セッ〇スしか言えなくなる部屋でお見合いをしてはいけない
「ご趣味は?」
「セックスを少々」
山部は一瞬固まった後、首下に手を当て聞き違いかと我が耳を疑った。湯飲みにそっと目を落とし、数を数えて心を落ち着かせ、再度問いかけた。
「ご趣味は……?」
「セックス、いえ、御セックスを少々」
山部は上を向いて目を閉じた。
麗らかな若い女が柔やかな笑顔で『御セックスを少々』などと言う日が来ようとは、夢にも思っていなかったのだ。
「すみませんよく聞こえませんでした」
しかし山部はそれでも聞き違いということにした。その方が良いと思ったからだ。
爽やかな風が庭園の草木を撫でてゆく光景に目を向け、山部は心を切り替えた。お見合いはまだ始まったばかり。浮くも沈むも時期尚早。
「なにか習い事などは?」
「裏セックスを少々」
山部は今にも傾き鳴りそうなししおどしに目をやった。カコンと良い音が響いたところで山部は『茶道かな?』と真っ白な頭で考えたが、セ道とか無修正とか如何わしい妄想が先走ったので、お茶を飲んで忘れることにした。
「お勤めは?」
「セックス企業の経理を少々」
山部は段々と質問すること次第が間違っているのではないかと考え始めた。何を聞いてもセックスで返ってくる。もしかしたら自分とは常識が合わないのかもしれない。
が、そもそも合う合わないを知れるほどお互いのことを知らないではないか。
お互いを知るのに言葉などいらない。山部はお茶を飲み干して、そっとネクタイを緩めた。
「セックスをしましょう」
「誰かーッッ!! 襲われるーー!!!!」
山部は取り押さえられた。
「解せぬ」
畳に転がった空の湯飲みが、まだ温かかった。