#74 ゲートジャンパー
カグヤはなんとかポーラを説得し、礼拝堂を作ることになった。
ポーラは恐縮しまくって小さな簡易的なもので構いませんと言っているが、カグヤのことだ、きっと立派なのを作ってくれることだろう。
「他にも必要な施設があれば遠慮なくいってください。スペースはまだありますし、最悪コンテナを一基増やすことも検討しますから」
「待ってください! 40m級はゲート突入が難しいと聞きます。それをさらにコンテナを増やすとゲート突入が困難になるのでは?」
カグヤが「これが普通の反応ですよ」と言わんがばかりに俺を見る。
もう名前を思い出せないあの海賊のポンコツさんも40m級で突入できなくて右往左往してたのだったかな。
「ポーラ、うちの船長は本当にダメな引きこもりですけど、ゲート突入の才能だけは宇宙一といっても過言ではありません。本当に納得ができないんですが人格と才能は別なんですよ」
お前はちょいちょい俺をディスってくるよな。
「これには3つ理由があります」
聞こうか。
「1つ目。船長の並外れた才能をあまり褒め称えすぎるとポーラが委縮してしまいます。私のような凡人がこんなすごい船長と一緒にいていいのだろうかとか考えてもらっては困ります」
まあ確かにそうだな。
俺自身そんなに大したことがないのにそう思われるのは不本意だ。
「2つ目。ジョークを交えた会話をすることでポーラの緊張を解こうとしています」
ジョークだのユーモアのない職場は息苦しい。
ポーラは特に特殊な状況下でこの船に乗船したからな、その気遣いは正しい。
「ありがとうございます。では3つ目。船長はあまり持ち上げられたり褒め称えられるよりも、こういったジョークで会話をするのが好みだと推測します」
まあ会話のキャッチボールというか、ボケたら突っ込む、いじりいじられるは嫌いじゃない。
まあさっきのディスりも反射的に突っ込んだが、特に腹を立ててるというわけではない。
「船長が納得してくだされば幸いです」
「すみません、私よく理解できなかったんですが?」
まあ俺とカグヤは軽口で言い争いするけど気にするなよってことだ。
聞き流せばいいし、面白かったら遠慮なく笑えばいい。
「はぁ」
ポーラはわかったようなわからないような微妙な顔をする。
まあいずれわかるだろう。
それより何の話だったっけ?
「コンテナ増設計画です」
ああそうだったな。
一基くらい増えたって問題ないのは確かだろうな。
「本当ですか?」
「不本意ながら本当です。今でさえこのサイズを出力60%で突入したのですから」
「――!! そんなありえるのですか? 最高司祭が35m級を一度だけ20%で突入したのが蒼龍教の最高なんですよ」
それってすごいんだっけ?
「35m級でしたら4基が一般的ですが、20%で一流、25%で超一流のゲートジャンパーと言われますね」
ちなみに40m級4基で60%だと?
「比較対象がありませんので何とも言えませんが、私的には変態ゲートジャンパーとか嘘つきゲートジャンパーと表現しますかね」
それはいくらなんでもひどくないか?
「ですがそんな数字、誰も信じませんもの。実際見ても信じられないからマイタンの入国管理局はこのイザヨイが神の使いだと信じたんでしょう?」
宇宙船が特別だと思うほうがまだ信ぴょう性があるのか、悲しいことだ。
「キャプテンは……奇跡のようなお力を持っておいでなのですか?」
奇跡かなぁ?
これって慣れの問題だと思うけどなぁ。
「ですが、神の御使いと思うほどのお力はキャプテン以外になしえないのでしょう?」
俺より操船適正が上の人間はまだ38人くらいいるそうだけどな。
そんなことより、俺がすごいかどうかはまずポーラもやってみてから言いなさい。
「私がですか?」
そうだよ、仕事があるって言ったろう?
宇宙船に乗っている以上、俺にもしものことがあった時にゲートくらい飛べるようになってもらわないといけないからな。
「でも……」
「まあ、そんなに焦らないでください。どのみち上級過程でする訓練をするってだけの話ですよ。まずはシミュレーターで練習しましょう」
といってポーラの座っている副操縦席に俺と同じタイプの操縦システムがでてくる。
使い方をカグヤが説明してポーラが熱心に聞いている。
俺は必要ない気がするが、まあ最初くらいはいるべきだろう。
練習のサイズはどうするんだ?
小さいのからやるより、とりあえずこの船の大きさでやったほうがいいんじゃないのか?
「いきなりですか?」
徐々に大きくするのが楽だろうけど、どうせこの船を動かすんだからこのサイズでやればいいんじゃないか?
ダメなら小さくしたら大きいのに慣れた分、簡単にできるだろうし。
「そういう考え方もあるのですか。ではスペシャリストの意見を採用しましょう。ポーラ、それでとりあえずやってみましょうか」
「はい!」
肩に力が入りまくったポーラが運転をするが、真空に揺られ、それを修正するためにハンドルを動かしさらにぶれる。
2,3回挑戦するがゲートの円にかするが精いっぱいの体たらくだ。
「難しいです」
まあ最初からうまくいくこともないだろうよ。
根を詰めても仕方ないからな、少しずつやりなよ。
「いえ、船長。まずはアドバイスをしてあげてください」
そんなの言われてもな。
慣れとしか言いようがないんだが?
「そのどうやって慣れるかをアドバイスしてくださいと言っているのですよ」
そんなこと言われても数こなすしかないと思うのだが、まあ仕方ない。
「へ? キャプテン、何を」
俺はポーラの席に後ろから近づき、ステアリングを持つポーラの手に俺の手を重ねる。
言っておくがセクハラじゃないぞ。
スタート画面に戻り、ゲートと真空の高低が表示される。
「このままステアリングを固定して動かすな。アクセルを踏め。あと画面をよく見ておけ」
「は、はい」
何も調整せずにまっすぐ進めばゲートの左下を通り過ぎる。
「キャプテン、これは?」
「まっすぐ飛んだら真空の高低差でこれだけズレるわな」
「はい」
「だから最初からある程度、高低差のラインを読んでまっすぐ進めばいい。カグヤ、今の奴をリトライだ」
「了解」
出てきたさっきと同じ画面。
「この高低差で左下に進むのだから最初は右上に進むように位置決めをする」
まあここは俺が調整しよう。
「あとはさっきと同じだ、ステアリングを固定してまっすぐ飛べばいい」
俺はそういってポーラから離れる。
真っ赤になったポーラはふうと大きく息を吸い、
「行きます」
とアクセルを踏む。
「成功しました、おめでとうございます」
「本当ですか!?」
加速もギアをあげるまではいかず、アクセルもべた踏みなど怖くてできない様子なので5%ほどの出力だが、それでも40m級を成功できるのは自信になるだろう。
「しかし実際のゲートは同じ高低差であるとは限りませんし、この方法では成功率が低いのでは?」
「……そうなのですか?」
これはきっかけだよ。
まずはラインを見る練習をすればいい。
同じシミュレーションを何度もトライアンドエラーを繰り返してやってみな、そうするとなんとなくラインが見えてくるよ。
高低差がなんとなくわかればその方向に位置を決め、微調整をすればいいだけだ。
まあつまりは慣れるまで頑張れということだ。
「はい、キャプテン」
素直に頷くポーラ。
「でもポーラ、今日はここまでにしましょう。根を詰めても仕方ありません。効率が悪いですからね。明日から毎日少しずつやっていきましょう」
「そうですか……、いえ、そうですね」
ポーラは一瞬悩んだがカグヤの提案に従う。
「ところでキャプテンはどのくらいで慣れたんですか?」
学生の時、ゴルフゲームにはまってたことがあって、必死で練習したからなぁ。
どのくらいと言われてもなかなか表現しづらいが、ゲームは一日一時間と言われた世代です。
守りはしなかったけどな。
本日も誤字報告ありがとうございます。
なかなか減らないものですねl。
ブックマーク並びに評価ありがとうございます、
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