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交流会 初日①

開会式を終え、これから授業の時間に移る。

座学や演習など、やることは日頃の授業と変わらない。

しかし交流会のこの日は特別。ヤマト学院側の生徒が授業に顔を出すことになっているのだ。

どの講義を聴講するかは彼らの自由だが、やはり魔法学や剣術といった実戦系の講義が人気になるのは間違いない。


そんな中俺が1時間目に出席したのは心理学。履修登録者の少ない不人気授業である。寝てても先生に怒られないし期末テストも簡単で、楽に単位を取得できる授業。これがどうして不人気なのか理解できない。やっぱり座学系の授業は人気がないのかな、なんて思ってしまう。

  

そういうわけで授業開始10分前。講義室にやってきた。

座席の指定はされておらず、毎回好きな席に座ることができる。やる気のある生徒は前の席へ。俺のようなやる気なし自堕落な人間は一番後ろの席につく。フレンもアリスもヨシマサもこの授業を履修していないので、ボッチでの受講になる。


「ヤマト学院第1組所属アマクサ・トキオだ。一緒に授業を受けてもいいか?」

「もちろんかまわないさ。僕はAクラスのシュリバーン・ソュトロンだ。僕の生まれは男爵家。弓術を得意としている」

「鷹の目のシュリバーンか。聞いたことある。さすがウェルセリア学院。国内でも有数の実力者が在籍しているということか」

「そちらこそ。アマクサ流秘剣術の噂は耳にしている」

「それはありがたい」


等と、前の方の席ではAクラスの生徒たちが聴講にきたヤマト学院の生徒たちと談笑している。初対面なのによくあんなに話せるよな。コミュ力高いわー。

秘剣術?鷹の目? 聞いたことないわー。


俺は慎ましくしたいので、ヤマトの連中とつるむつもりはない。そんなことを思いながら、先生が来るのを窓の外の景色を見ながらボーッとしていると。


「あれはヒミカさんだ!」

「ホントだ!」

「信じられない!?」

「どうしてこの授業に!?」


受講生たちのざわめき。

その原因は、後ろにたくさんの従者たちを引連れて闊歩する桃髪の美少女。ヤマト学院のお姫様、ヒミカであった。

てっきり魔法学や剣術といった人気授業にでも顔を出す思っていた。それなのにわざわざ目立たない心理学の授業に顔を出した。そのことにみんな驚きを隠せずにいる。


「驚いている場合じゃない! これはチャンスだ! ヒミカさーん、ぜひ僕たちと一緒に受けましょう!」

「いや!オレとだああ!」

「ワシじゃああ」


ヒミカに向けて熱いアプローチをかけるA、Bクラスの連中。そんな彼らに目を向けることもなく、ヒミカは使用人のシズクを連れて、ゆっくりとした足取りで教室内を歩く。

その行き先は前の席ではなかった。


「よろしければお隣に座っても?」

「え、俺?」


ボッチの俺の周りには誰も座っていない。

ってことはやっぱり俺に言ってる?

一国のお姫様である彼女がわざわざ俺の隣の席に座ることを所望していると? まさかそんなはずは……


「ジュールさんと一緒に授業が受けたいです」


……どうやらマジらしい。

嫌だなー。そんなに従者を引き連れていたら目立ってしょうがないんだけど。それに従者がいようがいまいがお姫様の時点で十分注目の的になるわけで。他の受講生から睨まれてるし〜。

そもそもどうして俺の隣なんだよ~。せっかく慎ましくしようと思ってたのに勘弁してくれよ〜。


「この席は俺のような授業に後ろ向きな輩が陣取るスペースだ。ヒミカの来るような場所ではないはずなのたが?」

「ふふふ、どうしても何もさっき言ったではありませんか? また授業でお会いしましょうって」


てっきり社交辞令だと思っていた。まさか本気にされているとは思わなかった。


「そこまで言うなら別に良いけど」


断れるはずがない。断った時のほうが、何されるか分からななくて怖い。


「ふふ、ありがとうございますね」


ヒミカ様は微笑みながら隣の席にちょこんと座る。

あーやべ。隣りに座っただけでふわあっといい香りが漂ってきた。いいシャンプーつけてんのかな。


「というかその従者たち……多すぎない?」


一番思ったのは、その4、50人の群れをなんとかしてほしいということ。さすがに狭苦しすぎる。講義室の人口密度が過剰になる。


「みなさん過保護すぎるのですよ。シズク以外はおかえりなさい」

「「「ははっ」」」


颯爽と姿を消す忍び装束の従者たち。ふう。これでマシになった。


「あいつヒミカ様と〜! ぐぬぬ〜!」

「朝もヒミカ様と一緒にダンスしてたやつだよな?」

「あんなFクラスの野郎のどこがいいんだよ!」

「かああ! うらやましいわー」


他の生徒たちからの視線が痛いが、気にせず授業を受けることしよう。


◆◆◆


『であるからして、誰にでもあるようなことなのにもかかわらず、自分のことを指しているのではと感じてしまうことをパーナム効果と言います。はい、ここテストに出ますよー』


マイクを持ちながら前で教鞭をとるのは白髪混じりのおじいちゃん先生。


「なんというか淡々と授業をされてますね」

「そうだな。あの人はハーデス先生というらしい。どちらかというとこの先生は自分の研究室の活動を優先し、講座には大してやる気を出さないタイプの先生だそうだ」

「あーなるほど。いますよね、そういう先生」


赤点をつけると補習を開かないといけないから、それが面倒くさいのだろう。だから出席不備さえなければ絶対に単位をくれるという噂だ。

ちなみに履修登録のときに、俺がこの講座を受講することにした理由がそれである。


『ではせっかくヤマト学院の方たちも参加してくれているわけですし、ちょいとここは実戦してみましょう。簡単な占い師ごっこです。近くの人たちとグループを組んでください』


そう言われ、俺はヒミカ、シズクとペアを組む。助かった。普段なら詰んでたところだ。


『ペアを組み終わりましたか? それではグループ内で一人占い師役を作ってください。占い師役の人には今から渡す紙に書いてある通りに質問してみてください。当たりますよ?』


「実践とは。ハーデス先生珍しくやる気ありますね」

「それはヒミカ様が来てるからじゃね?」

「確かに」

「ところでマジで当たるのか〜?」

「あのじーさんの授業いつもテキトーに聞いてたらわかんねー」

「でもでも占いって楽しそーじゃない?」

「わかる〜。女子には嬉しい授業だよね」

「で、誰が占い師やる?」

「私やりたい」

「いや僕だー」


などなど盛り上がり始める教室。


「俺たちのグループはどうする? 俺がやっ――」

「わたくしが占い師役でいってもいいですか?」

「私は構いませんが、ジュールさんが今なにか言いかけてたような……」

「何も言ってません!」


ワンチャン占い師やりたかったけど、相手はお姫様だし譲るとしよう。


さて、全グループの占い師役になった人たちが教壇まで行って紙を受け取りに行く。うちのグループだけ例外で、ヒミカ様の代わりにシズクが取りに行った。


「ではさっそく。ジュールさんに質問。あなたは今悩み事がありますね?」


ヒミカ様は紙を読みながら質問を始める。

なんというかありきたりな質問だな。とりあえずコクリと頷く。


「それは人間関係ですね?」

「ああ」

「ホントだ! あたってますわ〜」

「流石です、ヒミカ様」


当たりもクソもない。悩み事といったら大体それしかないだろ。


「それは恋の悩みですね?」

「え……は、ちょっ!?」


おいおいどんな質問を書いたんだよ、あのじいさん先生。


「あ、顔が赤くなりましたよ!」

「これは匂いますね。ジュールさん、一体どなたに恋を?」

「そそ、そんなわけないだろ」

「むむ、怪しい反応ですね。やはりフレン様でしょうか?」

「いや、それは……その」


ねえシズクさん、無駄に鋭いのやめてくれませんか?

その鋭さももしかして姉のシズノさん譲りだったり?

と、とにかく代表戦のときとか、最近フレンとは色々あったんだよ。


「追求はおよしなさい、シズク」

「これは失礼いたしましたヒミカ様」

「そんなわけありませんよねえ。わたくしはどうでしょうか? お髪とお肌もきちんと手入れしてますし、わたくしの方が綺麗ですわよねえ? そうですわ・よ・ね?」

「うう。もうやめだやめ。この話はなし!」


恋バナとは厄介だ。

なんとなく面倒な雰囲気になりそうな気がしたので、無理やり話を切り上げ、その場をやり過ごすことにした。



◆◆◆


ようやく1時間目の授業が終わった。

周りからの冷たい視線もたっぷり浴びたし、皇族様と一緒に授業を受けるのは無駄に疲れる。

次の2時間目は魔法基礎、マドリア先生の授業だ。最近補習になったことは記憶に新しい。

これはクラス単位で受ける授業。魔法訓練場につくと、クラスメイトのフレンやアリスと合流した。


「ヤマト学院と共に受ける授業、なかなか為になるわね。勤勉な子が多くてこちらにもいい刺激になる」

「それはよかったなフレン」 

「ん? なんかジュール疲れてない?」

「そう見えるか、ハハハ……」


こっちは皇族であるヒミカ様と授業受けてたんだよ。

あわや恋愛話を持ちかけられるところだったし散々だった。

しかしそれもなんとか乗り切ったぞ。もう鉢合わせることはないだろう。


「あら? ジュール君。これは偶然。またお会いしましたわね」


はあ……1限終わった瞬間に巻いてやったつもりだったんだけどなあ……。


「え? なに? もしかしてあなた、さっきもヒミカさんと一緒に?」

「ああ。なぜか気に入られてしまったようだ」


俺がそう答えるとフレンは少し不機嫌そうに口を膨らませたのだった。

左にフレン、右にヒミカ。

俺を挟んでぶつかり合うバチバチとした視線。

そんな女同士特有の気まずさに頭を抱えながらら2時間目の授業が始まった。


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