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優等生になりたいヤンキーちゃんと高嶺の華に恋した平凡な俺

作者: 小舟

短編恋愛小説です。

面白そうであればいいねお願いします。

※長編作成を検討致します。

 

 俺はヤンキーが嫌いだ。


 ヤンキーは身勝手で自己中、そして暴力的。

 見た目も怖いし、目が合ったら何されるかわからない、関わらないが吉とされる人種の人間。


 今の今までそう思っていた。


「頼む入間(いるま)!」


 夕日の差し込む誰もいなくなった教室で、俺、入間直人(いるまなおと)は今まさにヤンキーに絡まれている。


 破れたガラスみたいな鋭い眼光、着崩した制服、左右の胸に虎と龍の刺繍(ししゅう)の入ったド派手なパーカー、耳にはピアス、腰まで伸ばした明るい髪が夕陽を反射して眩しい。


 彼女のことは知っている。


尾長高(おながこう)の大魔王』、荒呉八千流(あらくれやちる)


 高校一のヤンキーである彼女を知らない人は新入生含め、この高校にはいないだろう。

 そんな彼女に胸ぐらを掴まれた俺は、今まさに壁に押しつけられている。


「あたいを進藤(しんどう)君に釣り合う優等生にしてくれっ!」


 しかも、予想のはるか斜め上を行くの絡まれ方で。

 目の前にいる荒呉さんの顔は真っ赤だ。その理由はきっと夕日に照らされているだげじゃない。


 恋をしてるんだと思う。


 全校生徒から恐れられる筋金入りのヤンキーである彼女が、学年一の優等生である俺の親友に。


「ダ、ダメか?」


 もう一度言おう。俺はヤンキーが嫌いだ。

 だけど、こんな顔でお願いされてしまったら断れない。


「わかった! わかったから早くこの手を離してくれ!」

「本当か!」

「.........ただし、条件がある! というか、お願いなんだけど」

「なんだ? ぶっ飛ばして欲しい奴でもいるのか?」

「そんな物騒なお願いじゃない」

「じゃあなんだよ?」


 口にしようとして、一年前の入学式で恋したあの子の顔が頭に浮かぶ。

 恋を成就させるために協力者を得るのはアンフェアなんだろうか?

 そんな考えが頭を過ったが、首を横に振る。


 恋にフェアもアンフェアもない。そんなんだから今の今まで進展がなかったんだ。

 他人の恋事を利用するのは卑怯かもしれないが、彼女とお近づきになる千載一遇のチャンスなんだ!


「君の恋愛に協力する代わりに、俺にも協力して欲しい!」

「交換条件か。上等だ。その方があたいもお前を気兼ねなく使えるしな。で、誰だ? 自慢じゃないが友好関係は狭いぞ」

「.........嶺さん」

「あ? 誰だって?」

高嶺(たかみね)さん! 荒呉さんとよく一緒にいる高嶺華(たかみねはな)さん!」


 言った。言えた。言ってやった。

 目を見開いた荒呉さんが数秒後、俺の肩に手を置いた。


「......お前さ、身の程ってのを弁えた方がいいぞ」


 いや、あんたにだけは言われたくない。

 

 高校二年生に進学した初日の今日、平凡な俺と高校一のヤンキー、荒呉さんとの秘密の関係(?)がこうして始まった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「先生、あたいがこのクラスの学級委員になってやるよ」


 入学2日目、朝のホームルーム。

 荒呉(あらくれ)さんの声にさっきまで騒がしかったクラスから音が消えた。


「う、嘘だろ?」

「あの、荒呉さんが、学級、委員、だと......?」

「ひぃいいいっ。おおお、終わりだぁ......」


 学校一のヤンキーが自分のクラスの学級委員に立候補。


 どう考えてもヤバい状況。

 だかクラスメイト達は騒つくだけで誰も解決に向けた具体的なアクションは起こさない。


 まあそうだろうな。

 みんな自分が一番可愛い。


 対抗なんてすれば荒呉さんに目を付けられるし、そもそも学級委員なんてクソめんどくさい仕事、誰もやりたくもないはずだ。


 他薦(たせん)という筋もあるが、まだ進級して2日目。打ち合わせなしに突然他人を推薦出来るほど人間関係は構築できていない。


「あああ、ありがとう〜荒呉さん。えーっと、他に立候補者はいないかなー?」


 汗でアイシャドウを滲ませた古宮真子(こみやまこ)(32)先生がものすごい眼力でクラスを見渡すが誰も何もアクションを起こさない。

 終いにはクラスの一部からパチパチと乾いた拍手が起こり始めた。


「..................他に立候補者がいなければ、荒呉さんにお願いしようと思うんだけど、みなさんそれでいいですか?」


 たっぷりの間。

 思わず助けてと聞こえそうな先生のか細い声を受けて更に拍手が大きくなる。


 決まりだ。

 学校一のヤンキーである荒呉さんが優等生になる為の第一歩を踏み出した。

 

 優等生。それは生徒の模範たる者。


 それ即ち、クラスを統べる者。イコール、学級委員。

 バカでもアホでも陽キャでも学級委員になればとりあえず一目置かれる。そして、


「荒呉さん、立候補なんて凄いね。俺、感動しちゃった」

「そんなこと思ってんのは、クラスでお前ぐらいだよ、進藤」

「え? なんで?」


 肩をちょんちょん叩かれた方にあったのは悪意ゼロパーセントの笑みを浮かべる優等生、進藤司(しんどうつかさ)。荒呉さんの好きな人。

 ちなみに男の学級委員は当然というか、満場一致で既に学年一の秀才である親友に決まっている。


「お前いいのか? このままだと女子の学級委員、荒呉さんになるぞ? ほらさっきから古宮先生が口パクパクしてこっちにヘルプの視線向けてるぞ」


 そう仕向けたのは俺なんですけど。


「なんで? いいも悪いもないけど? やる気があるならいいんじゃないかな」

「......すげぇわお前」

「なんで?」

「ででで、では他の立候補者がいないようなので、1-B前期の学級委員は荒呉八千流さんにーー」


「先生。私も立候補します」


 なんだ、と?

 声が下のは斜め前方。

 ピンと伸びた手と背筋。癖一つない真っ直ぐな黒髪を揺らしながら淀みない所作で少女が立ち上がった。

 絶望一色だった先生の表情に希望が灯った。


(まゆずみ)さん......黛さんも立候補するのね!」


 くそっ。状況で立候補? どんな強靭なメンタルしてんだ。


「あー黛さんだ」

「おい進藤。お前あの子知ってんのか?」

「知ってるよ。黛律子(まゆずみりつこ)さん。一年の時、俺達と違うクラスの学級委員だったから」

「元学級委員......」


 これは不味い展開になった。


「はい、じゃあ荒呉さんと黛さん、二人とも前に出てきて下さい!」

 さっきとは打って変わってハキハキ笑顔で教室を取り仕切る古宮先生。


 片や元学級委員。片や他校のヤンキーも避けて歩く、『尾長高(おながこう)の大魔王』と呼ばれるヤンキー。


 勝てるはずか無い。100%負ける。

 前に立った荒呉さんの鋭い眼光が俺に突き刺さる。


 なんとかしやがれ。


 そんな言葉が視線から聞こえた気がしたので首を横に振る。

 するとゆっくりと荒呉さんの口が動いた。


『す・き・な・ひ・と・バ・ラ・す・ぞ』


「ひいっ!?」

「入間君、どうかした?」

「い、いえ何も......」


 思わず声が漏れて先生に謝る。

 冗談だよね?

 しかし俺の気持ちに反して前に立った荒呉さんが深呼吸して肺いっぱいに空気を取り込む。


「入間の好きな人はーー」

「うわぁああああああっ!? わ、わかったからぁああああっ!」

「こら入間君! さっきからどうしたの!? 静かにしなさいっ!」

「す、すいません」


 は、恥ずい。穴があったら入りたいって初めて言った人の気持ちがすごいわかる。

 クラスに巻き起こる空前の爆笑の渦の中、俺は大人しく席に座る。

 荒呉さんはと言えばーー腹を抱えて笑ってやがる。荒呉さんめぇ......


 だがこれで俺のやる気スイッチがオンになった。

 こうなったら意地でも荒呉さんには学級委員になってもらう。


「こほんっ! はい! ては学級委員の決めたいと思います。決め方ですが、多数決で決めたいと思いますがどうですか?」

「そ、その件なんですが、先生ちょっといいでしょうか」

「また入間君? 今度はなぁに?」

「学級委員の決め方なんですけど、単なる多数決じゃ正直つまらないなって思って」

「つまらない?」

 

 先生の表情と声に不満が混じったのがわかった。

 長引かせるのはよろしくない。

 クラスメイトが乗ってくれればいいんだが......


「もしみんながよかったらなんだけど、一週間様子見期間を作ってから決めないか? はっきり言って、クラス替えしたばっかりだから荒呉さんも黛さんの事も知らないからさ」

「おー、いいじゃん直人! 俺それ賛成!」


 既に学級委員に決まってる進藤の声に、クラスから拍手が上がる。

 相変わらず先生は不満げな表情だが、この状況で強行はしないだろう。


「わかりました。入間君の意見を採用します。一週間後、黛さんと荒呉さんのどちらが学級委員に相応しいか多数決で決めることにします。それでいい? 入間君」


 これでいいだろ、荒呉さん?

 先生に頷いてチラリと彼女に視線を送ると、笑顔でサムズアップを俺に突き出してくれた。




◇◇◇◇◇◇◇◇



「お前、意外と頭いいんだな、見直したよ」

「そりゃどうも」


 思わず大きなため息が口から漏れた。

 絶望的だ。正直、延命しただけで荒呉さんを学級委員にできそうにない。

 この状況でなんで荒呉さんは鼻歌混じりで歩いてられるんだ?


「じゃあこの調子で頼むぞ入間」

「こ、この調子とは?」

「あ? お前に任しときゃあたいは学級委員になれるんだろ?」

「え?」


 冷たい汗が全身に浮かびあがって思わず体が震えた。


「えっと、ごめん。どう言う意味?」

「立候補すりゃ学級委員になれるって言っただろお前」

「そうなんだけと、他の立候補者が出るなんて思ってなくて......」

「あ? じゃああたいはあの黛って女に負けんのか?」


 触れたらケガしそうなナイフみたいな眼光に思わず声を失う。


「あたいは負けるってことが死ぬほど嫌いなんだ。そんな事になったらタダじゃ済まさねぇぞ」

「えー......」

「おい、はっきり答えろ。あたいは負けねぇよな?」

「ハイ、マケマセン」

「よかったよかった。あーあ、学級委員になって早く進藤君に見合う優等生になりてぇなー!」


 ダメだ。あんな目を向けられたら負けますなんて言える訳ない。

 どうしようどうしようどうしよう......


「あれー? 直人じゃん。荒呉さんと一緒なの? 珍しいねー」


「ししし、進藤君っ!?」

「ちょっと荒呉さん!?」


 普段とは違う声を上げた荒呉さんがオレの背中に隠れた。


「おい直人ー! いつの間にそんなに荒呉さんと仲良くなったの?」

「比較的最近。てかこんなとこで何してんだ?」

「先生のパシリだよパシリー。ほらこれ」

「おー、すごいプリントの量だな」

「新学期だからねー。連絡がたくさんあるんだって」

「なるほどねー。って、荒呉さん! そんなに制服引っ張らないで! 転んじゃうって!」

「あはは。仲良いね二人とも」


 制服にしがみ付く荒呉さんをなんとか引き剥がして進藤の前に曝け出す。


「あ、あああああ......」


 荒呉さん真っ赤だ。

 顔だけじゃなくて耳まで赤い。


「荒呉でひゅ!」


 音速で進藤に礼をして、そして盛大に噛んだ。

 恥ずかし過ぎる。


「あははっ! 荒呉さん面白いね! 直人が一緒にいる理由がわかったよ! よろしくね、荒呉さん」

「う、うん......よ、よろしく......」

「そうだ荒呉さん、よかったらプリント運ぶの手伝ってあげてよ」

「えっ!?」

「マジ? 手伝ってくれるの? ありがとー荒呉さん」

「は、はぁ!? なんであたいが! それならお前が手伝えよ!」


 なんで俺のナイスパス躱そうとするかなぁ。

 絶好のチャンスなのに。


「んーごめん。俺トイレ。しかもでっかい方」

「はあっ!? てめぇ! 女子に向かって何言ってやがる!?」

「あははっ! それなら直人にお願いは出来ないね。ごめんね荒呉さん、ちょっと手伝ってもらっていいかな?」

「............うん」

「ありがとう」


 進藤の持つプリントを三分の一ぐらい受け取って二人は教室に向かって歩いて行った。

 荒呉さんはあの調子じゃ中々話せないだろうけど、進藤の事だ。きっと上手くエスコートしてくれる。


「ねぇ、ちょっといいかな?」


 二人を見送って帰ろうとしていた背後から鈴を転がしたみたいな心地いい声が聞こえた。

 この声、まさか......


「た、高嶺、さん?」


 振り向いた先にいたのは俺の好きな人、高嶺華(たかみねはな)さん。

 話しかけられた? 今まで一回も話した事ないのに?

 勘違いだったら死ぬほど恥ずかしいので辺りを見渡してみる。


「私は今君に話しかけてる。入間直人君」

「あ、はい」

 

 あ、あれ? なんか高嶺さんの声と表情に棘を感じる。


「君、八千流ちゃんとどう言う関係?」

「八千流ちゃん......」

「荒呉っ! 荒呉八千流!」


 荒呉さんの事か。名前で言われて誰かわからなかった。


 ヅカヅカと大股で間合いを詰めてきた高峯さんが俺の前に停止して、ネクタイを掴む。


 憧れの人の顔が吐息を感じるほど近くにある。

 普通なら胸が張り裂けそうなほどドキドキするシュチュエーションなのに、今まったくときめいていない。むしろ冷や汗がヤバい。


 何故なら高嶺さんの表情に明らかに敵意を感じるからだ。


「どんな関係!?」


 近距離で叫ばれて耳がキーンとした。


「あなた八千流ちゃんとどんな関係よ!」

「関係って別にそんな......」

「八千流ちゃんがあんなに心開いてるところなんて見たことない! まさか彼氏!? 付き合ってるの!?」

「いやいやいやいや! 違う! 断じて違う!」

「そんなの絶対許さないっ!」


 俺の胸を突き飛ばした高嶺さんは爪を噛んでぶつぶつと何か呟いている。


「おーい! 入間ー!」

「荒呉さん!」


 救世主! 救世主が現れた!


「ねえ荒呉さん! 高嶺さんに説明して!」

「あ? なにを? そんな事より聞いてくれ! あたい、進藤君とちゃんと話せたんだ! 偉いだろ!」

「偉い偉い! それよりーー」

「むぅ。雑だな。ちゃんと褒めてくれよ。あたい、生まれて一番緊張したんだそ?」


 むくれっ顔になって俺を睨む荒呉さんに、思わずドキッとした。


「おい入間直人」


 背中から胸を貫く氷柱みたいな尖った冷たい声。


「たった今からお前を私の敵と見なす。今後背後にはくれぐれも気をつけることね」

「た、高嶺さん! 誤解だよ! ちょっと待って!」


 吐き捨てて踵を返した美少女は俺の声を聞いても振り返ることはなかった。


「......終わった」

「なんだ、仲介なくても華と仲良くなれたのか。よかったじゃん」

「は、ははっ......」


 今の俺には荒呉さんにツッコむキャパは残されていなかった。

 今日この瞬間をもって、俺は大好きな人に敵認証されてしまっんだ。







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