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#76 趣味と祈りと

 マイタンを出港して2日がたった


 どうだ、ポーラ。

 何か困っていることはないか?


「いえ、今のところ特には」

「些細なことでも何かあったら教えてくださいね。簡単に対応できることも多々ありますので。決して我慢だけはしないでください」


 とカグヤがアピールする。

 カグヤからしたら正当の訴えだろうが、あまり過剰になると親切の押し売りになる。

 その案配が難しい。

 俺もいまだに引きこもらせてくれと言っているのにあれやこれやと世話を焼かれている。


「それは世話を焼いているのではなく不摂生を正しているつもりなんですが」


 見解の相違だな。



「……あの、本を探しているんですけれど」


ポーラがカグヤの熱心なアピールに負けたのか、遠慮がちにおずおずと言う。


「どれでしょうか」

「どれというか……どんなというか」


 うつむいて何か言いにくそうにしている。

 ……もしかして俺、いないほうがいいか?


「あの、いえ、なんていうか……」


 ポーラは慌てて否定するも踏ん切りがつかないと感じでいる。


「べつにキャプテンに隠したいというわけではなくて……、恥ずかしいというか、変に思われたらどうしようかというか」

「大丈夫ですよ、ポーラ。船長は存在自体が恥ずかしくて変ですので、他人のことをそう思う資格なんてありませんよ」


 おい。

 もうちょっと言葉を選べ。


「私は事実しか申してません」


 それはお前の主観だろうと。


「ごめんなさい、私のせいでお二人で揉めないでください」


 とポーラが割って入る。

 そこまで揉めてないぞ、この前も言ったろう、いつものことさ。


「そうですね、不本意ながらいつものことです」


 俺らの言葉にポーラはホッとしつつも、決意したように声を振り絞る。


「あの、以前お友達から貸してもらった本の続きや、同じジャンルの本が読みたくて。それが友達曰く、普通のルートでは手に入らないと言われて」


 なんだろう、非売品ってことかな?


「マイタンのコンテンツはすべてあるはずですけどね?」


 カグヤも首をかしげる。


「あの、……その、……男の人同士の……恋愛というか……」


 ああBLか。


「なるほど、それはマイタンでは隠しコンテンツになっていますね。……解除しました。いつでも探せますよ」

「あの……変に思わないのですか?」


 それは趣味趣向だからな。

 俺の星でもそういうの好きな人はたくさんいたぞ。

 日本はそういった文化は多彩だ。

 マイタンのを読みつくしたら日本のも見てみるがいい。

 お気に召すかどうかは別だが数だけは山ほどあるはずだ。


「そうなのですか?」


 オタク文化の一つだ、俺的には珍しいものではない。

 そりゃあ俺に実際やれと言われたら断るが、人が何見てようが気にしないさ。

 俺だって百合物たまに見るぞ。


「ね、言った通りでしょう。船長は変態だって」


 おい、そんなことは言われてないぞ。

 俺らの会話にポーラが心底笑い出し、


「なんかホッとしました」


 そりゃあよかった。




「船長、礼拝堂ができたのでポーラを案内してあげてください」


 おいおいカグヤ、おかしなことを言うな。

 俺に案内できるわけないだろう?

 むしろ俺も案内してほしいくらいだ。


「私もそれくらいは把握しております。ですが船長の威厳を守ろうかと少しは気を使ってみました」


 さっきはディスっておいて今更フォローしようとするなよ。

 ……てか俺も必要かね?


「まあせっかくですから。エスコートしてあげてください」


 まあ少しは動くか。



 さて現在地はイザヨイの先頭コンテナ。

 目的地は最後方のコンテナ。

 移動手段は……ああ徒歩ですか。

 動く床とかないのか?

 俺の問いに白ウサギはコンテナ間の移動は人間の乗務員が急いで移動することはないので、運動のために自力で移動するようにしていると教えてくれる。


 緊急事態は?

 普通は管理頭脳、ここではウサギが対応するし、船が沈むとかいう緊急事態だと近場の救命ポッドにウサギが人間を放り込むという。


 なるほど人間は平和を享受しておけばいいと。

 危機管理が足りない気がするがね。



「わあ、宇宙船にも自然ってできるんですね?」


 案内された庭園は予想以上に植物園といった感じだった。

 遊歩道の脇には色とりどりの花壇や樹木が植えられている。

 噴水やベンチもあり自然公園といった方がしっくりくる感じだ。


 庭園を歩いて奥まで進むと蒼龍教の教会が見える。

 入り口だけという話だが、表面は実際にコンクリート製で建てられている。

 遠目から見たら実際に立っているかのように見える、ただ奥行きがないだけで。


 それはさておき入り口から中に入る。

 不自然に少し長い通路を抜けた先に大きめの礼拝堂が現れる。

 側面のステンドグラスから光が差し込み、前方には祭壇があり大きく立派なドラゴンの像が祀られている。

 観察するとパイプオルガンだの、ドーム型になった天井の模様だの、絨毯だの、燭台だの……。


「ああ、これはなんと立派な」


 ポーラが感嘆の声をあげる。

 教会なんか入ったことがない俺でもなんか立派な気がするもんな。


「キャプテン、少しお祈りをささげてもいいですか?」


 ああ、どうぞ。

 俺はそこの椅子に座っておくよ。


「わかりました」


 ポーラが熱心に作法に従って祈りをささげるのを見ながら、周りを観察する。

 どうでもいいがカグヤ、力入れすぎだろうよ。

 この船を観光名所にでもする気だろうか?


 あとポーラが祈っているのは蒼龍なんだよな。

 いまあいつ、祈られてることも知らず、いつ襲われるかを海中で震えてるのかね?



感想、誤字報告、ブックマーク、評価ありがとうございます。


定型文で申し訳ありませんがいつも感謝しております。


投稿を続けることが一番のお礼になると思っております。

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