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#70 中・長期展望

 ん、どうした、ピンク?

 お茶を用意しようかと。

 じゃあ俺はコーヒーでいいが、ポーラは何にする?


「えっと……じゃあ同じもので」

「お茶もマイタンと同じものがありますのでなんでも言ってください。マイタンではハーブティが一般的と聞いています。それなりの種類がありますよ」


 そういってメニューが表示されたタブレットを受け取ったポーラが目を真ん丸くする。

 ああ、わかるよ。

 カグヤのいう「それなりの種類」ってめちゃくちゃあるよな。


「……ルイボスティーをお願いします」


 と言った後もずっとタブレットを見ている。

 物珍しいのがあったのだろうか?

 まあ時間はたっぷりあるさ、ゆっくり試せばいいよ。



「……私はこれからどうすればいいんでしょうか?」


 お茶を飲み、一息ついてぽつりとつぶやく。

 

「いきなりこんなことになり不安でしょう。生活の面では何不自由ないように手配しますのでなんでもおっしゃってください」


 カグヤが一番心配しているのはメンタルヘルスだ。

 確かにここで、前向きに生きていけるほど図太そうには見えないな。


「長期的、中期的、短期的な話をしようか。まずは長期的。50年を一つの目途としよう」

「50年というと、蒼龍様の話のやつでしょうか?」

「そうだ。50年後に一度ここに戻ってこよう」


 その時にこの惑星がどういう選択をし、どうなるのかを確認してから身の振り方を考えればいい。


 蒼龍教が昔のように清く正しい宗教になっている可能性。

 マイタンの民が蒼龍を滅ぼし、蒼龍教がなくなる可能性。

 どちらも選択できず、蒼龍に浄化される可能性。

 他にも可能性があるかもしれないが、上記3つの場合にマイタンに戻るか戻らないか決めればいい。


「中期的としては、当面の方向性としては俺と一緒にイザヨイで旅をしよう」


 50年後のことはさておくとしても、旅をして見聞を広げてみよう。

 いろんな星に行くということは、その数以上に知らないことに出会うことだろう。

 時には驚き、時には眉をひそめる、そんな常識に出会うだろう。


 でもまあそんなもんだよ、人間ってのは。

 教会の片隅で100年祈るより10年旅してみな、人間がどんなものか遥かにわかるさ。

 でもって人間がどんな生き物かわからないと、どうやったら救えるとか説教のやり方とかなんて見当もつかないだろう?

 蒼龍教の巫女なら、まあいい経験だと思うぞ。


 もっともその間に他の惑星が気に入ってそこに移住したければしてもいい。

 自分一人で旅がしたければ宇宙船を用意しよう。

 数年後にやっぱり故郷に戻りたいというならそれもよしだ。


 選択肢なんていくらでもあるさ。

 ゆっくり考えればいい。

 まあもちろん、この船にはお客さんというわけではなく船員として搭乗してもらうから少しは働いてもらう気ではいるがね。


「働くことは喜んでさせていただきます。……でもキャプテンは不思議な方ですね。失礼ですがおいくつでしょうか?」


 42歳、厄年です。


「厄年の意味はわかりませんが……42歳ですか。そんなにお若いのに蒼龍教の名誉司祭様と似たお言葉をおっしゃいますね」


 蒼龍教では150歳になると教団の運営からは外れることになる。

 いわば定年のようなものらしい。

 その中でも最高司祭を経験した高僧は名誉司祭と呼ばれる。

 運営には参加できない名誉職だが、不老のおかげで体がまだまだ普通に動くので、その豊富な人生経験で年若い信者に説法をしているそうだ。

 

「蒼龍様に一心に祈りをささげることは修行である。それ以上に修行になるのは一生懸命に日々生きることだ。笑いなさい。怒りなさい。泣きなさい。考えなさい。その一つ一つが皆の糧となるだろう。経験こそが財産です」


 ポーラが幼いころに学校の講演会で聞いたその言葉はひどく印象に残ったのだという。

 その名誉司祭は120歳を過ぎたころから子供に甘くなり、教義以外のことを説法すると大人からは不人気なのだが子供には絶大な人気があったそうだ。

 ポーラも例外ではなく慕っていた。


「辛いこと、苦しむことだけが修行ではないと教えてくださいました」


 てか蒼龍教は幼いころから辛いことや苦しいことをさせる教義なのか?

 そんなことをしていたら人格形成に問題が起こるんじゃないのか?


「そこまで極端ではないと思いますが、規律とか習慣とか行事とか……何の意味があるのかということは多々ありました。今の最高司祭が最年少で就任してからは厳しくなったと言われています。いずれ宇宙で修行するためには必要なことだと」


 50歳で最高司祭になり改革を行ったそうだ。

 ちょうどポーラの世代がその割を食らった模様だ。


「自分のような神に選ばれたものでも宇宙は艱難辛苦の連続だった。そこで私は思うのだ。心を鬼にしてでもこの改革をおこなわなければならない。次の世代が宇宙に行く際に苦労しないように若いころから鍛えておかねばならない。これは今はわかってもらえないだろうが親心なのだ」


 というのが最高司祭の弁。

 自分のことを神に選ばれたという人間というやつを信じるなんてどうかしてるぞ。

 あと課外授業での息子の話を聞く限り、他人をいじめて楽しんでるだけじゃないかと思うがな。


「私も実際息子さんと接した後なのでキャプテンのお言葉を否定しづらいのですが……。それはさておき最高司祭よりもお若いのに名誉司祭のようにお言葉に深みがあると思いまして」


 深かったかな?

 俺の言葉を深いと思うほどこの子は、いや蒼龍教は浅いのかもしれない。

 働かなくてもいい平和な世界で穏やかに祈っていて得られる経験値は低いのかもしれないな。

 だから宇宙が過酷に感じ、最高司祭のようになるのかなと。


「……俺は宇宙歴は少ないがそれまでそこより過酷なとこに20年いたせいかね」

「宇宙よりも過酷な場所などあるのですか?」


 あるよ、地球という星の日本という国にはね。



70話です(番外編を入れれば71話ですが)

場合によってはこの辺で締めようかと思っていましたが、先週から激増したPV数、ブックマーク数、評価のおかげでやる気が出ています。


ランキングも1週間ジャンル別で上位で総合のほうにも載っているのでとてもうれしいです。

皆様のおかげです。

ありがとうございます。

これからも応援していただけると嬉しいです。



のちほど今後の予定を活動報告に書いておきます。

興味のある方はご覧ください。

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