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異世界たちと探し人  作者: みあし
二章 火敵星編
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5話 我が儘な君にお願いを


 ちょいちょい攻撃を仕掛けてくる桃の手から逃げ惑いながらも、翻訳を進めること数時間。いつの間にか時計の針は十二時を回っていた。


 流石にオールする気はなかったゆづりは、桃に寝ると一方的に告げると睡眠に突入する。

 そして、次に目を覚ました時には、針は午前六時まで進んでいた。


 その後、朝食を食べながらキリのいいところまで翻訳を進め、どうにかこうにか数ページ文の日本語訳を作成した。以下がその文章だ。


 「神の転生について。

 神は神の座を降りると、自分の星又は他の星へ転生する。この規定について議論する余地があることをここに示す。


 自分の一個前、地球の神だった『悲観者』は自分を神にした後、地球を選択して転生した。

 その数年後、私は彼女に良く似た容姿を持つ女性を地球で見つけた。二十代半ばの、結婚して間もない幸福な女性。彼女を観察し続けた結果、仕草や性格などの要素も彼女と酷似していることに気づいた。


 ここで仮説を立てる。転生といっても一から生命が生まれるのではなく、すでにある命に入り込み転生とする場合があるのではないか、と。

 つまり、神の座を降りた際、悲観者の人格が全く関係のない他者に影響させ、その他人の精神を乗っ取っているのではないか、と。


 もし、後者が成立するなら自分が神の座を降りた後でも、記憶を保持したまま生きることだって可能だ。

 自分が神の座にいる内に、その人格を入られる器となる人物に接触し、今保持している知識を与えればいいのだから。


 問題はその者が誰か知る術がないと言うこと、転生方法が前者と後者、どちらになるか不明な点だ。

 でも、ポジティブに言い換えれば、その二点さえ判明させられれば、神でなくとも私はここについて知ったままでいられるのだろう。

 ひどく心の踊る話だ。久々に研究者としての実力を見せつけてやろう。」


 

 辞書を酷使し、時間を多く費やして作り上がった文章は、我ながらいい出来だと思う。少なくとも、ノアのタジタジな翻訳よりは比較にならないほどいいのではないだろうか。

 達成感と共にゆづりは完成した文を見つめる。そして、満足した後、気になる部分に黄色のマーカーを引いた。

 神の記憶を維持したまま、転生出来るのではないかと云う、部分を。

 

「もしかしたら、『開発者』は神としての記憶を持ったまま転生している可能性があるのか」


 開発者が神としての記憶を維持したまま転生しているとしたら、その人を見つけて話を聞きたい。もしかしたら、開発者は創造者について何か分かっていたのかもしれないのだから。


 ただ、ゆづりは開発者がどの星に転生したのか知らない。そして、仮に星を特定したとしても、彼女が現在、何をしているかは分からない。

 そもそも今の話も可能性があるという話をしているだけで、転生が百パーセント成功したという保証もないのだ。

 かもしれない、なんとかだろう。そんな曖昧な推測の言葉しか使えないくらいには、ゆづりは開発者に対して知識がない。

 だから、これからゆづりは、まだまだ残っている開発者の本を翻訳し続けないといけないのだろう。


「ねね、終わった?」

「うわっ!」


 これから襲い来るであろう労力に、ゆづりが本の前で途方にくれていれば、後ろからバシリと頭を叩かれた。

 殴ってきたのは言うまでもない。桃だ。ゆづりが咄嗟に振り返れば、彼女はゲーム片手にこちらを見下ろしていた。


「ね、やろ。これ、やろ」

「お、おぉ……」


 しつこい。これで百回目になるくらいには、彼女に誘われている。

 しかし、ゆづりはゲームなんぞする気はない。ゆづりの今の選択肢は、開発者の本を翻訳するか、朝飯を食べるかの二択だ。

 だから、桃の誘いを断りたいのだが、それもまぁ簡単じゃない。拗ねられて殴られたり蹴られたりするのは構わないのだが、暴れて家を壊されたら困る。下手に彼女を怒らせたくない。


 ゲームはしたくない。だからといって桃の機嫌を損ねたくない。おそらく両立など出来ない案なのだが、ゆづりは必死に頭を回し妥協策を探す。

 すると、桃はゆづりから返答がないことに痺れを切らしたらしい。彼女はゆづりの腰に抱きつくと、勢いにのせてゆづりを椅子から引き摺り落とした。


「え」


 目前で揺れる紫色。その中に光る月色の瞳。ペチリと足にぶつかる大きな尻尾。

 桃に押し倒された。ゆづりはワンテンポ遅れて現状を理解する。しかし桃はそんなものとっくに知っているため、どんどん前に進んでいった。


「ね、やろ?」

「あっ、その……」

「うんって言え。うんって」


 桃はグイッとゆづりの頬を鷲掴む。そして、息が吹きかかるくらい顔を近づけてくる。

 近い。そして、何より怖い。

 もう桃の誘いを断るのは無理だ。こんな状況で拒否できるほど、ゆづりの心は強くない。

 桃の圧にゆづりはあっという間に陥落する。そして、大人しく桃の誘いに乗ろうと、うんと頷いたのだが。


「や、なんか無理矢理。良くないこれ」


 桃の方からゆづりの承認を否定された。それどころか、潔くゆづりの上からも降りていく。

 この竜にも気遣いの心はあるらしい。ゆづりは桃の見せた態度にここは夢なのかと一瞬疑う。しかし、桃に腹をつつかれた痛みに、やっぱり現実なんだと戻された。


「そんじゃ、分かった。桃が君のお願いを聞く。だから、君も桃のお願い聞いて」

「え」

「は?これでもダメなの」


 何か文句でもあんのか。桃のしかめっ面はありありとそう語っている。

 こちらに譲歩できる程度の人間性は見せられる。が、短気な性格はどうしても隠せないらしい。

 元々了承する気だったゆづりは再びコクコクと頷く。すると、桃は冷淡とした表情に少し色を入れて、やったと呟いた。

 これなら桃の倫理に沿った契約になったらしい。ゆづりはよく分かんないなと思いつつ、体を起こす。すると早速、桃に顔を覗かれた。


「で、桃は何をすればいい?」

「そうだな……」


 そんなこと急に言われても、すぐには答えられない。

 いや、もちろん、頼みたいことは多くあるのだ。創造者を見つけてきてくれとか、転生した開発者を見つけてくれとか。深く考えなくてもポンポンと出てくる。


 しかし、どれも無茶だ。ゆづりとゲームをするというお願いと全く釣り合っていない。そんなこと提案したら、不機嫌になった桃に殺される。


 ゆづりはどうしたものかと悩む。すると、思考の中にとあることが紛れ込んできた。

 理解者にもらった葉っぱのことだ。色んな星の文字で言葉で『創造者』と書かれた、あの葉っぱ。

 ゆづりは桃にお願いする内容を決める。それ同時、近くにあったノートを千切って、葉っぱに刻まれている文字を書き写した。そして、その紙片を桃に手渡す。


「これ、全部『創造者』を意味する文字。で、桃にはこの単語が書かれている本を資料室から探して欲しいんだけど、その…」

「ふーん。いいよ」

「え」

「ん、いいよ。やったげる」


 桃は事の大変さに気づいていないのか、それともどうとでもなると踏んでいるのか、ゆづりの案を呆気なく受け入れる。

 そんな桃の返答に、ゆづりはまたも置いていかれる。しかし、桃に手を掴まれ、いや粉砕され、我に帰らされた。


「じゃ、しよ」


 桃はグイグイとゆづりの腕を引っ張り、無理矢理ゲームを握らせる。そして、タイムアタックねと幼児のような笑顔を見せて、ゆづりにプレイしろと強いてきた。

登場人物


ゆづり…主人公。創造者を探している。

桃…土獣星の神。喧嘩好きの物騒な娘。

『開発者』…昔の地球の神。創造者について何か知っていた?

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