、翻訳はしないと」


 ゆづりは桃が何か問題を起こすことを踏んで、いつもより早く家を出た。

 しかし、桃は特に何もすることもなく、大人しくゆづりに着いてきてくれた。そのため、始業までにはかなり時間が余っている。


 現在、教室には生徒の姿がない。この静かな環境は絶好の勉強日和だ。開発者の本の翻訳も進めやすい。

 ゆづりは早速、鞄から開発者の日記を取り出すと、本を広げる。そして、翻訳を進めようとしてシャーペンを取り出して、手を止めた。


「そうだ。あの子の名前把握しておくか」


 昨日、一緒に帰ったクラスメイトの子の名前。そろそろ名前くらい知っておかないと面倒なことになりそうだ。

 ゆづりは教壇に上がると、教卓においてある紙を見る。これは先生が生徒を指名するときに用いるもので、席表に名前が書いてある。つまり、あのクラスメイトの席が分からないと、名前も分からないというもので。


「あれ、あの人ってどこに座ってたっけ」


 少なくとも自分の席の近くではなかったはずだ。微かな記憶を元にあのクラスメイトを思い浮かべるが、興味がない人がどこの席に座っているかなど知っているわけもない。

 まぁ、別に急ぎの用ではないんだ。あの子が登校したら席を確認すればいい。ゆづりは早々に見切りを付けると、教壇から降りる。その直後、ガラリと勢いよく教室のドアが開けられた。


「あっ、佐々木さん。おはよう」

「お、おはよう」


 入ってきたのは運良く、あのクラスメイトだ。

 彼はゆづりに挨拶をすると、持っていた荷物を自席において、中身を机の中に積めていく。

 ゆづりはすかさず教壇に戻ると、彼のいる席と紙の席順を照らし合わせる。すると、彼の席を示す枠の中に、古葉(こば)という文字が書かれていた。


「へぇ…」


 古い葉っぱ。珍しいし、和風で綺麗な名字だ。そう簡単には忘れそうにない名字に、ゆづりはほっと息をつく。


「佐々木さん、さっそく仕事してるの?」

「仕事?なんの?」

「日直の。今日は佐々木さんが日直でしょ」


 教壇の上でぼんやりと名字を見つめるゆづりに、古葉は人差し指を向けた。しかし、彼が指しているのはゆづりではなく、黒板の端、日直当番を示す欄だ。


「あぁ本当だ」


 古葉の言う通り、枠の中にはゆづりの名字が刻まれていた。

 日直は朝のホームルームが始まる前に、職員室前から名簿と日誌を取って来ないといけない。面倒でしかない役職だ。

 ゆづりははぁとため息をつくと教壇から降りる。そして、さっさと仕事を済ませようと、教室を出ていった。



****



 ゆづりと古葉、二人しかいない教室から、一人去った。だから、もともと静寂に澄んでいた教室は、さらに静まり返るかと思いきや。


「悪いね」


 ゆづりの足音が遠退くのと同時進行で、古葉の足が動き出していた。彼の目的地は、たった今空になったゆづりの席だ。

 古葉はあたかも当たり前のように、ゆづりの机の中に近寄る。そして、机上に放置されていた本を見下ろした。

 すこし古ぼけた、Developerと刻まれた本を。


「あぁ、やっぱりこれか…」


 古葉はしかめっ面のままペラペラとページを捲り、内容を漁る。見ているのはゆづりが翻訳している前半部分ではなく、終盤に近い後半部分だ。


 彼はしばらく黙々と本を読み進めていた。しかし、とあるページに差しあった直後、不意に目の動きを止める。

 そして、ノータイムでページを破り取ると、そのまま奪い取った。


「ま、これで平気だろう」


 悪趣味なことに、古葉の切り方は丁寧で綺麗だった。

 だから、ゆづりはこの本からページが抜かれたと気づかないだろう。まして、クラスメイトがこんな短時間で切ったなんて、夢にも思わないはすだ。


「これは適当に処理しておこう」


 古葉は切り取ったページを窓から差し込む朝日に掲げる。が、すぐに自席に戻ると、鞄の奥へ奥へと突っ込んだ。

 とても日なんて当たりそうにない、深い奥底へと。

登場人物


ゆづり…主人公。創造者を探している。

桃…土獣星の神。乱暴な性格の持ち主。

謎の少年…ゆづりのクラスメイト。ゆづりに一度死んだことがあるか尋ねたことがある。

開発者…昔の地球の神。創造者について何か知っていた?

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