#91 三つ子星の優しい王女と愚かな影姫 9
「いつも言っているでしょう! 考えてから喋りなさいって!」
「別にいいじゃん!」
「よくありません!!」
「よくあります!!」
低レベルなBGMだ。
「なら止めますか?」
10代の子は感情が先に来るからな。
もういっそ爆発させて、おとなしくなるまで待てばいいさ。
「ウチの10代の子がおろおろしてますけど?」
いいんじゃないか。
他人のケンカの仲裁も巫女修行になるよ。
「そんなもんですかね」
下手に仲裁して矛先がこっちに向くのはご免だ。
そんなもんだと思うことにして、打ち合わせだ。
「船長はさっさとワインを渡してケリをつけるものかと思ってましたよ」
俺もそれは考えた。
この国でも高値かな?
「300年物はどこも希少というか幻ですからねぇ。高値になるかと」
前は8000万弱だっけ?
「はい。7938万です」
かなりの金額だよな?
「そうですね」
後先考えないならそれ渡して、魚買って終了でもいいんだが、
「マーロン三世の件を思い出しますか?」
それもあるが、あの子たちがどう思われるのかなと思って。
「どう、とは?」
あまりに高額な物を魚の購入権と引き換えでもらったと言って信じてもらえるのかなと。
「信じるしかないのでは?」
怖いのはあの子たちが身体で手に入れたと思われないかなと思ってさ。
風評被害ってやつだ。
「……よくもまあそんなこと思いつきますね?」
日本のエロ系の薄い本だと常套手段なんですが?
好意的に解釈するとあの子たちの婆様はそれがあってエクレアを候補者にしたのではないのかなと。
「と、いいますと?」
兄貴たちが交渉に行く。
高いもの欲しかったら「皇帝の威光」寄こせ。
ダメか、ならお前の妹を貸してくれ、いやちょっと写真をとらせてもらうだけだ、それならいいだろう。 という展開になるのではないか?
えっと、兄さまに言われてきたんだけど?
これに着替えるの?
何、布地がないじゃん、ほとんど紐じゃん。
兄さまにいくらの物を提供したと思っているのかだって?
そりゃあ、そうかもしれないけどさ。
……わかったよ、着るよ、着ればいいんでしょ!
似合うって、嬉しくないってば。
えっ? ポーズをとるの?
こう?
違う?
え、ちょっと待ってよ、恥ずかしいよ。
演技指導?
変なところ触んないで!
ちょっと、そこはもっと触っちゃダメなとこ!
いや、やめて!
助けて、イザベラ!
的な?
「船長、最低です」
あり得ないか?
「0とはいいません。ですが船長の星ほど性的犯罪がないですからねぇ」
俺の国はそれでも性犯罪は他国に比べたら少ない方だったらしいが。
でも額が高ければ渡すほうもタダは嫌だろう?
「それはそうですが……、だから孫娘を守るためにエクレア様を候補者にしたと?」
そうとも言えるし、好意的でない解釈もある。
なんですって、高額なものが欲しかったらエクレア王女にHなことをさせろですって?
なんて卑劣な、恥を知りなさい。
くぅ、なら高額なものがもらえない。
……王女は無理です、が私ではどうでしょうか?
何でもします。
覚悟を見せろですって。
何をしろと?
こんなところで裸になれと?
……ハイわかりました。
次はどうすれば?
……舐めるのですか!
それを!?
……はい、わかりました。
的な?
「本当に船長、最低です」
いや、日本のエロコンテンツにはそんなテンプレートがな。
そんな風にあの子たちが思われるのは忍びないと思ってな。
「いい話にもっていきたいのはわかりますが、その過程が最低です」
おかしいなぁ?
「まあその話は置いておきましょう。ではどうするのです。黒真珠渡して終わりますか?」
それでもいいんだが、結局どうなるかわからないからな。
つまりはこの国の黒真珠の逆があればいいんだと思うんだよ。
「この星には価値があるがこちらには価値が低いもの、ですか?」
そういうことだ。
「そうなると大翠で買った無名の芸術家の絵とか彫刻ですかね。安物ですが、価値を認めてもらえるかもしれませんね」
うまくいくならそれでもいいんだがな。
「ほかに何かあります?」
この前、部屋を片付けていた時に見つけたんだが……、
「……なるほど。地球ではそれほど珍しいものではないですね。ワイズにもありましたし、他の星にもあるかもしれませんね。問題はこの国ではどうかですか。ちょっと調べてみます」
頼む。
あと白ウサギに俺の部屋から持ってくるように頼んでおいて。
「それはさておき、まだ諍いが止まってませんが、どうします?」
そろそろ止まってほしいな。
最終的にどっちかが地雷踏んで、平手打ちして、されたほうがどこか行くパターンとは思っているんだが。
「地雷踏むのはエクレア様でしょうかね」
ほぼ間違いないな。
でイザベラが怒って殴る。
エクレアが「イザベラのバカ」って言って走っていくと見た。
「……ですがイザベラ様ですよ。激高して叩いた後に我に戻り、混乱して逃げそうでは?」
そういうパターンも考えられるな。
よく考えたらエクレアもまさかイザベラに叩かれるとは思ってないだろうから、泣き崩れるかもしれないな。
「もうイザベラはいっつもそれ! 何かあったらお祖母様、お祖母様! あたしが役にたたない王女だからってしつこいんだって! もうイザベラが王女すればいいじゃない!」
エクレアの言葉にイザベラは目を見開き、手を振り上げ、
「私だって、私だって!」
叩こうと振りかぶった手をすんでで止め、大粒の涙を流し、
「どうしようもないことだってあるのよ!!」
イザベラは走り出す。
なるほどそういう展開か。
「予想は少し外れましたね」
まあ誤差の範囲さ。
とりあえずポーラ。
「は、はい!」
ジェスチャーで追いかけるように指示をすると、今までおろおろしていた顔は一転真剣になり、走り出す。
さて俺はエクレア担当か。
「……ドラパパ、どうしよう。地雷踏んだかも」
大丈夫だ。
地雷踏むのは予想通りだ。
他もまあ、想定内だ。
誤字報告、感想、ブックマーク、評価してくださった方、ありがとうございます。
この後予定がありますので少し早いですが投稿しました。
もしかしたら明日も少し早くなるかもしれません。