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前編

「アレク王子殿下、お呼びですか」


「ああ、シルフィ、今日でお前を解雇することに決めた、早々に荷物をまとめ立ち去るが良い」


 突然の事で私は何を言われたのか、理解することに数瞬の時間が必要でした。


 …………ん?


「え? アレクどうして」


「シルフィ、王子殿下を忘れているぞ」


「でも、二人の時はそう呼べと」


 そう、幼い頃より私達は同じ場所で同じ時間を過ごし、恋をしたのだと思う。


 そんな貴方から名で呼ぶように言われた時は天にも昇るようでした。


「十八の成人の儀式で、隣国の姫との婚約が発表される。シルフィ、貴様は用済みだ、二度とその顔を見せるでない!」


 カチャ――


「アレク、話は終わったの」


 入室の断りもなく扉は開かれ、入ってきたのは王妃様でした。


「ママ♪ はい、このシルフィで最後(・・)です」


 え? ……()で…………最後?


「おほほほ、アレクはメイド()()に手を出し過ぎですわよ、婚約が決まったのですから」


「大丈夫だよママ、シルフィには手を出してないから。こいつには、あの勉強をやらせていただけだからさ」


 どういうこと? 手を出していた? メイドたち?


 私だけだと言ってたのに……私だけじゃ無かった……。


「あらシルフィ、まだ居ましたの? 幼少の頃から良く支えてくれました、ですがもう不要です。両親も今頃は解雇されていますので、出ていきなさい」


「王妃様、私は何か至らなかったのでしょうか」


「おほほほ、同じくらいの歳の友が、幼少期には必要と思いましてね、それだけですわ」


「さあ、もう出ていけ!」


 私は、アレクのために何もかも捧げてきました。


 自分のやりたかったことも、全てアレクのためと、諦めて、将来は一緒に国のためになれると思い支えて来たというのに……。


 そう何もかもを。


 身も粉にして励み、遊びたいと思う心も時間も捧げて来たのはアレクが王になれるようにと――


『俺の側で一生(ささ)えてくれ』


そうおっしゃったから私は……。


・・・・・・・・・・(アレク、一思いにこの)・・・・(ナイフで)


 なにをおっしゃっているのかわからない――


 ドサッ――


 なぜけられてたおれているのかわからない――


 ブチブチッ――


 なぜめいどふくをぬがされているのかわからない――


 どこをどうあるいたのかわからない――


 どうやっていえにかえったのかわからない――


 きおくもない――


 なにも……わからない――






 なぜ……。






 ないふがおなかにささっているのかわからない――











「ふん! お前の孫だというので見ていたが、哀れな者よな。で、俺に(つか)えさせようと」


「素直で綺麗な娘に育っており、息子と息子の嫁と同様に(わたくし)も、あなた様の伴侶にと思っております」


「ふん。……まだ分からんが、しばらく側に置くとしよう。帰るぞ、ここは空気が悪くて(たま)らん」


「御意」



 はなしごえがきこえた……。


 おじいさんとだれか……。


 そうだ……じょ……・でっ……。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






 あれ、ここはどこ?


 柔らかい……ああ、ベッドに寝ているのね。


 知らないところ……のようです。どなたかにお訊ねしないと。



 体を起こそうとした時、腹部に激しい痛みが走っる。


「――(つう)っ!」


 痛みのあまり、(かすみ)がかる記憶がフラッシュバックした。


 あれは確か――


「アレク。このナイフで一思いに刺しなさい。このナイフなら死ぬことはありません。そして私達に怒りを覚える事もない。抜こうとも思わない。さあ不要となった小娘を刺して表に放り出すのです」


 そうだ。あの時王妃様は確かに私を刺すようにおっしゃった。


「ママ、僕頑張るよ。ママのためならなんだって出来るんだから! 見ててねママ!」


 アレクはそれを受け取り、私の腹部を蹴り飛ばし服を脱がし、インナーだけになった私を刺したのだ……。


 ふつふつと胸の奥から込み上げてくるもの(・・)は、悲しみでもなく、怒りもない。


 ただ幸せになりたい、こんな仕打ちをした彼奴(あいつ)らに。


 幸せになった私を見せてやりたい……。


 そう思うだけだった。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「寝たようですわね」


「ああ、あんな奴と別れられたのだから良かったのだが」


「うふふ、。宰相のあなたと、財務を任されていた私まで解雇だなんて、中枢が崩れてしまうと言うのに。もう知りませんわ」


「まあ、この国は駄目になるじゃろうな。自業自得じゃ。後は我が王と仲良くしてくれれば良いが……この子は頑固じゃからのう」


「そんなところは親父(おやじ)に似なくても良かったのだがな」


「ほんと、頑固なところはお義父様にそっくりですもの。あなた、お義父様、シルフィを起こさないように部屋を出ましょう」


「「ああ(うむ)」」





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「ふあぁ~」


 ……あれ? 何かいつもと違うような……あっ! 隣のベッドにメイド長様がいないです! 寝過ごしました!


 体をお越しベッドから飛び降ります。はしたないとは思いますが、仕事に遅れないため仕方なしです。


 トンッ――


「ぐおぉぉぉ~、痛ぁ~、何これ」


 なぜかお腹の痛みで膝をつき、(うずくま)る。


 痛みにたえようとしたけれど、小さく叫んでしまいました。


 何っ? なんなのこの痛みは……もしかして病気なの!?


 おそるおそる寝間着の(すそ)をめくり上げてみる。


 駄目、目は開けないと――。そ~っとお腹に視線を向けたのだけど……何か変です。


「……は? 何これナイフ? え、刺さってるの?」


 見間違いだ、まだ寝ぼけてるだけと自分に言い聞かせ、つんつんしてみる。


「――痛ったぁ~! さ、刺さってますよ! え? 何で? パーティーグッズじゃないの?」


 何度か痛みに耐えながら、もう一度つついてみたり…………。


「ぐおぉぉぉー!」


 くいっくいっと、ちょっと引っ張ってみたり。


「ぐぬぬぬぬぬ! やっぱり痛ったぁぁぁーい! って、これじゃあメイド服着る事が出来ないじゃない!」


 そんな事を言っている場合ではないのだが、言ってないとどうにかなっちゃいそうだからとりあえず口にしておく。


 えっと、ナイフの握り手の部分が~、十センチくらいね。それがお(へそ)のちょっと下くらいから生えている。


 どう見ても生えてるよね……。


「ところで、私なんでお腹にナイフ刺してこんなに元気なの?」


 カチャ――


「あら、おはようシルフィ、外は良い天気よ」


 入って来たのはお母さん。


 いつ見ても美人さんなので、私の目標である。


 得に御胸様! それはもうチョモランマも真っ青である。おっと話がそれてしまいました。


「お母さんおはよう。じゃなくて大変なの!」


「どうしました? シルフィ」


 私は寝間着をまくり上げたままでお母さんにお腹を見せたのに……。


「まあまあ、可愛らしいお腹ですね」


 こうだ。


「いやいや、ナイフ! 可愛い娘にナイフ刺さってますよー!」


「うふふ。抜きましょうか?」


 なんて軽くおっしゃるお母さん。


「軽っ! 娘がお腹刺されているのにその反応!」


「だってそれ、呪いのナイフですから死にはしませんよ」


 は? 呪われてるの? でも死なないなら良いのかな? ……いやいや。


「ダメでしょ! 死ななくとも私呪われちゃってますよね! どうなのお母さん!」


「そうね。呪われてるわね。それも刺した相手を怨んだり害を与えられなくする呪いが掛かってますよ。だからあのバカ王子の事を怨んでないでしょ?」


 そうだ。よく考えたら何も怨み言がない。私は蹴られて刺されて放り出されたのに。


 それなのに今だってメイドの仕事をしようとしていた。


「それとご丁寧に抜こうとしない呪いまで掛かってますから、普通なら抜こうとも思わない筈なのですけれど……」


「でも私、コレ抜こうとしてましたよ?」


 つついたり、引っ張ったりしてたもん。


「ん~。シルフィ、どうせあなたの事だから、『メイド服が着れないじゃない!』とか叫びながらでしょ?」


 うっ、その通りです。大正解です。なので今は全然抜こうって気は無いのですけど…………。


 ズバリ推理が当たってやがります。これだから母親と言うものは侮れないですね。


「そうだけど邪魔なんだもん。ほら、コルセットも付けられないし。…………あっ、そっか私解雇されたんだった」


「そうよ、お父さんも、私もね」


「そんな! 宰相と財務の長を解雇したの!」


「今日の公務から大変でしょうね。ああ、そんな事はもうどうでも良いわ。あなたが気付く前に抜いてしまうより、確認してからが良いかと思ってね。それより――」


 お母さんは、お腹に刺さったナイフの持ち手を握り、一気に引き抜いた!


 ――そ、そんなことしたら!


「ぐおぉぉぉー!!」


 痛みが頭の天辺にまで突き抜け、背は仰け反り(のけぞり)、そのままベッドに倒れ込んだ。


「お母さん痛いよ! 抜くなら優しく抜いてよね! ………ん? ってあれ? 痛く……ない?」


 私はお腹をペタペタ触る。うんうんぷにぷにだ。


 ぷにぷにとは言えど日々体型には気を付けて……どこもかしこもホッソリとしてますが何か?


 とりあえず血は出ていないわね。それにしても刺さった痕跡すら無いじゃない。


 良かった。……良かった?


 あー! 思い出しました!


「あんのクソ王子! 散々世話してあげたのに! ママ、ママってクソマザコン王子め! 目に物見せてやるわ!」


 あの理不尽な出来事を怒りを覚えずにいた事が裏返った。


 マグマの様にグツグツと煮えたぎる怒りが沸々と湧いてきたのである。


 普段の(わたくし)ではあり得ない言葉が口から漏れてしまいましたわ。おほほほ。


 呪いのナイフを高く(かか)げ、仁王立ちをした私を見てお母さんが、うんうんと頷いているのは幻覚では無いでしょう。


 確か、成人の儀は一週間後、ならばやれる事をするまでの事です!


「お母さん! マザコン王子を失脚させるわ!」


「うふふ、お母さんは応援するわね」


「ありがとうお母さん、今思うと、この貰った指輪も魔道具だったみたいね。私の恋心をこんな指輪ごときで操るなんて! せーのっ――ふんっ! ……あっ、無理。お母さんハンマーか何か叩き潰せそうなの持ってない?」


「はい。持ってますよ」


 握り潰そうとして――無理でした。なのでお母さんが渡してくれた……ハンマーね。


 なぜハンマーを持っていたのか確かめたいけれど……とりあえずコレは叩き潰してあげましょう。


 ガンッ――


 一発でした。これはミスリル製ですので、私のおこづかいになって貰いましょう。


「うふふ、その指輪の嵌められた者は嵌めた者に恋をする。効果は単純なので中々強力ですのに、シルフィったら精神力だけで破るなんて相当お怒りね」


 その言葉に大きく頷く。


 まずは――


 紙とペンを使いマザコン王子のしでかしたことを事細かに書き出していく。


 もちろん裏付けの資料もある。いっぱいある。


 おまけにマザコンを護るため、私がアイテムボックスにしまい込んであったヤバい代物を添付。


 たぶん、いや、確実に国家転覆罪だと思う。


 それをこの国に来る隣国の王様宛に宰相だったお父さんの名前で、送り届けて貰った。


 それから……あはっ、そうしよう。


 後は、私が成り上がって、その場に行かないとだよね。


 こんな時ラノベでは何をしていたっけ?


 そう私は前世の記憶がある。


 そのせいで生まれたての時は辛かった。


 いやいや今はそんな事を考えている時間は無いわ!


 そうだ!


「そうよ! 私が成り上がるには、一週間しか無いの、それなら! お母さんちょっと冒険者になってドラゴンさんでもシバいて来ますね!」


 そう、この異世界にはドラゴンさんが実在していました! ならこれしかないでしょう! スタンピードも捨てがたいですが、そう都合よくは行きませんよね。


 よ~し、Let's Go!


「え? ちょ、ちょっと! シルフィ! 待ちなさい!」


「お母さん止めないで下さいませ、シルフィはやらねばならないのです」


「ま、まあドラゴンさんはシバいてきても……良いのかしら? でもあの方ならなんとかしてるれるわよね」


「え? なに? 急いでるんだけど!」


「シルフィ。行くにしても、ほら、寝間着は着替えていきなさいね」


「……あ」


 着替えてから私は、誰のお屋敷か分からないけれど、お屋敷を出てドラゴンをシバきに街を出ました。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「――でね、そのマザコンが悪者なの」


 私は、とりあえずドラゴンさんが居そうな山に登りました。


 山頂までは順調に進み出会ったドラゴンさん。


「それで俺をシバきに来たと言うのか?」


「そのつもりだったのですが、助けて貰った恩()……恩ドラゴンはシバいちゃ駄目ですよね……」


 そうなのです。登り詰めた山頂で、景色を見ながらお茶を美味しく優雅にいただいていた私。


 そんな私に向かって、魔狼が飛びかかって来たのです。が、運良く気付き、反応することができました。


『ほいっと!』


 そして私は間一髪その攻撃を躱しました。


 我ながらよく躱せたものだと感心いたしました。


 しかし……私の命運もここまで。躱した先は切り立った崖。


 その端を私は越え何もない空間に飛び出したのです。


 残念ながら私には滞空出来る力も時間もなく、宙に留まることはそう長くはありませんでした。


『ひょわわにゃ!』


 急激に加速し落下する私。もう駄目だと諦めかけた時でした。


 颯爽と現れ、見事私を救い出した者こそ、目の前に()りますドラゴンさんだと言うことです。


「ふむ、シルフィはそのマザコン王子とやらを見返してやりたいのだな?」


「はい。ですが、名声を求めドラゴンをとここまで来ましたが、それも――」


 無理です。いくら仕返しのためと言っても駄目なものは駄目ですね。


「ふむ……ならば俺が手助けをしようじゃないか。俺はお前が気に入った。くくっ、奴らの思うつぼに嵌まろうではないか。おいお前、喜べ俺の嫁にしてやろう」


 そう言うとドラゴンさんは、するすると小さくなり、男性の姿に――え! 嘘っ!


「嘘ウソうそ嘘っ! そのお姿はジョニー・デップ様ではありませんか! それに嫁!?」


「ん? 俺は "ジョニー・デップ" と言う名では無いぞシルフィ、俺の名はカオスだ。覚えておくが良い」


 あれあれあれあれ! このジョニー・デップ様を見た記憶があるのですけど!


 あれあれあれあれ? こんなイケメンさんをどこで見たの!


 いや私! 落ち着け私! 


「混乱しておるな。まあ良い、そのマザコンとやらを破滅させてやろうではないかシルフィ」


「も、もちろんです! えっと、カ、カオス様。で、でも最後の一手は私に任せてくださいね? 準備はしてきましたのでお願いします」


「良かろう。好きにするが良い」


「ありがとうございます……あんな才能も無いマザコンが王様に成ったらこの国は終わります。候補は第一王女様が一番マシですし、私と同じ年ですから成人まで後二年ありますので、それまで必死に勉強してもらいましょう」




「ふふふ、・・・・・・・・・・(それも良いか。滅ぼす)・・・・・・・・・・(つもりであったが、シ)・・・・・・・・・・(ルフィが生まれ育った)・・・・・・・・・・(国だ。多少は大目に見)・・・・・・・・・・(てやるのも悪くないな)





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 私とジョニ……カオスはこの五日間、寝る間も惜しんでちょっとだけお昼寝をして、冒険者として依頼をこなした。


 何故かタイミング良く? この王都に押し掛ける魔物の群れ、スタンピードを二人(カオス)だけで淑滅することができた。


 その功績で二人は最高位のSSSランクに上がり……Sでも良かったのですが、なってしまったのは仕方ありません。


 とまあそんなことがあり、王都を救った英雄として、マザコン王子の成人の儀に招待される運びとなって、私たちは王直々に伯爵位をいただくことになりました。

読んでくれて本当にありがとうございます。


このお話が気に入った、ダメダメですと思った方は、この後書きの下にある☆☆☆☆☆やブックマークで評価してもらえると励みになります。


『ダメダメ』なら★☆☆☆☆

『同情票で』なら適当に目を閉じて「えいっ!」

『面白い!』なら★★★★★


これからも読んでもらえるように頑張ります。

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