#68 ドラゴンと宗教と巫女と魚を巡る狂騒曲 11
女神さまは俺ににこやかに手を振りながら、
「久しぶりー、スペースオペラ、楽しんでる?」
今おたくの駄ドラゴンのせいでぐちゃぐちゃですよ。
こんなのの話を聞けってちょっとひどくないですかね?
「いや~、私もここまでこじれるって予想外。さすがね、晃くん。ナイス スペースオペラ!」
なにそれ?
グッジョブ的な意味ですかね?
しかもこれって褒められてるの?
こじれたほうがいいの?
「出てくる気はなかったんだけど、けしかけた私にもほんのすこーし責任あるかなって思ってきちゃいました」
自覚持ってください、あなたが元凶です。
てかカグヤ、蒼龍、お前らも何か言えよ……無理?
なんでよ?
創造主には逆らえない。
頼りない連中だな。
「まあまあ、そう言わずに。普通は蒼龍のところの子みたいにひれ伏される存在なんですよ、私って」
自分で言われても。
俺まったくそんな気ないんだけど?
……まあいいや、何とかしてくれるの?
「モチのロンです!」
そういって女神さまはどこからかマイクを取り出した。
『聞け! マイタンの民よ!』
女神さまがしゃべると画面の惑星マイタンの山の横に浮いてる蒼龍がしゃべりだす。
ちなみに本体の蒼龍は画面で口をあんぐりとあけて茫然自失の体だ。
ああ、蒼龍の声で何か言う気なのな、そりゃあ蒼龍は気が気ではないだろう。
『我が愛した我を純粋に信仰するかつての民は死に、残ったのは信仰を食い物にする悪しき宗教のみだ。本来なら一度浄化すべきところだが、それでも汝らは我が愛したマイタンの末裔。一度だけチャンスをやろう。2つの選択肢を用意する。1つ、50年の間に蒼龍教をかつての清く美しい宗教に戻すこと』
一瞬簡単な感じがしたが、よく考えると定義があいまいだな。
何をどうしたら清くて美しい宗教だと言えるのだろうか?
正解が見えない、そもそも正解がない問いではなかろうか?
『2つ。50年以内に我を滅ぼすことだ』
ああ、こっちはわかりやすいな。
ヘタレ蒼龍と戦えばいい。
『どちらでもかまわない、だがどちらもなしえなかった場合はこの星は浄化されることだろう。我は海底神殿にて汝らの決断を見ている。戦うというならいつでもやってくるがよい』
そういうと女神さまはマイクを片づける。
同時にマイタンに浮かんでいる蒼龍と電波ジャックが終了する。
『創造主! これはあんまりでは!』
蒼龍が非難の声をあげる。
「いやでもね、蒼龍。私は晃君に相談しなさいって言ったけど、丸投げすればいいとは言ってないのよ」
『そ、それは……その通りですが』
「でもって晃君と約束したんでしょう? 1000人以上殺して星に100年以上修復するのにかかるダメージを与えるって」
『……はい』
「でもって約束を破っておいて駄々こねるってのは、ちょっと違うかな? って思うのよ」
そこはちょっとじゃないと思うんですがね。
約束は守る、信頼関係を築く上で大事なことだと思うのですよ。
それが初対面ならなおさら。
「それは私も同意するわ。ただ、どうしてドラゴンシステムがこんな思考するのかなって不思議で」
蒼龍だけがおかしいのか?
「他のドラゴンを全部を詳しく把握しているわけではないから一概には言えないけど、蒼龍の場合、人間に逆らわれたことがなかったから、逆らわれた、無理難題を言われたことで思考にゆがみが生じた可能性が一番高いのかなと」
……俺のせいだと?
「そうとも言えるし、蒼龍に逆らわなかったマイタンの民のせいともいえる。宇宙にはこういう星があってもいいと思っているんだけど、こういうドラゴンは困るかなと思って、少し調整しようと」
で、いまさら人間と戦えと?
「人間に歯向かわれて叩かれたら少しは頭のネジが締まるかなと」
叩いて直すって昭和の家電かよ。
……でも考えてみたら昭和製より古いのか?
じゃあ叩いてみるのが正解か?
「確かにそんなレベルでなく古いですが、家電扱いしないでいただきたいのですが」
カグヤが非難の声をあげる。
まあ確かに問題もある。
負けたらどうするんだ?
「まあ滅ぶわけでもないし、1000年くらいで修復するからその間にもうちょっとましになるんじゃないかな?」
1000年もかける割に適当だな。
「ということで蒼龍、あなたは今後50年、海底神殿に拘束します。戦うなり滅びるなり、あなたの好きな選択をしなさい」
『――創造し』
最後まで言わさずに指をパチンとならすと蒼龍の画面が消える。
きっと海底神殿とやらに行ったのだろう。
どこにあるのか知らんが、さらばだ、蒼龍。
「と、これで蒼龍にも代償を負わせたってことにしてくれるかな?」
つまりポーラを引き受けろと?
「そういうこと」
いや、笑顔で言われても。
でも蒼龍教の信者が蒼龍に歯向かわないで改心する可能性もあるよな。
その場合は意味がないんじゃないか?
「そうでもないわよ。これで蒼龍教が清く正しく美しくなったかなんて誰も証明できないんだから、蒼龍と戦おうという火種はずっと燻る。人間誰だって浄化されたくないでしょう? 蒼龍はこれから50年来るかもしれないとおびえ続けるのよ。それなりの代償だと思うけど」
俺に得はないが、カグヤ、ドラゴン的にはこの結末を見て、今後俺に何か頼もうってドラゴンが現れると思うか?
「私はこんな藪蛇を初めてみましたよ。他のドラゴンも同じかと思います。蒼龍みたいになると思ったら誰も船長に話しかけませんよ」
絶望的な顔をしているが気のせいだろう。
まあそれならあと問題は1点だな。
「まだ何かある?」
「ポーラへの意思確認。あの子にだって選ぶ権利はあるだろう?」
ここまでポーラには選択肢はなかった。
特に悪いことをしてないのにこんな目にあい、挙句いきなり宇宙に行けと言われたら不憫だろうよ。
せめて選択はさせてやるべきだ。
宇宙に行かない権利。
宇宙が嫌になったらいつでも帰って来れる権利。
とりあえず俺に同行してもらうが、いつかは別れて一人で宇宙を旅する権利って具合にな。
「私あなたのそういうとこ好きよ。もちろんポーラには権利があるわ。50年と言わずに何年でもあなたたちとイザヨイで旅する権利だって」
あえて言わなかったんだがな。
「じゃあ、そういうことで後はよろしく。よいスペースオペラを」
いつも思うが、やる気の出ないさよならの挨拶だな。
じゃあ、カグヤ、とりあえず入国管理局につないでくれるか?
今度は素直に話を聞いてくれるだろうよ。
さてカグヤ。
出迎えに行こうと思うんだが。
「……船長、どこかお加減が悪いのですか?」
なんだよ、引きこもりが動くからってひどい言い方だな。
「自覚があるならいいんですが」
最初くらいはな。
新入社員もそうだが、初めての体験、場所で不安になっているもんだよ。
そんな子を相手にするのが生前の俺の仕事でもあったんだよ。
「それは立派なことです」
ただひとつ問題があってな。
「なんでしょう?」
俺、女神さまに、この船にいきなり転送されたもんだから、搭乗口がどこかわからない。
「……白ウサギを呼んで案内させます」
これにて「ドラゴンと宗教と巫女と魚を巡る狂騒曲」編、完となります。
いかがだったでしょうか?
楽しんでもらえたら幸いです。
密航少女編から話がつながっていましたので明日からはしばらく日常編を書こうと思います。
誤字報告ありがとうございます。
あまりの多さに恥ずかしいです。
感想、返事は書けませんが読んでいます。
ありがとうございます。
ブックマーク、評価もすごい勢いであがっています。
本当にありがとうございます。
これからもご贔屓ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。