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#スピンオフ 若者の海賊離れを嘆く女神様に変身できる眼帯をもらったけど、あたしにそんなのできっこない 1

本日4話更新、1話目です

#39,40の裏側になります


 

「でね、やっぱり私としては嘆かわしいとしか言いようがないのよ」


 ……どうしてこうなった?


「昨今の海賊に興味を持つ若者が減っているという現状は私からしたら考えられないのよ!」


 とうとう寂しすぎてあたしの頭がおかしくなって幻覚・幻聴が聞こえるようになったのだろうか?


「せっかくの宇宙船を駆って大宇宙を旅しているのよ、海賊との遭遇にこそドラマがあると思うのよ。スペースオペラ=海賊。海賊=スペースオペラでしょう?」


 それにしても綺麗な人だ。

 言ってる内容はなに言ってるのかさっぱりだけど、ハキハキと物怖じしないで流暢にしゃべっている。

 こんな人になりたかったという願望が産み出した妄想だろうか。



 とりあえず少し整理しよう。

 あたしの名前はマルチダ・P、このあとは個人番号が続くので以下略。

 あたしはいわゆるコミュ障だ。

 子供の頃から人と話すのが怖くてしかたなかった。

 話しかけられても緊張して小さな声でボソボソっとしかしゃべれないし、そもそも何言っていいのかテンパって会話にならない。

 そんなのだから友達ができなかった。

 みんなが楽しそうにしているのがとっても羨ましくて、でもそこに行けない自分がいて、寂しくて死んじゃいそうだった。


 だからあたしはハイスクール卒業の際、一念発起して宇宙に出ようと思った。

 宇宙に出て、今よりもっと一人で寂しい思いをすれば、地上に降りたときには思いきって人と話すことができるのでは、と。

 逆療法というか、追い込めばなんとかなるのではと考えた。


 そのやり方はあたしの思う方向と違うところで成功した。


 宇宙に適性があったあたしは、とりあえず国が運営する定期便の船長に採用された。

 そこで困ったのが自分で入国管理などの手続きをしないといけないということだった。

 とてもコミュ障のあたしにとって苦痛なことだった。

 最初はテンパって会話もなりたたなかった。

 メモをもって原稿を読むことでなんとか対応していた。


 あたしの故郷は三つ子星と呼ばれていて、近距離のゲートで3つの星が隣接していて片道8日ほどだ。

 いつしか3つの星が1つの王国になったという歴史があり、定期便がある程度必要なのだ。


 基本、宇宙船は一人で乗るので常に寂しい。

 ボッチのコミュ障の私にとっては今までと変わらない環境だったんだけど、他の人は耐えられなくてよく辞めていった。

 そんな中あたしはいつしか古株になっていた。

 追い込まれて、というか必要に迫られてなんとか事務的な会話ならできるようになっていたが……相変わらず友達ができなかった。


 15年の契約が満了し、中古の船がもらえるという話になったがその時はまだ一人で宇宙に出る自信も、やめて地上で生活する自信もなかった。

 だからもう10年働いて新品の船がもらえるまで働くことにした。


 そして10年。

 ……あたしに友達はできなかった。

 とっても寂しいのに、誰かと話す勇気が持てなかった。


 だからあたしは考え方を変えた。

 宇宙を旅しようと。

 宇宙は広いから、一人くらいあたしの友達になってくれる人がいるのではないかと。

 そう思って新品の宇宙船をもらい、あたしは旅を始めた。




 惑星マイタン、惑星大翠を経て惑星Z3-Jの向かうゲートで現在立ち往生中。

 あたしは暇があると船を改造するのが趣味なんだけど、今回は補助推進装置を設計して作ってみたんだけど、そうしたら船体が大きくなりすぎてしまった。

 ゲートは50mの円なんだけど、そこを通ってワープするためには、管理頭脳に特殊なシステムを起動させなければならない。

 それって容量を食うから、いつもは自動運転なのに、ゲート突入だけは手動で運転しなければならないの。


 いつもは35m級の4コンテナで飛べてるんだけど、いびつな形になったから飛べなくなった。

 補助推進装置を取り外せばいいんだろうけど、一度も使わずに捨てるのは勿体無いし、これ作るのに大翠で有り金を全部使っちゃたし。

 でもこのままだと一生ここにいる羽目になるのかと思うと寂しくて涙が止まらなくて。

 床で泣き崩れていたときにいつのまにかこのお姉さんが現れた。



 航行中の宇宙船だよ?

 いきなり人が現れるわけないじゃん。

 とうとう幻覚が見えたのかと思ったら、彼女は女神だと言って、いきなり海賊論を語りだしたんだけど……。


 どう冷静に考えてもおかしいよね?




「まだ語り足りないところではあるのだけど、この辺でおいとくとして」

 

 まだ語り足りませんか? 

 こっちはさっさと本題に入ってほしいというか、現状を教えてくれませんか?


「いや、大したことじゃないのよ。実際に体験してもらおうと思ってるだけで」


 またおかしなことを言ってる気がする。

 あたし、人付き合いは苦手で、それでも友達が欲しいけど、誰かが自分に話しかけてくるのは騙す目的じゃないかと疑ってるからね、悪い流れってわかるよ。

 何度騙されたと思っているの。

 今きっとそれでしょう。


「気にしすぎよ。私はね、あなたに海賊の才能が眠っていることがわかるのよ」


 海賊?

 冗談でしょう?


「冗談じゃないって、あなたの奥底には宇宙に名を刻む海賊の魂が眠っているのよ」


 なに、それ?

 怖いんですけど。

 海賊の魂もそうだけど、あなたも怖いって。

 本当なら泣きながら逃げたいんだけど、なんでか体が動かない。


「でもね、今のままじゃあなたは海賊どころか、普通のスペースオペラさえままならないでしょう、その性格じゃあ」


 ――うっ!

 あたしだって何とかしたいとは思っているのよ。

 でも怖くて。


「じゃじゃーん! そんなあなたにプレゼント!」


 そういって自称女神はドクロの絵が付いた眼帯を取り出した。


「なんと、この眼帯を装着するとマルチダは海賊ブラッディー・クイーンになっちゃいます」


 何その胡散臭い通販。


「胡散臭くないよ、ほんとにほんと。ただ1時間だけだからね。その後は24時間以上空けてね。そしたまた変身できるから」


 制限時間ありのヒーローもの?

 

「海賊ものです」


 きっぱりというけど、それって大事なことじゃないでしょう?


「大事なことよ、あなたはこれから海賊になるのだから」


 えっと、いやなんですけど。


「大丈夫、楽しいって」


 絶対嘘だ。


「あと友達出来るよ」


 …………、嘘だ。

 嘘でしょう?

 嘘だと言ってよ。


「いやほんとだって」


 いや絶対ないって……言いきれない?

 もしかしたら……。

 いや、でも……。


「まあまあ、一度やってみましょうよ」


 ものすごくにこやかな顔で話しかける。

 この人女神じゃなくて悪魔な気がするんですけど。


「失礼ね、正真正銘の女神です。偉いんだから」


 なんだろう、喋れば喋るほど胡散臭い。


「そんなことより、これから100時間後、そこのゲートから宇宙船が飛んでくるわ。その宇宙船はちょっとやそっとじゃ壊れないし、中の子も人がいいから怒らないから、とりあえず略奪してみなさいよ」


 何その言い分。

 できないって。

 海賊なんて無理だって。

 てか略奪ってとりあえずですむものじゃないでしょう。


「大丈夫よ。100時間後、その眼帯をつけなさい。そうしたら世界が変わるから」


 こんな眼帯で世界が変わるなんて……。


「大丈夫よ、きっとあなたの世界は楽しくなるわ。じゃあ私はいくけど、100時間後絶対よ。ではよいスペースオペラを」


 そういって女神を名乗る女性はかき消えた。

 夢でも見てるんじゃない限り、現実世界でこんなことできないよね。

 ……どうすればいいの?

 

 あとよいスペースオペラって言ってたけど海賊なら悪いスペースオペラじゃないのかな?



午前中にもう1話更新しようと思います

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― 新着の感想 ―
[一言] 開始早々「お ま え か_| ̄|○ il||li」
[一言] 喋れば喋るほど胡散臭い。そんな女神様が素晴らしい!(他人事で有れば)
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