表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界たちと探し人  作者: みあし
二章 火敵星編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/73

2話 新天地には不穏な風が


 一から戻った創造者探しを再開すると決めたものの、具体的なやり方は今だ思い付いてはいない。


 今日一日、ゆづりは学校で授業を受けながら、色々策を考えてはいた。

 しかし、出てきた案は本を理解者に翻訳してもらって新たな手がかりを探すこと、在監者の所へ行き過去を覗くこと、そして神たちに創造者について聞いて回ることくらいだ。

 どれも確実に創造者が見つかる手ではない。が、地道に情報を積んでいけば、創造者の輪郭くらいは掴めると信じたい。


「やぁ」


 放課後、八星に渡るために、教室から全員いなくなるのを待っているゆづり。その背後から気さくな声が掛けられた。

 ゆづりは無造作に振り返る。すると、そこには雨の日の公園で会った青年が立っていた。


「あぁ、あん時の…」


 この青年はゆづりのクラスメイトで合っていたらしい。

 ゆづりが自分のうろ覚えの記憶を褒めていれば、相手は不思議そうな顔をした。ゆづりは咄嗟にヘラりと笑うと、なんでもないと首を振る。

 流石にあなたのことクラスメイトだって覚えてました。名前は知らないけど。とは言えるわけがなかった。あまりにも失礼すぎる。


「佐々木さん、最近帰るの遅いよね。何か用事でもあるの?」

「えっ?あぁ…勉強でもしようかなって」


 ゆづりは、たまたま手元にあった教科書を引き寄せる。もちろん中継場に行くからだよなんてこと、言えるわけがない。こうも机を散らかした過去の自分に感謝だ。


「へぇ。偉いね」

「あ、ありがとう……。それで、私に何か用でも…?」

「よかったら、一緒に帰らない」

「えっ」

「君に聞きたいことがあるんだ」


 クラスメイトはゆづりの目を真っ直ぐに射貫くと、困ったように笑う。遠慮しているかのような口調だが、目にはかなり自我がある。よほど、ゆづりに言いたいことがあるようだ。

 一方、ゆづりの方には全く心当たりがない。それもそうだ。ゆづりはこのクラスメイトの存在すらも最近意識したようなものなのだ。彼に話したいこともなければ、聞きたいことも全くない。


「分かった。いいよ」


 しかし、このクラスメイトが何を言いたいのか気になったゆづりは、特に躊躇うこともなく承認する。すると、彼はありがとうと微笑み、廊下で待っていると言い残して教室を出ていった。


「……まぁ、話聞いたら、もう一回ここに戻ってくればいいか」


 帰宅しつつクラスメイトの話を聞いて、再び学校へ戻って中継場へ行く。その労力を考えるだけで眩暈がするが、どうせ教室が空になるのは当分後だ。それまでの暇潰しと思えばいい。

 ゆづりは手早く机の上を片付ける。そして、教室を出ていった彼を追いかけた。



****



 廊下でクラスメイトと合流し、特に何もすることなく、校門を出たゆづり。

 さて、聞きたいこととはなんだと彼に視線を送れば、相手は不意に目の前の道路を指差した。

 

「佐々木さんって家、こっちだよね」

「そうだけど。なんで知ってるの?」

「俺も家こっちだから。佐々木さんのこともたびたび見かけてたよ」

「へぇ」


 この人にはスパイの英才教育でも叩き込まれているのだろうか。

 ゆづりが人のことよく見ているなと感心していれば、彼はぎょっとするようなことを言い出す。


「それに俺たち、小学校が同じだしね」

「えっ、そうなの?」

「えぇ覚えてないの?!」


 素でゆづりが驚けば、相手も口をあんぐり開けて固まる。そして、少し悲しそうな顔を見せた。

 その顔に良心が痛んだゆづりは、即座に頭を回すと彼が誰なのかを思い出す。

 彼とゆづりは小学校が同じ。こんなことわざわざ言うということは、おそらくクラスも同じだったと考えられる。だが、何年生の時に一緒だったのかが分からない。ゆづりはクラスメイトの顔を思い浮かべては、目の前の彼の顔と比べてみたが、彼が誰なのかは結局分からなかった。


「ほら、俺が転入生として君のクラスに入ったんだよ」 

「転入生…?君ってここに引っ越してきたの?」

「うん。五年生の時にね」


 ゆづりがダラダラと汗を垂らしながら記憶を掘っていれば、相手が助け舟を出してくれた。が、やはり分からない。転入生という分かりやすい特徴を与えられてもなお、ゆづりの頭にはそんな人いたなと云う曖昧な記憶すら出てこなかった。


「まっ、話したことはあんまりないから、それも当然なのかもね」


 ゆづりが何も言えずに困っていれば、彼は諦めたのかそう言って笑った。そして、その気まずさを消すためか、一方的に話し始める。


 彼の話す内容は合唱祭面倒だねとかテスト近いねとか、当たり障りないことだ。ゆづりが返答に詰まることはまずないような、至って差し当りのない話。

 しかし、ゆづりはまたも芳しい返事は出来ずに、適当な返事をして返していた。彼のことが嫌いとかではない。彼のことを知らなすぎるがあまり、下手に返答できなかったのだ。

 例えば。


「佐々木さんはいつも一人で帰ってるの?」

「うん。部活やってないから。…その、君は今日は部活とかないの?」

「俺は部活には入ってないよ。面倒だからね」

「あぁそうなんだ…」


 とまぁ、余計な相づちを挟めばボロが出る。適当にうんだのあぁだの返した方がいい。それに頭を使わなくていいから楽だ。

 ゆづりが会話に意味を持たせることなく、脳死で返答すること数分。帰り道も折り返し地点に来たなという頃、ようやくクラスメイトは本題へと入った。


「それで、肝心の聞きたいことなんだけどさ」

「うん。何?」


 足を止めたクラスメイトに合わせて、ゆづりも道の端で静止する。そして、相手の顔を見上げれば、彼はしばし言い辛そうにした後、ゆづりの黒瞳を射貫いた。そして。


「佐々木さん。君って、死んだことある?」


 ゆづりの心臓までも、的確に撃ち抜いた。


「……えっ」


 今、この子、なんと言った。死んだことある。今、そう言ったか。


 衝撃的なクラスメイトの言葉に、ゆづりの生ぬるい会話で蕩けた脳が覚醒する。そして、彼の名前を思い出そうとした時の比ではないスピードで、一気に思考を回しだした。


 死んだことある。どういう意味だ。まさかこの子、自分が飛び降りるのを見ていたのか。

 いいや、ゆづりは中継場に行く時には、ちゃんと周りに人がいないことを確認している。妥協はしていない。確実に人気のない時に、ベランダから飛び下りている。だから、彼にその姿を見られているわけがない。

 しかし、現にこのクラスメイトはゆづりに死んだことがあるか聞いている。こんなのゆづりの自殺現場でも目撃しないと、まず聞いてこないだろう。なら、ゆづりの視界の外で、中継場に行く姿を見られていたと考えるのが普通か。


 しくったなと心中穏やかでないゆづりに対して、クラスメイトの様子は先程と何も変わっていない。彼はゆづりが戸惑った顔を見せれば、変なこと聞いたねと謝ってきた。


「驚かせてごめんね」

「それは別にいいんだけど……でも、急になんで死んだことあるなんて聞いてきたの」

「前の金曜日にさ、ちょっと変な光景を見て」

「……金曜日」


 先週の金曜日は、ゆづりが始めて中継場に行った日だ。何も考えずにベランダから飛び下りて、ソフィーに助けられたあの日。

 まさかこの時か。ゆづりが今後の展開を察して青ざめれば、彼はゆづりの予想にピッタリ一致することを言い出す。


「その日の朝さ、俺、佐々木さんみたいな人が教室のベランダにいたのを見たんだ。で、何やってんだろうて見てたら、その人フラってベランダの外に身を投げちゃったんだ」

「……うん」

「俺、めっちゃ焦ってベランダに出たんだ。でも、いくら下を見てもそこには誰もいなかった。死体もないし、人の気配も一切なかった」

「………」

「だから、その時は変な幽霊でも見たんだなって気にしなかったんだけど、それにしては後ろ姿が佐々木さんに似てたんだ。君の髪の長さも、身長も、雰囲気とかも、本人なんじゃないかってくらい似てた。だから、ちょっと気になってて、君に声かけてみた」


 彼はその時のことを思い出したのか、気味悪そうな顔をする。それもそうだろう。ゆづりが本当に飛び下りていたとしたら気分が悪いし、幽霊なら幽霊で背筋が凍る。どっちにせよ、怖いものを見たことには代わりない。


「……なるほどねぇ…」


 ゆづりも彼への同情心から顔をしかめ、内心で朝から変なものを見せてごめんと謝った。

 が、その謝意を口にすることはない。ゆづりはそんな様子をおくびも出さず、困ったように微笑む。そして、真っ向から彼の見たものを否定してやった。


「それ、幽霊じゃない。私は飛び下りなんてしてないし、やったとしても、今こうして生きてるわけだし…」

「やっぱり、そうだよね。人間が四階から落ちて、無事でいられるわけないしさ」


 実際はそのまさかなのだが、ここは魔法のない世界。彼が本当のことには気づくことはないだろう。

 ゆづりは下手なことを言って墓穴を掘ることを恐れ、曖昧に笑うに留める。すると、彼はもうゆづりのことを疑う気はないようで、自分の霊感を心配する路線へ進んでいた。


「変なもの見ちゃったな。今度、お祓いとか行かないと」

「…うん、そうしなよ」

「ホントにごめんね、佐々木さん。変なこと聞いて」

「ううん。それは平気…」


 ゆづりが首を振れば、彼の中では区切りがついたようだ。彼は何事もなかったかのように、また脳死で返答すればいいような話題を持ち出していた。


「………」


 ゆづりは彼の話の方向が元に戻ったことに安堵する。そして、またも適当な返事をしつつ、彼の話に耳を傾けた。



「じゃあ、俺はこっちだから」


 そのまま彼の雑談に返事をしつつ、帰路を辿っていれば、相手は不意に足を止める。そして、ゆづりの家のある方向とは反対の道に進んでいった。


「今日はありがとう。また明日、学校で」

「うん。ばいばい」


 クラスメイトはゆづりに挨拶すると、踵を返してそのまま真っ直ぐ進んでいく。彼の後ろ姿は徐々に小さくなり、左へ曲がるとゆづりの視界から外れた。


「………」


 もう学校へ引き返しても大丈夫だろうとは思った。しかし、あんなことを言われた手前、警戒心は解けない。

 ゆづりはもう少々その場で待機する。そして、一分程度経った後、ようやく来た道を引き返した。


 それでも、あの青年がこちらを見ていたとは、つゆも知らずに。

登場人物


ゆづり…主人公。不死の体を持つ。『創造者』を探している。

クラスメイト…三十話「雨と傘」で出てきた少年。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ