ラルスター
今回はかなり短めのお話しになります。
アルベスタ王国
王都ベスター、その王都の一角にある教団本部。
今そこに各地から教団の司教達が集まる。
彼等は焦っていた、この王都に覚醒遺伝者がくる!
あってはならない事なのだ!
ラルスター教。
この王国の国教として権勢を轟かせていた宗教団体である。
その教えは"人間至上主義"!
人間だけが神に愛されし存在! 魔族や魔獣は排除すべきと言う歪んだ思想の団体である。
戦時中は大いに受け入れられて来たこの思想は、近年受け入れられづらくなって来ている。
魔族との終戦、各国が魔族との交易により発展している事実、他国の覚醒遺伝者がもたらす多大な利益。
そんな中、我が国で10数年前に覚醒遺伝者が発見された。
まだその頃は終戦間際、以前にも数名発見されていたが、辺境の地程敬虔な信者は多い! その信者達により人知れず処分されて来たのだ!
今回も同じ様に処分されていると思っていたのだが……
まさか生きていたとは!!
しかも国王の耳にまで入っていると言う……
10数年前に赤子の身で罪人の洞窟に捨てられたと聞き、それでは生きてはいけまいと鷹を括っていたのだ……それが生きていた!
その後の報告でも首輪と鎖で繋ぎ、食べ物も飲み物も与えず放置していると聞いていた。
それすらも生き延びたと言うのか!
直ぐに殺しておけば良かった……
後悔の念を拭えない……
首輪と鎖で繋ぎ、飲まず食わずで放置との報告を聞いた際、覚醒遺伝者が苦しんで死んで行く姿を想像しほくそ笑んでいたのは自分達なのだ!
覚醒遺伝者が生まれる度、情報が王都にまで届かぬ様操作していた教団だが、今回は情報が漏れてしまった。
恐らく終戦により、教団の力が衰えを見せ始めているのであろう……そこに覚醒遺伝者が王都入り、その能力で国に利益をもたし、また魔国との国交が回復でもしようものなら……
教団は終わる……
終わる所か、自分達に向け弾劾が始まるやも知れない!
覚醒遺伝者が王都入りする迄になんとしてでも処分しなくては!!
「もう直ぐモーリス兵士長率いる覚醒遺伝者を保護に向かう軍が出発致します」
「ふむ、潜り込ませているあの三男坊……上手くやれるでしょうか……」
「ヤツはあのサジス家の者です。敬虔な教団信者の家系の者、それに……その道のプロも数名向かわせます」
「だかあのモーリス兵士長の目を盗んでとなると……」
「それは問題ないでしょう。如何に護衛対象と言えど、四六時中監視している訳でもありますまい。サジス家の三男はともかく、あのもの達はプロです。それなりの額は渡しています! これまでどうり上手くやってくれるでしょう」
不穏な計画を語る司教達。
その司教達の会話を盗み聞きしている影が一つ……
「では我々は報告を待つ事にしましょう! ラルスターの名のもとに!!」
「「「ラルスターの名のもとに!!」」」
司教達が胸に手を当て膝をつき祈りを捧げる。
そっと姿を消す影……
覚醒遺伝者、アマネを狙い教団が動き出すのであった。