後編
これで舞台と、根回しは完璧でしょう。
「シルフィ、いい加減妄想は止めておけ、俺が横に居るのだ俺を見ていろ」
「カオス、あのね結婚は」
「俺がここまで惚れたのだ、シルフィ」
カオス、最後まで言わせてくれないのね。って今、まさに伯爵もらうところで、王様の前ですよ~。
何故、腰に手を回し顎に手を添えて顔を近付けてくるのですか~、お~い!
もしもし、そりゃ~ジョニー・デップ様に似ていて私好みですが今はあのちょ~、近い近い!
鼻がくっついてしまいますよ~
「うほんっ!」
ふぅ~、その咳払い、王様今のはナイスです、褒めて上げましょう!
「すまぬが、そういった事は後にしてもらおうか、宰相」
「はっ」
いえいえ後でもやりませんから。
確かに命の恩ドラゴンさんだし、今はジョニー・デップ様そっくりだし、DVDが動作不良起こすくらい何度も見て、大好きだけどね。
せめて後2年は待って欲しいの。
この世界の成人は13歳だから。
「シルフィ、聞いておるか?」
ん? 何を?
「はっ! 王様! 申し訳ありませんでしたぁ~! 全く聞いておりませんでした!」
「ふははは、シルフィはやはり良いな」
だからカオス! 引き寄せないで! ドキドキしちゃうでしよ!
「うほんっ!」
ごめんなさい、二度目でした、ほらカオスのせいで起こられそうじゃない!
「まあ良い、この時よりお主達二人は伯爵だ」
「お待ちを」
声を掛けてきたのはマザコン王子、そんな所に隠れていたのですか! カオス! あれがマザコン王子です!
カオスはマザコン王子を見て鼻で笑った。
うう、その見下してますよ~って顔もカッコいいじゃないですか!
「その者に爵位など必要ありません」
何ですと! 確かに別に必要ではないですが、このマザコン何を言うのですか!
「ふむ、何故じゃ、功績は申し分のない物だ」
そうです、もっと言ってください王様ファイト!
「あなた、アレクの言う通りですわ」
王妃まで隠れていましたのね! くくっ、貴女も一緒に最底辺へ落として差し上げますわ!
「だから何故かと聞いておる」
王様は声のトーンを下げた。
バリトンボイスが迫力を増し増しです!
「次期王の僕がそう決めたからです、この僕の成人の儀に居るだけでも不快! 早々に立ち去るが良い」
「そうですわね、アレクの言う通りです」
あなた達の方が、立ち去らないといけない立場に変えて上げましょう! そうしましょう!
「ふむ」
マザコンたちがまた割り込んでくる前に行動開始です!
「王様は、ご存知かも知れませんが、こちらをお読みいただけますか」
私は、新しい宰相様に分厚い書類を渡します。
宰相様は、受け取る前に――
「鑑定! 罠や毒などではありませんね、王よ」
やるよね、王様に渡す物ですし鑑定くらいはね~。存分に見てくださいませですよ!
ほらほら早く確認して、それそれ渡しちゃってくださいな。
見てる見てる。よし! そこです!
よーしよくやったわ宰相様! 王様に渡してくれましたよ! よし! さあそれを読んだ後、どうしてくれますか王様! さあお覚悟してくださいなマザコン王子!
――おっと、入口の扉の向こうに……人の気配があります! 待ち人来たりてほにゃららです!
何か間違ってるような気もしますがさあ! ここで隣国の王様とお姫様が入るタイミングです!
一緒に一気に畳み掛けましょう!
「シルフィ! 早く出ていくのだ! 貴様には何もやらん!」
貴方にはもらいませんよ! あっ! 来ましたよ!
「魔道王国国王エス様と、マイアミ様のお着きです」
エス国王は物凄く長生きしている国王様で、エルフではないかと噂もある若々しくて中々のイケメン様です。
マイアミ様は最近名前が出だしたのですが、よく知られていないお方です。
おっと話がずれました、王様は私の書いた資料に目を通しています。
マザコン王子はギャイギャイ言ってますが無視しておきましょう。
「シルフィ、これで良いのか」
だから腰に手を! まぁ、カッコいいからちょっとだげですよ。
これ以上は駄目ですからね。
「良いの、もう地盤は出来て、登場人物は揃いましたから。ほらほら、エス国王様がマイアミ王女を連れてこちらに来ますよ」
「ふむ、シルフィが良いのであれば俺は構わんがな、しかしエスが来てるとはな」
「お知り合い? カオス」
「ああ、昔世話になった国だからな、直接は会ってはいるが向こうは分かるまい」
「まあ、悪さしたのではないなら良いです」
「俺はそんな風に思われているのか……」
カオスが落ち込んだがそれどころではないのです、さあ! 始まりますよ!
「おい! 俺を呼んでおいて読書とは偉くなったな」
「エ、エス様、いらしたのですか、も、申し分のない」
「頭は下げるな、それに様はよせと何度も言っているだろう」
「うむ、エス久しぶり」
「おう、それ読んでるってことは分かってるだろうな」
「ああ、元々婚約もこのバカが言い出したことでな、まさかエスが来てくれるとは、マイアミもすまないな」
「いえ、私も父とたまには遊びに出たかっただけですから、うふふ」
なんだ、婚約は決まってなかったのですか。
は? 何ですと! そこに割り入りますかマザコン王子! その度胸? ただのバカでしょう!
「やあ、マイアミよく来てくれたね、逢いたかったよ」
「うふふ、よくおいで下さいました、マイアミ、仲良くしてくださいね」
王妃まで入ってきますか!
「あら、どちら様ですか、呼び捨てにされる謂れはありませんわ、二度と話しかけないで下さい」
「マイアミ、こいつらバカだからな、放っておけ」
よしよし、ちゃんと私の書いた物は読んでくれている様ですから畳み掛けよう。
「直言失礼します。エス国王様、マイアミ様、初めまして、シルフィと申します」
「うむ、シルフィ、そなたの書いた物は拝見させてもらった。よく書けていたぞ、言い訳も出来んくらいに」
「シルフィ様、私も拝見させていただきました」
おお、マイアミ様も見てくださいましたのね。
「なんだシルフィ、何を書いたのだ」
「アレク、あなたのやった事を証拠も付けて、時系列に並べ、全てを書かせてもらったわ。それがどういう意味か分かるかしら」
アレクは本当に分かっていない顔で首をひねっている。
そこに王様が静かに、それでも、このホールに居るもの全てに聞こえるように――
「此度は皆に集まってもらい感謝しておる」
集まっていた貴族達が姿勢を正し王様を見て耳をかたむけています。
「しかしながら、少し方向転換が必要だ」
「1つ目は、アレクが言っておった婚約は、元々無い!」
よく言ってくれました!
「お父様! 何を言い出すのですか! そのためにエス国王様もマイアミも来てくれたのですよ!」
「私を呼び捨てにしないで下さいませ!」
思ったよりホールに響き渡る声でマイアミ様はおっしゃりました。
マイアミ様素敵です~!
「え? どうして」
「成人の儀は中止だ、アレク」
「な? ど、どういうことですか!」
「そんな事を言っている場合ではない、アレク!」
「アレク、貴様を廃嫡とする!」
「お父様!」
「あなた! 何を言い出すのですか!」
「お主とも離縁だ、王位第一継承者は第一王女、メロディーとする!」
王様は私の方に体ごと向きを変えてこうおっしゃいました。
「シルフィ、メロディーと友達になってもらえるか」
「喜んで」
「待て待て待て待てぇー! 何故そうなる! 次期王は僕だ! 第一王子だぞ!」
「そうです! それに離縁とはどういう意味ですか!」
王様は、大きく息を吐き、言葉を続けます。
「この資料を見てみるが良い」
アレクに私の書いた資料を投げ渡す。
なんとか、落とさず受け取りページを開き、目が見開かれた。
「こ、これは!」
「おう、クソガキ、俺も一緒の物を持ってるぜ、元王妃も見てみな、ほれっ!」
エス国王様は、王妃様にアレクが見ている資料と同じ物を投げ渡した。
「嘘嘘うそうそ! これでは、ああ! この事まで! これ証拠のサイン入りの物まで······」
「シルフィ、こんなので良いのか? お前は腹をナイフで刺されたのだろう」
カオス、ナイスな合いの手です
「何? シルフィ、それは真か!」
「はい、私は幼少の頃よりアレクに恋をする指輪を嵌められ、一生一緒に居ようと、結婚しようとおっしゃるまま何も疑わず、尽くしてきました。その資料に添付した証拠は、アレクのために私が隠していたものです。そして先日、8日ほど前ですね、呼び出され王妃様と2人で私に呪いのナイフを刺し、町に放り出されました」
「なんと、お主あのメイドであったか!」
「はい」
「シルフィィィィィー! 貴様ぁぁぁぁぁー!」
アレク、今度は普通のナイフで私に突っ込んできましたが、届く筈はありません。
この1週間で私は強くなりましたから。
「お覚悟!」
渾身の力で右ストレート。
完璧なタイミングでカウンターが決まり、アレクはその場で上半身が止まり、下半身は進む。
綺麗に180度回転し、頭から石の床に落ちた。
「ふぅ、スッキリ」
「シルフィ、完璧にカウンターが入ったな、流石俺の嫁だ」
いまは、聞き流しておきましょう。
「騎士団長!」
王様の横に居ました騎士団長さん。
「はっ!」
「2人を捕らえよ」
「はっ! し、しかし、よろしいのですか」
「うむ、構わん。国家転覆未遂の罪だ」
「はっ!」
騎士団長さんが動くと、一緒にいた副団長さんも動き、ひっくり返っているアレクと、唖然としている元王妃を拘束してしまいました。
ホールから連れ出されました。もう2人の姿を二度と見掛ける事は無いのでしょうね。
「さてシルフィ、叙爵も終わった様だ」
「終わりましたね」
「ならば俺との婚約を発表せねばな」
「な、何を言っているのかな、カオス!」
「あははは、照れるな、魔王たる俺が滅ぼそうとしていた国を滅ぼさなかったのは、偏に、シルフィの生まれ育った国だからだ。それをシルフィ、お前は俺を蔑ろにすると、ふふん」
「うぐぐぐぐ、ひ、卑怯ですよ! 私の好きなカオスはそんな事を言っちゃ嫌です! あっ」
「ふははは、聴いたぞ! 皆も聴いたな、今この時より俺のシルフィに害をなすものは魔王の怒りが向くことを知れ!」
私はカオスにお姫様抱っこをされ、大勢が見ている前で唇の、“初めて” 奪われたのでした。
読んでくれて本当にありがとうございます。
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