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異世界たちと探し人  作者: みあし
一章 土獣星編
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三話 探し人と協力者


 とんでもない事になった。

 ゆづりは呆然と自分の体を見下ろし、ソフィーに刺された場所を何度も擦る。しかし、何度確認しようとも腹に痛みもなければ、血も流れていない。傷痕も一切ない。

 どうやら、ゆづりは本当に不死の体になってしまったらしい。


「な、なんでこんなことを…」


 ゆづりは何もかも分からぬまま立ち上がる。そして、ソフィーを改めて問い詰めようとすれば、彼女は無言で空っぽの席を指差した。

 座れと言いたいらしい。彼女の命令に従うことは腹は立つが、ここでゴネても仕方ない。

 ゆづりは不肖ながらも素直に従い、体を元に戻してくれと視線で訴えた。


「そんな目しなくとも元に戻しますよ」

「ほ、本当ですか…?!」

「えぇ。お願い聞いてくれればですけど」

「お、お願い…?」


 不穏な話にゆづりは眉をひそめる。神であるソフィーから、一介の人間であるゆづりへ頼むことなんて、何があるのだろうか。

 もしかして、彼女はゆづりが先ほどの転生云々の話を断ったから怒っているのだろうか。だから、こんな遠回りなことをしてまで転生させようとしているのか。

 ゆづりはなんとなくお願いの内容を考察する。しかし、ソフィーはゆづりの考えとは全く見当違いのことを言ってきた。


「貴女に見つけて欲しい人がいるんです」

「…はぁ……?」

「ずっと探しているんですが、見つかりそうにないんです。なので、ゆづりにも協力してもらおうかなと」

 

 想定外中の想定外のような話に、ゆづりは口をあんぐりと開けて固まる。

 だって人探しだ。勝手にキスをして、不死の体にさせてまで、ゆづりにさせたいことが人を探すことなのだ。

 色々と疑問はある。まずはなんでゆづりなのかという話だ。自分はただの中学生で探偵でもなんでもない。そもそも人選をミスっている。


「あの、人探しさせるだけなら私じゃない方がいいんじゃ…」

「いいえ。貴女でないと困りますね」

「…ごめんなさい。素直になんでですか?私は人を見つける力を持つ超能力者じゃないんですけど」

「もちろんそんなことは知ってます。ゆづりは普通の女の子です。それでも、私には貴女が必要なんです」


 ソフィーは真摯な眼差しをゆづりへ向ける。はじめましての人に向けるには、いささか重い、そんな眼差しを。

 当たり前だが、ゆづりはソフィーと過去に面識はない。だから、昔会ったという話ではないはずだ。そもそも、こんなこと言われるような関係の人間なんてゆづりには誰一人としていないし。

 なんだか気味が悪いなとゆづりが困惑していれば、ソフィーはおかしそうにけらけらと笑う。そして「他の理由を話しましょうか」とゆづりの胸を指差した。

 

「命を捨てる気なのなら、私が拾って使ってもいいでしょう?と」

「あぁなるほど……」


 非情な理由だが、そっちの方が分かりやすい。初対面であんな湿っぽい感情をぶつけられるよりは、遥かに理解できる。


「それでも、まだ分からないことがあるんですけど」

「はい。なんでしょう」

「なんで私を不死の体にしたんですか?」

「死なれたら困るからですね」

「…………」


 ソフィーはけろっとした顔で答える。ゆづりはこれ以上ない簡素かつ分かりやすい説明に口を閉ざすしかなかった。


「そろそろ私の話を進めてもいいですか?」

「…はい。どうぞ」

「まず、私が探している人の名前は『創造者』です」 

「そうぞうしゃ…?」

「はい。創造者はおよそ千年前に、ここ八星を作った人物だと言われています」

「千年前?!」


 思いがけないスケールの話に、ゆづりは堪らず突っかかる。

 人探しでゆづりに執着しているから、ゆづりの知人や親戚の人なのかと思っていた。

 が、相手は千年に生きていた人らしい。そんな人、ゆづりの知り合いのわけがないし、言っちゃ悪いが確実に死んでいるだろう。見つかる訳がない。


「気分を害したら申し訳ないんですけど」

「はい」

「その人は生きているんですか。千年前の人なんて、その…亡くなってたりするんじゃ…」

「生きてます。それは確実です。証拠ももちろん見せましょう」


 ソフィーは真剣な顔で、一点を見つめる。

 生きてるから生きてるんですとか、盲目な信者みたいな事を言い出したらどうしよう。ゆづりがソワソワしつつ、証拠の提示を待っていると彼女は立ち上がり扉を開けた。そして着いてこいと言うように、手招きする。

 ゆづりは無言で扉を抜ける。すると、そこにいくつかの人の姿があった。


「誰?」


 その中から最初に口を開いたのは、重そうな黒い上着を着た青年だった。変な寝癖のついた紫紺の髪が揺れ、ぱっちりと大きいサファイアの瞳がゆづりを取られている。顔立ちはかなり整っており、思わず目が奪われる。すると、彼はなんだよと目を細めてきた。

 ヤンキーみたいだ。ゆづりは怖い怖いと内心で呟きつつ、目をそらす。するとその先で、ソフィーがメイド服を着た女性の肩に顎を乗せていた。


「この子が証明です」

「疑問。不服。要件不明」

「…この人って『代表者』ですか?」

「驚愕。疑問。何故名前既知?」


 機械のような少女…いや機械、代表者はゆづりの呟きに淡々と疑問を提示した。

 代表者はロボット社会の天機星の神の名前だ。だから、神も目の前にいる女性のようにロボットなのだろうと推理して言ってみたら、ビンゴだった。ゆづりはまじまじと目の前の女性を見つめる。

 それにしても良くできたロボットだ。パッと見なら人に見える。でも、こうしてしっかりみれば機械だと看破するのは簡単だ。顔は可愛らしい人間そのものだが、ツインテールに纏まった髪の先にコンセントのようなものが飾られ、耳にはヘッドフォンがついていているのだから。


「ふふ、察しがいいですね。この人の名前はシンギュラリティです。是非そちらの名前も覚えていてください」

「はい。…で、この子がなんの証明に?」

「この子は創造者が残した遺産物なんです。彼女…いや全ての機械人は創造者の命令を元に動きます」

「無問題。説明差異皆無」

「創造者は今でも彼女たちに命令を下しています。実際、彼女が星を管理しているのも、創造者の命令によってです」

「無問題。説明差異皆無」

「だから、創造者は今も何処かで生きている。命令を下していますから。生憎、姿は見せませんけどね」

「……なるほど…?」


 シンギュラリティの無機質すぎる声に思考が混乱しながらも、ゆづりは要約を済ませる。

 要はシンギュラリティが今でも創造者から命令を受けているから、創造者は生きている、ということなのだろう。

 本当にその命令は創造者から来ているのか、シンギュラリティが命令にしか動かないというのも本当なのかなど、色々怪しい部分はある。が、言わないでおこう。言ったところで、じゃあ人探しは止めましょうとはならない気がするし。


「どうです?探してくれますか?」

「……最初から私に選択肢はないでしょうに」


 仮にここでゆづりが拒絶しても、何も状況は変わらない。不死の呪いは解かれないままソフィーに見放され、永遠に生きる羽目になるのだ。何十、何百、何千年もの長い間、今のような空虚な日々を送り続け生きるしかなくなる。

 

 それは勘弁だ。ちゃんと終わりのある人生を歩みたい。

 だから、ゆづりはどんな不平不満があろうと受け入れて、創造者とやらを探さないといけない。それしか道がない。


 それでも抵抗するように、ゆづりはけっと悪態をつく。が、ソフィーはニコニコと笑顔受け流すだけで、特に気にしている様子はなかった。


「それではよろしくお願いします」

「はいって言いたいんですけど、実際私は何をすれば?」


 ゆづりは創造者の顔も名前も性別も知らない。そんな人をどうやって探せばいいのだろう。何か特徴でもあるのだろうか。

 しかし、ソフィーはゆづりの求めている答えは言わず、とんでもないことを言い出す。


「簡単ですよ。色々な星に行くんです」

「八星にですか」

「そうです。創造者は必ず何処かの星にはいます。だから隅々まで見て回れば見つかります」

「……なるほど?それで創造者の特徴とかは?」

「さぁ。私は会ったことはありませんので」

「は?」


 ソフィーの曖昧な返事に、ゆづりは一回耳を疑った後に、ソフィーを疑った。

 創造者を見つけてほしい。でも、どこにいるのかも、どんな人なのかも分からない。ソフィーはこう言っているのだ。

 こんなの見つかる訳がないだろう。仮に世界を見て回ったとして、会った人が創造者かどうか確かめる術がなければ、どうにも出来ないじゃないか。 

 全く先の見えない話にゆづりが早くも諦めている側で、ソフィーはさっさと話を進めてしまう。


「もちろんゆづり一人だと大変です。だからノア、手伝ってください」

「え、俺様が?」

「はい。……あぁ、紹介します。彼はノア。水魔星の神です」


 ソフィーはノアをゆづりの前に出すと律儀に紹介してくる。

 おもむろにソフィーから指名されたノアは、物珍しい動物を見るのと同等の目を向けてくる。ゆづりも思わずコイツかよと反射的に顔を歪めてしまった。

 ゆづりとノアはもちろん初対面だが、きっとゆづりの嫌いなタイプだ。俺様とか言っている時点で、もうダメな気がぷんぷんする。シンギュラリティに手伝ってもらった方が、有能で早く終わりそうなのだが。


「なんだよお前」

「…なんでもないですけど」


 ムッとノアが不機嫌そうに近寄り、威嚇してくる。もしかしてゆづりが失礼な事を考えているのが彼にバレているのか。

 よく考えれば彼は魔法のある世界である、水魔星の神。格好から見ても、彼が魔法使いなのは間違いない。なら、ゆづりの心中なども魔法とやらで読めているのかもしれない。

 ゆづりが一人ゾッとしていると、彼は当たりと歌うようにふふんと鼻を鳴らす。


「俺様は人の心を読めるからな」

「あぁ面倒」

「面倒って思ってるな」

「もう声に出してるよ」


 ただの会話も億劫なのに、心まで管理しないといけないのはストレスで死にそうだ。死なないが。

 ゆづりはゲンナリとした顔で、ソフィーに他の人員を要請する。こんなヤツと二人じゃ見つかるわけがない。何とかしてくれと。

 しかし、ソフィーはうんんと先が悪そうな返事をするだけだった。


「どうでしょう……皆さん結構忙しいですからねぇ…」

「まず、ソフィーは協力してくれるんですよね?」

「いいえ。私は私で捜索しますので。それに他にやることもあるんです」

「じゃ、じゃあシンギュラリティは…?」

「多忙。協力拒否」

「いすず…」

「彼女は今は少々忙しいと思います」

「………」


 皆なかなかに忙しいようだ。神としての星を管理するのは大変らしい。芳しくない返事に、ゆづりは軽く絶望する。

 ゆづりはこれからこの生け好かない少年と、何処にいるかも名前も顔も分からない人を探さないといけないらしい。


「死ななきゃ良かったな…」


 あの時ベランダに行かなければ、長いが終わりのある人生を歩めたのに。少なくともこんな理不尽な目には会わずに済んだのだろう。

 最悪だと嘆くゆづりに、ケラケラ明るい声がかかる。


「そんな顔すんなよ」


 協力者ことノアは絢爛に蒼い目を光らせると、背中を丸め顔を覗き込んでくる。無邪気な子供のような笑顔だ。うるさいなと思わずビンタしそうになるが、整った顔だったため手が自然に止まった。


「何、顔がいいって?」

「…はぁ…」


 勝手にゆづりの心を読み、得意顔をするノア。ふふんと誇るような表情にゆづりは苛立ちながらも、近くにあるソファーに腰掛ける。

 焦ってもしょうがない。じっくり考え、最善策を考えよう。


「まずはやっぱり協力者を見つけないと」

「えっ、俺様がいるじゃん」

「神様は八人いるだよね。他の神はどこなの?」

「無視かよ」


 ノアはむっと頬を膨らませ不服を示していたが、すぐについてこいと部屋を出ていく。彼は宇宙空間が広がっている部屋に戻ると、右斜め前にある両開きの扉を開けた。

 すると、数多の扉が並んでいる廊下に出る。扉の形はそれぞれだ。襖もあれば、学校の扉のようなものもあり、高級そうな洋風のものもある。なんとなくどの星の神がいるのか読み取れた。


「この部屋の中に神はいるぞ」

「なるほど」

「けど、全面的な協力はしないと思うぞ。忙しいからな」

「……ノアは忙しくないんだ、神なのに」

「俺様は要領がいいからな。仕事なんてすぐに終わる」


 ノアはフフンと自慢げに胸を張る。サボってるだけじゃないのかと思わず突っ込みそうになった。


「というかゆづり、お前学生だろ。学校は?」

「学校…?」

「今、地球は八時だろ。そのくらいから始業じゃないのか」

「……えっ、ここにいても時は進むの?」

「進むよ。ここは特別な空間でも何でもないんだからな」

「死んだって思われたりは……」

「何言ってんだよ。お前今生きてるじゃん」


 八星はただ変わった場所だというだけらしい。故に時の進みも、命も同じ。だから学校に行かないと、行方不明とかになってしまうらしい。それは面倒だが、学校に行くのも面倒くさい。


「学校行けよ。ほら」


 ノアはゆづりの躊躇いを吹き飛ばすように、背中を押す。そのまま押すに押され、あっという間に目の前は最初にいた部屋だ。唯一の家具であるベットを通り過ぎて、向かう先はなんの変哲もないドア。ノアはそこで止まると、乱暴にドアノブを捻る。


「ここ行けば帰れるぜ」

「…本当?」


 ドアが開いた先、真っ暗な闇が見えてゆづりの足が止まる。しかも心なしか寒い。

 騙して無いよねと胡散臭くノアを見ると、彼は行けと言わんばかりに構えている。それでも飛び込むには勇気が足りない。

 その場で右往左往していると、つんと背中を押される。嘘でしょと絶句すると同時、闇の中に落ちた。そして体が闇に溶けると同時、意識が飛んだ。


「は…」


 次に目が覚めると、教室にいた。

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― 新着の感想 ―
どうも! Xからやって来ました。 冒頭の接吻から始まり、 望まぬして不死の存在に! ここからどう物語が動くか、楽しみです。 面白かったので、ブクマさせて頂きました。
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