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#82 惑星パールでの目的

「……結果的に私はお魚に出会えたのですから、よかったのかもしれません」


 そう言えるのはこの子の人間ができているのか、はたまた魚がすごいのか。


「その魚の件ですが、少々問題が」


 何だカグヤ、まさか在庫がないとか言わないだろうか?

 ある意味、死活問題だぞ。


「いえ、在庫あります。ただ刺身用に新鮮な生を手に入れようとずっと思っていまして、これから向かう惑星パールはようやく鮮魚が手に入れられる星なのですが」

「――買えないのですか!」


 いや、ポーラ。

 そんな絶望的な顔しなくても。


「ある程度なら買えるんですが大量には売ってもらえなくて。国外に出すのには許可が必要なようで」


 誰の?


「王族のようです。食糧は三つ子星では基本的には各惑星で自給自足なのですが、かつて異常気象で供給に深刻なダメージを受けた教訓から、この3つの星は食糧はいざというときに助け合えるように、国外には基本的に輸出しないようになったそうです」


 でもそれだとここに立ち寄った宇宙船は食糧をどうやって補給するんだ?

 

「ですからある程度、です。次の惑星までの必要量くらいは購入できます」


 まあそういうことなら仕方あるまい。

 少しだけでも手に入るならとりあえずそれでいいだろう。

 刺身が久々に食えるだけで十分だ。


「あきらめるのはまだ早いのではないのでしょうか? 何か手はないのですか?」


 まあ落ち着けポーラ。


「国営の魚市場があるのでそちらに行って直接買い付けてもらえれば、限度はあるでしょうが少しは手に入ります」

「わかりました、行ってきます」


 お前ら話が早いな。

 まあいいや、ポーラまかせた。


「キャプテンはいかないんですか?」


 俺は基本的に船から降りないからな。


「……どうしてですか?」


 引きこもりの習性、かな?


「それだと体を壊すのでは?」


 現状はすこぶる快調だけどな。

 むしろ外に出るほうが体調を崩すんじゃないかなぁ。

 俺の言葉にポーラは絶句し、カグヤがやれやれと肩をすくめる。


「ね、船長。これが正しい人間の反応ですよ」


 おかしいなぁ、なんで理解されないんだろうか?



 俺が船を降りないことを理解させるのに若干の時間を要した。

 不思議だな。

 育ってきた環境の違いという奴だろう。

 日本の本物の引きこもりに言わせると、きっと俺など部屋から出ている分アマチュア扱いだろう。


 それはさておきポーラには魚市場以外にも行ってもらうところがある。


「どこでしょう?」


 街の商店街をまわって、この星の民芸品やら工芸品やらの他所の星で売れそうなものをついでに見てきな。

 通販もいいが、実際に現物みるとまた違う印象があるだろうからな。


「そうですね、その辺は人間の感覚になりますから。そういった目利きも養ってもらえればありがたいですね、船長が当てにならないから」


 そこは否定しまい。


「はい、頑張ります」


 金は適当にカグヤにもらえばいいとして、護衛のウサギもいるな。


「ポーラには白ウサギを1体つけようと思います」


 俺の時は黒ウサギもつけるとか言ってなかったか?


「言いましたよ。船長が降りるならそうするつもりです」


 ポーラは白ウサギだけでいいのか?

 そもそも黒ウサギが護衛用じゃあなかったっけ?


「そうなんですが、ポーラって龍舞っていう格闘技の学生チャンピオンなんですよ」


 ほう、そりゃあたいしたもんだ。

 そういやさっき艦橋で代表がなんとか言ってたのはこのことか。

 まあそれなら俺とは比べ物にならないほど強いんだろう。

 じゃあ、白ウサギ連れて気をつけて行ってきな。


「キャプテンは不思議な方ですね?」


 ポーラが真顔で言い放つ。

 なにがだ?


「いえ、男性の方って、私が龍舞のたしなみがあると言っても、女だからと筋力に差があるから男性には勝てないとか、いざというときには怖くって震えて戦えないとか言われ続けてきたものですから」


 その言い方も「過信するなよ」というニュアンスでいうなら間違ってないと思うがな。

 

「それは……そうなんですが」


 ポーラの顔を見る限りそうではないらしい。

 まあ男にも見栄があるからな。

 女に負けるのは恥ずかしいと思う奴もいるからな。

 そんなもんだと思って聞き流しな。


「船長には見栄がないのですか? 自虐はよく聞きますが自慢はあまり聞きませんが」


 とカグヤ。

 ないことはないぞ。

 社会人時代に若い社員を誘って飯食いに行くときには俺が支払っていたしな。


「それは上の義務では?」


 弊社クズノミヤ、安月給にも定評があってな。

 上の人と飲みに行っても割り勘が当たり前の社風です。

 なんで上司と飲みに行くのに自腹きらなきゃならないのか? 

 誰もがそう思っているが、先立つものがないから上司も先輩もおごれない。


 俺はそういう気持ちが死ぬほどわかるので、総務として他の部署の後輩と出かけるときには俺が支払っていた。

 もちろん領収書も切らず自腹ですよ。

 まあ俺は基本引きこもりで彼女もいなく、オタクだが収集するタイプではないので金には少し余裕があったしな。

 先輩にはごちそうさまですと言っておけばいいんだよと、見栄張って酒やら肉を食わせたもんだ。

 

 余談だが3年目の社員が「この会社に来て初めておごってもらった」と言った時には、その部署は大丈夫かと思って調べてみたら、内情パワハラの嵐でギスギスしていて頭を抱えたもんだ。


「キャプテン、ご立派です」

「それも見栄ではありますが、今話題にしている見栄とは少し違う気がしますがね」


 他人によく見られたいという気はあまりないからな。

 人間が浅いから見栄はっても見破られて、逆に嘲笑されるよ。

 それならピエロ演じて笑われてても、普通に仕事はする根はまじめな人とか、たまにいい人とか、やればできる人と思われるほうが気が楽だぞ。


「マイナスからスタートさせるスタイルですか。他人への評価が加点システムならいいかもしれませんが、減点システムも往々にありますよ」


 まったくだ。

 だから上司には受けが悪かったんだよ。




感想、誤字報告、ブックマーク、評価ありがとうございます。


3連休で思ったほどストックはたまりませんでしたが今週中は毎日更新します。

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