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名探偵ヨシノ君

名探偵ヨシノ君2

作者: リョウ

雨が降っていた。

最近はずっと雨ばかりだ。

みんな似たようなビニール傘ばかりで、よく取り間違いが起きない物だと思っていたら、どうやら女子の間では手持ち部分にお気に入りのキャラクターマスコットをつけたりシールをつけたりして区別しているらしい。

カズキは先日、手持ち部分に「吉野カズキ」とデカデカと名前を書いてしまったばかりだった。

そんな手があるなんて事はもっと早く知りたかった。

いやでも男子高校生がキャラクターを傘につけるのも恥ずかしいなと思った。

格好つけるためなら傘の紛失などどうって事はない。

男とは格好つける事に命をかける生き物なのだ。


丁度弁当を食べ終わったばかりの昼休みの事だった。

教室に見知った少女が訊ねてきた。


「カズキ君、ちょっと相談があるんだけど」

少女、中野みなみに顔を向けたまま、視線だけを教室にいる竜崎ヨシノに向けた。

あまり知られていないが、吉野カズキと竜崎ヨシノは親友だった。


カズキはみなみに視線を戻すとニッコリと笑う。

基本、女子には親切にする事にしている。

「何の相談? 俺でよければ何でも聞くよ」

みなみは勝手にカズキの前の席に座る。

彼女は隣のクラスにいる小学校からの同級生だ。


「カズキ君が探偵みたいな事してるって噂になってたから、ちょっと聞きたいんだ」

「……うん、どんな内容?」

カズキは笑顔のまま先を促す。


「今、うちのクラスで話題の女の子がいるの。名前は伊藤サキ。いつも教室に一人でいるおとなしい子なんだけど、最近その子の占いが凄いって噂になってるの」

「占い?」

カズキは首を傾げた。

「そう、占い。最初は恋占いだったんだ。私の友達が好きな人の事で悩んでいたら、伊藤さんが占ってくれるって言いだして、占いの後に上手くいくって言われて告白したらなんと大成功! それで次々にみんなが相談したら、彼女の言う通り、大丈夫って言われた子は告白してOKもらって、無理そうだって言われた子は失恋してるの」

「ふーん」

呟きながらカズキは竜崎を見る。

彼はみなみを見ていたが、すぐに視線を雨粒のついた窓に向けた。

その先には何が見えるのだろう。


「最初は恋占いだけだったんだけど、次第に彼女、なくした物も占いで見つけるようになったの」

「なくし物?」

カズキは身を乗り出した。

「ペンケースをなくした子が探してたら、落ちてる場所を教えてくれたり、なくしたピアスの場所も当てたり。私の友達はすっごく興奮して超能力だって言いだしちゃってるの」

「超……能力」

驚くカズキにみなみは首を振る。

「私は思ってないよ。というか逆になんか怖くなってきて、偶然でしょとか言っちゃったの。そしたら友達とケンカみたいになっちゃって……」

みなみは落ち込んだように目を伏せた。

問題の伊藤サキではなく、その信者になってしまった友達とのケンカで相談に来た事を理解した。


「ちょっと聞いても良いかな?」

「うん」

みなみは持っていた携帯電話を手に掴んで抱きしめる。


「伊藤サキさんはいつも教室に一人でいるって言ってたよね?」

「うん」

「その時、彼女はいつも何してるの? 本でも読んでる? それとも携帯を弄ってる?」

「ああ、うん、彼女はよく教室を眺めて考え事した後に、ノートにイラストとかプロットみたいなの書いてる」

「プロット?」

「彼女、漫画研究部なの。だから休み時間も絵を描いたり、キャラ設定なのか絵の横に文字をたくさん書きこんでる」

「……彼女が好きなのは漫画だけ? 小説とかアニメとかは?」

「あんまり話した事ないからわからないけど、でも、漫画好きな人って小説もアニメも好きじゃないかな? 私もアニメも漫画も好きだもん」

みなみは持っている携帯を翳した。携帯のケースにはアニメキャラのストラップがついていた。

「私が好きなのはこのアニメ。マイナーだけどね」


ガタリと音がした。

振り向くと竜崎が席を立っていた。

カズキは視線を戻すとみなみに微笑む。

「うん、だいたい分かったよ。じゃ俺の推理を言うね」

カズキの横を通り、竜崎が廊下に向かった。


「伊藤サキさんは超能力者じゃないよ。どっちかと言うと探偵だね」

「探偵?」

呟くみなみにカズキは頷く。


「彼女は教室でいつも漫画のプロットを書いてたって言うけど、多分それはクラスの人達を観察して、イラストと文章に残してたんだと思うよ。漫画のネタ作りも何もないモノから作るより、誰かを参考にした方が作りやすいだろうからね。まぁ、単に人間観察が趣味ってだけかもしれないけど」

「人間、観察……」

呟くみなみに頷く。


「彼女はシャーロックホームズ並に観察眼が鋭いんだと思うよ。だから誰が誰を好きなのか見ていれば分かるんだよ。それを占いって形でクラスの女の子に助言してあげてたんだ」

「じゃあ、なくし物も?」

「うん、そう思うよ。さっき言ってたペンケースはどこで見つかったの?」

「4階の廊下」

「それって音楽教室のある階でしょ? 移動教室の時に落としたってワケだ。同じクラスなら当然気づくよね」

みなみは携帯を抱きしめたまま身を乗り出す。

「ピアスは? ピアスなんて小さいし見つけにくい物だよ?」

カズキは頭の後ろで両手を組む。


「ピアスって、イヤリングと違ってガッチリ耳に挟まってるから落としにくいよね? それを学校で失くすのって着替えて服が引っ掛かった時位だよ。その子が文化部なら女子更衣室、運動部なら部室で見つかったんじゃない?」

「……すごい、その通りだよ。バレー部の部室で見つかったの」

カズキはうんうんと頷く。


「彼女は超能力者じゃないって言ったけど、その観察眼とか、ある意味、超能力者に近いよね。そもそも占いって誰かの役に立つように助言する物だし、彼女は何も悪い事はしていない。みなみちゃんも友達もケンカする必要はないんじゃないかな? あとはあんまり無理言って伊藤サキさんを追い詰めないように気をつけてね」

「追い詰める?」

みなみは小首を傾げる。

その姿にカズキはため息をつく。


「いくら彼女が観察眼が鋭くても、何でも分かるワケじゃないんだから限度があるでしょ。無理な質問して困らせて、彼女を追い詰めたり、嘘つきだって言わないように」

「あ、そっか、そうだよね……」

みなみは持っている携帯を抱きしめた。アニメキャラのストラップが揺れる。


「ありがと、カズキ君。相談して良かった」

「うん、それは良かった」

立ち上がったみなみにカズキは手を振る。

「あと同じアニメファンだし、伊藤さんともっと話してみたら?」

「うん、そうだね。私の好きなこのアニメもすすめてみる」

手を振って立ち去るみなみに微笑みながら、カズキは考える。

竜崎ヨシノは間に合ったのだろうかと。




竜崎ヨシノは昇降口前の下駄箱の横にいた。

校舎の外は薄暗く、まだ雨が降り続いていた。

そろそろ昼休みが終る。

人気がなくなったそんな時刻に彼女は現れた。

1年生の傘立ての前に立つと、彼女は物色を始めた。


「やめといた方が良いと思うよ」

竜崎の声にビクリと震え、伊藤サキは振り向いた。

その手には一本のビニール傘があった。


「それって中野みなみさんの傘でしょ? 分かるよ。そのアニメのキャラってけっこうマイナーだよね。そのキャラグッズを自分の傘につけてる人は他にいない」

伊藤サキはガタガタと震えていた。

そんな彼女に向かって竜崎は続ける。


「昼休みになって、中野みなみさんとその友人が教室で口論を始めた。その内容は君の能力についてだった。それが聞こえてきて、君は慌てたんだね。みなみさんに問い詰められると思った。だから彼女の傘を隠し、放課後、占いで見つけてあげて彼女に信用してもらおうと思ったんだ。でもダメだよ。自分から物を隠したりしたら、それは良くない」

「……なさい、ごめんなさい」

伊藤サキは、長い髪で顔が隠れる程深く頭を下げた。


「大丈夫だよ、何も言う気はないよ」

「え?」

ゆっくりとサキは顔を上げた。

竜崎は微かに笑った。


「どちらかと言うと感心してたんだ。俺達以外にも探偵みたいな事する人が居たんだなって」

「俺達?」

呟くサキに竜崎は微笑んだ。


「何か大事件が起きたら、またその才能を活用して欲しいな」




午後の授業開始のチャイムが鳴った後で、竜崎ヨシノは教室に戻ってきた。

放課後、カズキはまだ椅子にいた竜崎に声をかけた。


「間に合ったのか?」

机に手をついて問いかけるカズキに竜崎は頷く。

「今回は」

「今回?」

竜崎は机に肘をついて顎を乗せる。


「今回は直前で止めた。でも今までは分からないだろう? ペンケースだって本当に落としたのか、彼女が隠したのか……」

「やめろ、竜崎。俺はそんな風には思いたくない。きっと今回が初めてで、そんでもって未遂なんだ」

「……まぁ、その可能性も確かにあるにはある」

カズキは大きく息を吐いた。


「きっと彼女はクラスに友達が欲しかっただけなんだよ。だから占いをきっかけにしたに過ぎない」

「彼女の目的は達成されたのか?」

訊ねる竜崎にカズキは頷く。


「多分ね。みなみさんもアニメ好きだし、きっと二人は仲良くなれるよ」


視線を窓に向けた。まだ雨は降っていた。

ビニール傘をさす少女が二人、歩いて行くのが見えた。









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