#73 イザヨイ改装計画
「ポーラ、部屋のほうはどうだ?」
「間取りは違いますが、だいたい寄宿舎と同じ大きさだと思います。設備も新しいですし、慣れれば快適かと思います」
寝室が寮の一室の俺とは違い、リビング込みで同じ大きさだという。
マイタンの寄宿舎がでかいのか、クズノミヤの寮が狭いのか……まあ後者だろう。
「強いていうなら寄宿舎には各階に共同のキッチンがあったのですが」
部屋から共同スペースにはつながっており、そこには小さなキッチンもあったのだという。
もっとも食堂で料理が出るのであえて使う必要もないのだが、お茶を作ったり、ちょっとしたものを温めたりするのに使っていたそうだ。
「宇宙船ですので、各部屋で熱源を持つと危険性が増しますのでキッチンは無理なのですが、リビングにはお茶くらいなら作れる湯沸かしポットと茶器はありますので。あとキッチンは食堂のスペースを使ってもらえれば。食材も自由に使ってもらって結構ですので」
ただ近くに有ったほうが気が休まるというのであれば別の部屋を用意するという。
本来俺がすむ予定だった船長室はさらに広く一部屋多いのでそこをキッチンに改造してもいいし、サブユニットの居住区はまだ未改装なので改造もできるという。
「いえ、強いて言えばというレベルですので。特に問題はないかと。ただ、キッチンは使わせてもらうかもしれませんが」
まあそれは構わないだろう。
ピンクウサギを使えばいいさ。
「厨房も広いですからね。一人増えたくらいでは船長の食事の邪魔にもなりませんし」
まあ俺は最悪2,3日は非常食でもいいんだがな。
むしろ俺の知ってる宇宙食はフリーズドライのものやパテみたいなもので水分のなさそうなものだったが、イザヨイの常備されているのはどんなもんなのだろう?
「どんなものと言われましても、船長の星で言うところの缶詰とかインスタント、レトルトに近いですかね。インスタントはボタン押すだけでお湯まで注がれますし、レトルトも温まります」
駅弁にひもを引っ張ると加熱する奴があったがそれの宇宙版なのだろうか?
「非常食と言っても基本は生命維持装置は最優先されますので食事が提供できなくなることなど考えられませんし、食材がなくなることもまず考えられないので、それを食べるときって、もう私が壊れて船も沈む寸前だと思いますよ」
それはもう非常食ではなく最後の晩餐レベルでは?
「私的にはそういう覚悟で皆様の生命を最優先しております」
それはありがたいが、個人的にレトルトとかインスタントって生前の主食でもあるので少しどんなものか興味がある。
カグヤの覚悟やピンクに悪いのだが一度どんなものか食べさせてもらえれば。
「まあ食べていただく分にはかまいませんよ。いつでも言ってください。ただ味は保証しませんよ? いまだしている食事は日本人向けですけれど、非常食はそういう調整されてませんので」
なるほど、そういわれると怖いが、まあ何事も経験だろう。
「さてポーラ、話は変わりますが、この船には礼拝堂がありません。建設するのにあたってあなたの意見が聞きたいのですが」
「ええ! 礼拝堂ですか?」
カグヤの提案にポーラは目を丸くする。
「わざわざ作っていただかなくても。先生が荷物の中に小さいですが龍像を持たせてくれています。リビングに飾らさせていただいてますのでお祈りはそこで十分に」
「もちろんお部屋でお祈りする分にはそれで構いませんが、特別な日や大切な日に大きいところで正式にお祈りをすることもあるでしょう? そういうときの場所を作りたいのです」
「えっ、……でも……」
ポーラが俺に助けを求めるような目で見る。
せっかくの好意だから甘えてくれたらいいぞ。
まだ空間は十分にあるからな。
……むしろ俺を助けると思って礼拝堂を作ってくれないかな?
「助ける……ですか?」
俺は部屋に引きこもっておけば幸せな人種なんだが、最初イザヨイの施設の数でカグヤと揉めてな。
とりあえず俺には必要のない空間が山ほどあるから使ってもらえれば。
無駄な空間より何か使っているほうがいいからな。
「キャプテンが……そうおっしゃるのであれば」
ポーラが渋々折れると、カグヤが画面に礼拝堂の候補場所と礼拝堂の見取り図の例を表示する。
「大きさで言うと倉庫区画が広いのですが、場所的には庭園の片隅がいいのかなと思います。ただ若干入り口が狭くなるかなと」
なんかうれしそうだな、カグヤ。
てか庭園なんかあったんだ?
「サブユニットのコンサート会場とダンスホールをつぶして作ったんですよ。船長が地上に降りてくれないから、もしもの時にと自然に触れあえる場所を」
責めるように見るカグヤを無視して、俺も庭園の映像を見る。
ここだと礼拝堂を立てる高さがないのではないか?
「入り口だけ作ろうかと思います。ここって隣の倉庫コンテナと隣接してますので連結部を通路にして倉庫側に礼拝堂と」
庭園側には入り口と教会風の映像を投影すれば疑似的に庭園にある礼拝堂に見えるらしい。
「……詳しくはわからないのですが物凄く手間がかかることではないでしょうか?」
ポーラが顔を青くする。
気持ちはわかる、自分一人の施設にこんな手間暇かけられたら恐縮するよな。
俺もそうだったから気持ちはわかる。
でもまあ一つくらいは君のために作らせてくれ。
俺らからのプレゼントでもあるし、これは蒼龍からのプレゼントでもある。
「蒼龍様の?」
「そうです。ポーラをいきなり準備もなく宇宙に送り出したので、できるだけのことはしてやってくれといわれています」
俺の方便にカグヤが乗ってきた。
「もちろんそのお代もいただいておりますのでご安心ください」
……そうなのか?
「はい、惑星マイタンのコンテンツをすべて提供していただきました」
これも向こうから自主的にくれたのと、こちらが強奪したのでは意味合いが変わるよなあ
いつも誤字報告・ブックマーク・評価ありがとうございます。
この土日で少しでもストックが溜まるように頑張ります。