#69 自己紹介
「改めまして、ポーラ・アラカルトと申します。これからお世話になります。どうぞ私のことはポーラとお呼びください」
いきなり艦橋はどうかと思い、喫茶室に案内した。
「どうも、日下部晃だ。で、こっちがこの船の管理頭脳カグヤ」
「初めましてポーラ。カグヤです。なにかありましたら遠慮なく言ってくださいね」
立体映像ではなくモニター越しに挨拶をする。
「え? 管理頭脳なんですか? 人間そっくりですけど?」
「ええ、管理頭脳です」
一般的な管理頭脳はウサギたちレベルで、ここまで流暢に表情まで作って会話できる管理頭脳などは基本的に存在しない。
さてポーラを招くにあたってカグヤと議論をしたのはどこまで話すかである。
正直にカグヤがドラゴンであるなどというと、ドラゴンを信仰する人間が他の星のドラゴンだからといって普通に接することができるだろうか?
「拝まれるなんて嫌ですよ。そんな悪趣味は蒼龍くらいですよ」
カグヤの意見は尊重すべきだろう。
俺も普通に会話している横で拝まれるのは見たくはないしな。
「最初にこれだけは話しておこうと思う。俺も君と同じでね」
「同じ……ですか?」
「そうだ。俺は地球という星の出身でね。ある時、神様に宇宙へ出るように言われたのさ。その時にもらったのがこの宇宙船イザヨイと管理頭脳カグヤ。神様からもらった管理頭脳だから普通の管理頭脳よりはるかに性能がいいってわけだ」
カグヤが何やら訴えるような目で俺を見る。
何一つ嘘をつかないで、ドラゴンという単語を隠しているだけであら不思議。
俺とポーラは概要だけで見るとまったく同じになりました。
「日下部さまも神様の啓示を受けたのですか!」
啓示ではなかった気がするが。
とはいえポーラにとっては神=蒼龍だから、俺の神もドラゴンと誤解していることだろう。
その神からもらった管理頭脳と言えばドラゴン以下の存在となり、カグヤを拝むことはないだろうという寸法だ。
嘘はついてないぞ、ただポーラが誤解するように言っただけで。
「まあ似た者同士だ、そんなかしこまらずに気楽にしてくれればいいよ」
あと「さま」づけで呼ばないでほしいな。
「ではキャプテンとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
それは構わないけど。
「初めてお会いした時にキャプテン・ギルバートに似ていると思ったもので」
照れたように言うポーラ。
てか誰だよ、それ。
「惑星マイタンの偉人ですね。船乗りの代名詞です」
カグヤがそう言って写真を出してくれる。
厳ついおっさんが出てくるが、俺のような貧相な優男と似ても似つかないだろうよ。
「目元とか額の皺がそっくりです」
「……老化した人を見たことないと、似たように感じるのではないでしょうか?」
俺も外人がよく似た感じに見えるから人のことは言えない。
まあおっさんというくくりでは同じだからな、まあなんでもいいさ。
そのキャプテンと同じことを求めないでくれれば。
「はい、それは大丈夫です」
蒼龍教は戒律で魚を食べてはいけないというのは聞いたが、他にも何か戒律があったら遠慮なく言ってくれ。
別に信仰を邪魔する気はないからな。
ただ蒼龍教に俺が改宗することはないことだけは今のうちに言っておくので勧誘しないでくれ。
「無理に勧誘する気はありません。キャプテンは啓示を受けた私の知らない神の信者なのでしょう?」
……なるほど、考えてもみなかったがそういう考えもあるのか。
今まで宗教なんて一応仏教徒だよなと思っていたくらいだ。
日本の宗教は適当なもんだしなあ。
俺自身、特に神も仏もないもんだと生きてきたんだが、女神さまを実際に見てしまった以上その神を信じるべきなのだろうか?
……あんなのをか?
「違うのですか?」
答えに窮する。
「いままで信じていなかった神に呼ばれたものだから、信じていいものかどうかを……悩んでいる……という感じで」
「……何やら複雑なのですね」
君のところとちがって、俺のところは神様や宗教がたくさんあって信仰の自由があったもんでね。
「そういうのがあるとは他星の文化を学ぶ授業で教わりましたが、祈るべき神がたくさんいるのって、人と違う神様を祈るのって不安じゃないのですか?」
そもそも神に打算もなく祈るという行為をしたことがないので、その問いには答えがたいな。
「そうですか。他の星は難しいのですね」
星が変われば歴史も文化もまるっきり違うからな。
自分が正しいと思わずにそんな考え方もあるのか、という感じでいたほうがいいぞ。
異文化コミュニケーションは相手の常識を否定してはいけない。
場合によっては喧嘩を売ることになるからな。
「そうですね。先ほどの戒律の件もそうですが、蒼龍教では魚を食べるだけでこんなことになるのに、他所の星では問題なく普通に食べているのですものね。宇宙って不思議ですよね」
今回のポーラの件はかなり特殊な事例だと思うがな。
誤字報告、感想ありがとうございます。