逢いたい
大切なものは 失くしてから気づくものです
街中で見かけた彼女の肩を掴み無理やりこちらにむければ引きつった顔をした女が立ちすくんでいた
違和感を感じながら まだ可能性を捨てれず
長い髪で少し隠れた顔見たさに 女な顔に手を伸ばし あと少しで 頬に触れそうなのに…
切り裂かんばかりの悲鳴に手が止まる
女は 悲鳴をあがら ハンドバッグで俺の顔を叩くと 何度も振り上げながら俺を叩き続けてる
「声が違う」
無意識に頭を守りながら蹲る
がみがみと喚き散らかす女に叩かれながら痛みなどより それに胸が締め付けられて苦しい
違う 何もかも 貴女じゃないだろ
貴女に 後ろ姿は似た人は よくいるんだよ
貴女が好きそうな服を着て歩いてる女も沢山いるんだ
…ただ 貴女はいない
それが 悲しい 涙があふれてくる
ざわざわと人が集まり 遠巻きに興味深そうに見つめる数多の視線
叩くのをやめた女に スーツ姿の男が心配げに声をかけている
女との間に入り 身を呈すように立つ男の背中を眺めながら 俺は涙で霞む視界で 偽物の貴女の動く姿をみつめた
また 貴女ではない事実に気づかされて 涙が一筋こぼれた
人は 持って生まれるものは 見た目もそうだが 家柄 家族 色々ある
生きる事で 手にする知識 考え方 経験 俗っぽい事を言えば 学歴 財産などもそうだ
それが ヒト を 人にするのだろう
そして 死が 人を終わらせ この世に 残る名と記憶だけが 誰かの糧になり生き残り…時に誰かを苦しめる
「そんな 死に方をしてはいけないよ」
「えっ 何て?」
美津は 突然発せられた言葉を半分も聞き取れず聞き返す
長いこと手を合わせといた伯父さんが こちらに振り向き 困ったように笑う
思わず 言っちゃたって感じですね
美津の頭を 伯父さんはなでると 仏前の座布団から立ち上がり コートを腕に挟むと鞄を持つ
あぁ もう帰えちゃう それが残念で仕方ない
優しいこの伯父が 美津は大好きだ
来るときは必ず 甘いお菓子を持って来てくれるとこはもっと気に入っている
今度は テレビでやっていた 半年待ちの菓子を強請ってみたいものだ …絶対しないけど
そんな事したら 母が怒り狂う
あの人の事だ 2日は私の嫌いな椎茸づくしの料理を食卓に並べる ニコッと笑うんだよ
前に門限破りした時 お小遣い日前に 弁当に椎茸づくしにされ パンを買う余裕もなく 泣きながらお茶で流しこんで食べた
怒り方がねちっこいからやめてほしい
伯父さんが発した不思議な言葉から 思考を飛ばし結局違う事を考えていた三津
気づいたら
古い家屋の長く薄暗い廊下の先で伯父さんが靴を履いていた
早足で玄関までたどり着くのと同時に伯父が立ち上がる
「美津さん 今日はありがとう お母さん達にもよろしく伝えててくれるかい」
伯父が靴べらをさしだす
「わかりました 伝えときます 伯父さんこそ気をつけてお帰りくださいね」
靴ベラを受け取りながら 美津は いつもと同じようにこたえる
「…また来てくださいね」
眩しそうに目を細め 伯父は三津をじっと見つめ返す
「あぁ また会いにくる」
すっと伸びた手が三津の頭をなでる
「ありがとう」
伯父の居なくなった玄関に素足で下り 開いたままの引き戸をからからと閉める 鍵がガチャンと廊下に響く
足裏に付いた砂利をぱらぱらはらう
所在なさげなスリッパを靴箱にしまい誰もいなくなった廊下で三津は 自然と愚痴っていた
「居留守ばかりのあんな人達によろしくも何もないんじゃないかなぁ〜礼儀とか普段は馬鹿みたいにうるさいくせに信じられない」
伯父さんが伯父さんでない事を知っている
私の顔は 父にも母にも似ていない
仏壇の奥にこっそり隠された写真の若い女性
伯父さんが会いに来る人
最近ふと 私の声に母が目を見張る事が増えてきた
似てるんだよね?って聞けはしないんだよね
三津は気付きながら ずっと蓋を開けれずにいる
来年は 無事合格すれば 東京の大学に進学する予定だ
まぁあくまで予定
ギリギリって塾でも脅されているし
母なんか 日々脅してくる 受験生に 落ちるよって…どんな鬼母だ
ダイニングテーブルの上には 高い事で有名なお店の紙袋が鎮座している
中を開ける焼き菓子をつまみ 思わず声が出るうまさについ地団駄を踏んでよろんでしまう
「これは止まらんわ」
キッチンに向かい やかんに水をくみ火にかける
美味い菓子には 日本茶よね
日本人だからか いや万国共通か
急須に 煎茶をいれ 大っきなマイマグを準備する
湯呑みは小さいし熱いから苦手でいつもこうだ
酸化しても 冷めても気にならない性格なんですよね
湧き出した やかんの音を聞きながらさっき唯一聞き取れた不穏な言葉
『死に方』
まだ17歳の私に 生き方でなくて死に方と言わないで欲しいとこだ
可能性の塊ですから、縁起でもないです
知りたいような 知りたくないような
出来れば 美津が想像するより 平和な話がいいな
書庫にあった 暇つぶしに読んだ古い物語に 死が優しく伝わる様にって 文章があった
是非お願いしますよ
美津の切なる願いは これです
当事者の皆さま方是非よろしく