#85 三つ子星の優しい王女と愚かな影姫 3
こうあるべきだ。
俺は一人ごちる。
引きこもりに予定などあってはいけない。
起きたいときに起き、腹が減った時に飯を食い、眠くなれば寝ればいい。
これこそ引きこもりの正しい在り方だ。
人にあわせて生活していたら社会人と同じではないだろうか?
「バカなこと言ってないで艦橋に顔出してください」
残念ながらドラゴンには理解されなかった。
「ドラゴンだけではなく、どの星の人間にも理解されませんよ」
地球の引きこもりたちには同意してもらえるかなとは。
「特殊な事例です」
それはさておき着替えて、生あくびをこらえて艦橋に向かう。
ポーラがいると昼食、夕食は時間通りになるので、あの子がいないと自堕落に過ごせるな。
「まさかポーラがいる間は気を使っていたとは思いませんでしたよ」
人間たまには部屋から出ない日が欲しいよな。
「船長だけですよ」
これでもただ引きこもっていたわけではないんだぞ。
たまには片づけをしようと思ってな。
パソコン自体、イザヨイ製だからもう周辺機器のプリンターとかLANケーブルとかモデムはいらないよな。
会社でさせられてた通信教育なんかも捨てていいし、年金手帳とかも銀行の通帳だのキャッシュカード、クレジットカートにポイントカードもいらないよなぁ。
てかカードが多すぎだな、病院の診察券、マイナンバー……。
あ、テレホンカードが出てきたんだが、これ限定品なんだけどなぁ
会社の設立50周年の記念品の時計が出てきたんだが、安物のデジタル時計なんかいらないよなぁ、まだ買ったばっかの腕時計のほうが価値がありそうだが、宇宙用のスーツを着ているとつけるタイミングがない。
機械式なので、随分とつけてないからもう動いてなかったりする。
スマホも使ってないので充電すらしていない。
仕事用の手帳や名刺なんかも捨ててもいいし、郵便物もいらない、カバンとか靴なんかもいらないよなぁ。
印鑑は、彫刻品として売れるだろうか?
日用品の洗剤とか消臭剤、ごみ袋や掃除用具などももういらないだろう。
そんなこんなで断捨離していたらカップ麺がでてきた。
久々に食うカップ麺はマジ美味い。
とまあ、そこそこ充実していた。
「……それは何よりです」
若干カグヤの目が冷たい気がするが、きっと気のせいだ。
ところでポーラはどうしてる?
問題ないか?
「あら、気になりますか?」
ここで俺がポーラの話題を出さなかったら「気にしないのは船長として、人としてどうでしょうか?」とか言うだろう?
「言いますね、言う気でしたよ」
ならまだ心配している風のほうがいいかなと。
「そういうことを言わなければいいんですけどねぇ」
性分で。
「ポーラはとりあえず問題なさそうですよ。魚市場でも魚がほとんど手に入らなかったと申し訳なさそうな連絡がありました」
まあ元々期待してはいない。
そういう国の体制なら仕方ないだろうよ。
「ですね、こっちとしてもダメ元ですから」
一人地上で満喫してこいというよりも、一応仕事を与えておいた方が地上に降りやすいかと思ったくらいの話だしな。
それが自分の好きなもののためならとりあえず何のためらいもなく降りていくだろうと思っていたくらいで。
一匹でも手に入れれたらそれが食卓に上がった時に彼女の感慨もひとしおだろうと。
「一応、マグロとタイ、サーモン、ヒラメが1匹ずつ買えたそうです」
上出来だろう。
帰ってきたら刺身を食おう。
寿司でもいいなぁ。
「あとカルパッチョがおいしかったと」
ああ、そういう食い方もあるな。
「ブイヤベースもおいしそうだったけど、あとの楽しみにとっておいて、とりあえずホテルに向かうそうです」
ブイヤベースは食ったことがないな。
ポーラが食って美味かったらイザヨイでもリクエストするだろうからその時に食わせてもらおう。
「ちょっと疑問ですがあの子、魚を不味いっていいますかね?」
それは俺も疑問ではある。
きっと言わないだろうなぁ
俺的には西洋人が秋刀魚の塩焼きとかノドグロの煮つけをナイフとフォークで美味そうに食ってる絵面はどうにも違和感があった。
まあ食い物に、それもうまいものに国境いや、星境などない。
美味ければそれでいいだろう。
「そんなものですかね。食が生活で重要なファクターですので喜んで食べてもらったほうがありがたいですが」
むしろ彼女の苦手な魚を探す、そういう楽しみがあるぞ。
「それは船長だけでしょう」
生は嫌うかと思ったがカルパッチョで大丈夫となると何があるかね?
しめ鯖なんかは苦手な人がいるし、グロテスクな見た目の魚をなんかどうかね?
「それは船長におまかせしますよ」
そうかい。
他に聞いて置くべきことはあるか?
「コンテンツの売り上げは上々です。ワイズのはもちろんですが他の惑星のも売れていますね。Z3-Jはこちらまであまり売りが来てないのか途中で止まったコンテンツを買い求めてる人がいますね」
まあ売れるなら文句ないさ。
買いのほうは?
「とりあえずポーラ待ちですかね。データー配信のコンテンツは後からでも買えますが、ポーラが少々高くても珍しいものを見つけてきてくれればなあとは思いますが」
てかいくら金を渡したのか知らんが、結構な額なんだろう?
ポーラが目を真ん丸にしてたが?
「1年くらい裕福に生活できるくらいでしょうか?」
渡しすぎだろう!
てかもうそんなにコンテンツ売れたのか?
「その時の売り上げの全額です。今はまた増えてますが」
未知のコンテンツは強いってことか。
「そういうことです」
じゃあ後はポーラを待つとしますかね。
とはいえ1か月くらいゆっくりと大地を踏みしめてもらいたいもんだ。
「私もそう思っているのですが、そのポーラからたった今、連絡が入りました」
このタイミングでそれは嫌な予感しかないぞ。
「魚が手に入りそうなのでお客さんを連れて一度戻りたい、だそうです」
おい。
「驚きました、降りて1日足らずでそういう状況になるなんて」
食糧を買うには王族の許可がいるんだったよな?
「そうです」
あの子の魚に対しての行動力ってすごくないか?
「ですね。彼女に言わせると『蒼龍様のお導き』ですませそうですが」
あんなドラゴンでもご利益あるなら拝んでおくべきだったかね?
「拝みますか? 毎日通信が入ってますが」
やめておこう、今となっては呪われそうだ。
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レビューをいただきました、ありがとうございます。
端的でそれでいて的確な例えでしたw
この場を借りてお礼申し上げます。