りせっとぼたんを押し忘れた
どうにか周りの雑談に耳を伏せながら歩く。
共感性羞恥がたまらない。嫌すぎる。
そのまま煤けた道路を左に見れば、住宅街が切れて公園になっていた。
青空を背景として年月を得た灰色な建築物で埋め尽くされた視界に、唐突に色鮮やかな緑が落とされる。コントラストが変わる。
「な、理不尽だろ?」
「えー、普通にいいんじゃん?2つ買わなかったから?」
「金なかったんだよ、むかし」
「今もじゃん」
「うわー、言われたー」
いや、理不尽も何も普通にクリスマスプレゼント、椅子一脚とか、振られて当然というか、数の問題でもない。
そう「ただしイケメンに限る」という絶対切り札も、あまりに突拍子もないとカバーしきれない。
まさか、この歌詞は創作もいいところだと思っていた。今回、調べて現実に立脚していたと知った時の衝撃は計り知れない。
お会いしてみたいというミーハーな気持ちは間違いなくあるが、とりあえず社会学者の端くれとして何故その選択肢に至ったのか、サンプルが欲しい。謎すぎる。
小さな森の回廊は樹々を通過する光に溢れ、茶色の地面を白く染めている。
テラスカフェもあって、とても落ち着いたおしゃれな場所になっている。右手の時計は14時手前。
予約時間からすると、帰りに寄るのがベターかな。お茶のいい匂いを惜しみながら進むと、急に一面の青空に視界を塞がれる。
手前が道路で数台上がったところに巨大な石の塊が見える。川辺の音に自動車の走行音、複雑に混じって分別できない子供の声。
マグリットのピレネーの城を下から見た気分になる。第一印象は「現実感がなかった」。
「うわ。XXXやってんじゃん」
「見たい?」
辺りが騒がしく、少し聞き取りにくい。
向かって左側に神社がある。なんか場違いな感覚がして向かう。
形代がある。水に溶けるバイオな形代に厄を代わりに載せて祓えるとある。
よくわからないが、とりあえず全力で形代を水に溶かす。こんなに一心不乱になったのは1年ぶりぐらいだろうか。真剣にやった。
予約時間まで、周りを見て回る。
石の城の周りは水盤になっており、子供が水遊びをしている。
長期休暇特有の緩やかな時間。
移動式立て看板に作詞家様のポスターが額装されている。
ポスターは群青色の背景に、赤色の縦筋が猫の目のように作詞家様を捉えていた。
その作詞家様の鋭い視線のポスターが見つめる先は、子供が遊び、若者たちがはしゃぎ、小さな緑の回廊、全体の1/3は青空な長期休暇の昼下がり。
なんだろう。
ポスターの視線が、どこか優しく感じられた。