#67 ドラゴンと宗教と巫女と魚を巡る狂騒曲 10
「では船長。くれぐれもゲート突入速度は60%でお願いします」
「了解」
現在大翠からマイタンに向かうゲート。
ゲートアウトからマイタンまでは通常航行で6日ほどだが、1500秒のオーバーブーストでちょうどつくらしい。
本来ならそんなことをすれば目立つので避けるべきところだが、今回にいたっては目立つことが目的だ。
むしろ60%で突入することを当たり前のように求められているのでカグヤも少しは慣れてきたのだろう。
まあそれほど難しい作業でもない。
あっさりと成功し、ゲートアウト。
さてまだ俺の仕事は終わらない。
「こちら宇宙船イザヨイ、惑星マイタン入国管理局、通信願います」
「こちら惑星マイタン、入国管理局です」
少し遅れて返事が返ってくる。
ここの職員は教団が運営しているのか担当者は白い法衣を着ている。
「現在1500秒のオーバーブーストでそちらに向かっております。もうじきつくので早急に入港許可願います」
「え? 1500秒? 何言ってるんですか?」
担当者は困惑している。
まあそれはそうだろう。
どうにもあり得ない数字らしいしな。
俺はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「私は惑星ワイズの紅龍様に仕える大神官です。私は我が神、紅龍様の使命を帯びております。そちらの神、蒼龍様とは盟友の間柄で、この度蒼龍様の願いを聞き届けるために参上いたしました」
「……あなたはいったい何を言っているんですか? 惑星ワイズも紅龍様も聞いたことがありません。蒼龍様を騙るとは不敬でありますよ」
困惑はしつつも、自分の神が出されると看過できないのか反論する。
「蒼龍様はこうおっしゃいました。ポーラ・アラカルトを宇宙に連れて行って欲しいと。我が神、紅龍様はそれを了承いたしました。ゆえに私が使者としてやって参りました」
「冗談はやめなさい! なぜポーラのことを知っているのかは知りませんが、蒼龍様を騙るとは許されませんよ!」
まあお怒りはもっともなんですがね。
「なぜ冗談だと? 神官たるもの神に仕え、神の言葉に耳を傾け、神の使命に従うのが務め。蒼龍様の民はそうではないのですか? 神のお言葉を疑いになるのですか?」
「蒼龍様に紅龍という盟友がいるとは聞いたことがない。他の星にそのような神がいるなどと聞いたことがない!」
「ああ、嘆かわしい!」
俺は大きな身振りをする。
いや、本当は嫌なんだよ、こういうの。
「蒼龍の信徒はまだそのレベルなのですね。神の声を聴けないとは。ですが恥ずることはありません。正しく教えを守り、一心に祈りを捧げればいずれ神のお言葉が聞こえることでしょう」
「ふざけるのもいい加減にしろ!」
いや、そうは言うけど、ふざけるのも意外と面倒くさいぞ。
あと我に返ると恥ずかしくなるし。
「私のどこがふざけていると?」
「すべてにおいてだ!」
「失敬な。ではなぜ、私が現在なおもオーバーブースト中なのか説明してください。普通のゲートアウトのオーバーブーストは100秒前後が平均のはずです。1500秒もオーバーブーストするなどいかほどの速度でゲートに突入する必要があるかわかりますか?」
「――!!」
「そんな速度出せるわけがありません。でも出せる方法がある。なぜならこれは我が神、紅龍様より賜った宇宙船なのだからです!」
「ば、馬鹿なことを!」
本当にバカなこと言ってますが。
「では他に1500秒オーバーブーストする方法を教えてください」
俺の問いに担当者は黙りこくる。
いや、普通に40m級で60%で飛び込んだだけですけど。
とはいえ、まあ俺が彼を説得する必要はない。
単なるアリバイ作りだ。
「ああ、そろそろ始まるようですよ。蒼龍様が降臨なさいます」
「――?」
『その判決に異議を唱える!』
画面が切り替わり、蒼龍が現れる。
いま惑星マイタンではすべてのモニターに蒼龍が映っている。
そしてセント・レーニアという山にも立体映像が映し出されている。
まずポーラを助ける際に蒼龍が降臨するという儀式をすることを提案した。
このまま単にポーラを逃がしてたら彼女は罪人のままである。
まずは冤罪を晴らすことが先決だろう。
でなければ彼女の心にしこりが残るはずだ。
加えて元凶を断罪すべきである。
こんなバカげたことを言いだすのがトップで一体何の理があるというのだ。
この際、徹底的に改革をすべきだと思う。
そこでイザヨイ内の画面が4画面になる。
裁判所の映像、蒼龍の立体映像、カグヤ、蒼龍本体である。
「ところで船長。私が紅龍なんですか?」
他に誰がいると?
「どうやったら、そうわけのわからない設定を作り出せるのですか?」
日ごろ引きこもってアニメや漫画、ラノベに興じてるからかな。
「それでよくもまあ他人を煙に巻けるもんですね。人としてタチが悪すぎですよ」
それはさておき無風の宗教裁判に起きた嵐は勢力を拡大中だ。
しかし本当に信者ひれ伏してるな。
本物だって疑ってないのか?
「腰を抜かしている信者も多数いますが、大体信じてるみたいですねぇ。いたずらにしては手が込んでますし」
一人くらい口答えしないものかね?
「ほら、最高司祭がしそうですよ」
いきなり被告になった最高司祭が反論しようとし、
『我に口答えするのか!!』
蒼龍に一喝される。
その蒼龍の言葉に呼応して噴火が起きる。
何の兆候もなくいきなり噴火させることができるとは、この星を管理するドラゴンってのはすごいね。
高い山から黙々と上がる黒煙、不謹慎だがまるで花火のように吹き出るマグマ。
山肌を流れ下っていくのだが、……規模が小さくないか?
「誰もいない地区なので人的被害はありませんね。家畜と工場地帯が全壊というところですが。これからの火山灰の量にもよりますが、復興に5年というところでしょうか?」
『いやもっとかかるはずだ!』
蒼龍が否定する。
ちなみに現在、イザヨイで俺らと話しつつ、地上で信者と話している。
さすがはドラゴン、それくらいは余裕なのだろう。
『近隣には農場だってある。火山灰が降り積もって収穫はできないし、しばらくは日照不足で満足に育たない』
『それを踏まえても5年でしょう。こういった自然災害を考えて農場は一ヶ所に集中させませんし、備蓄だってあります』
まあ人的被害がなく、復興も管理頭脳任せなら5年も経てば噴火の事なんか忘れそうだな。
人間の記憶なんてそんなもんだ。
『黙れ!』
裁判所の蒼龍の声に呼応して先程よりも大きめな噴火が起こる。
「この土地が10年使えなくなりましたかね。今の状態に戻るまでに30年ってとこでしょうか」
『いやこれからも火山灰が降り注ぐから50年以上はかかるはずだ』
まあどのみち話が違わないか?
俺はお前にも代償を求めたよな?
『50年以上、マイタンの民が苦しむことになるんだぞ』
俺は数百年お前が苦労しろと言ったんだよ。
話をすり替えるな。
『我だって同じことだ』
人的被害ゼロでよく偉そうに言えるな。
カグヤ、方向転換だ。
『待て、お前には人情がないのか? ここまでさせておいて知らんぷりとはひどいだろう!』
お前には約束を守るという概念がないのか?
確かに俺に何のかかわりのない星だといっても、住人が無駄に死んだり、苦しむことは本意ではない。
そこまで俺も悪党ではない。
きっと後味も悪いことだろう。
ただ今回の場合は教義を悪用して、一人を見捨てるだけの裁判に異を唱えたのは他ならぬこの星の神である。
そしてその少女を見捨ててもいいと思ったのはその星の住人である。
なら被害なしの天罰に何の意味があろうか?
そう考えての俺の提案だ。
俺はお前が俺の提案に乗るというから来たんだ。
それなのにやるのは中途半端。
騙したお前が悪い。
この星に来てさえしてくれれば後はなんとかなるとでも思ったのか?
そうは問屋がおろさない。
ここで中途半端に譲歩したら他のドラゴンになめられるからな。
俺はマジでお前もポーラも見捨てる。
『いや待て、少し話を聞いてくれ!』
聞く価値がどこにあるというんだ。
交渉終了だ。
『いや、だから……』
「まあまあ、少し落ち着きなさいって」
といきなり割り込んできたのが、
「創造主!」
画面が5分割され、中央にすべての元凶の女神さまが現れる。
感想、誤字報告ありがとうございます。
ブックマークのほうが今朝の活動報告で1000を越していましたと書いたのですが今見たらさらに100増えていました。
100超えるどころか50も遠かった人間ですので半日で100増えることに驚いています。
ブックマークしてくださったからありがとうございます。
累計総PVも30万を突破してランキングにのる効果を実感しております。
HPやTwitterでも紹介してくださっている方がいるようでありがとうございます。
仕事も少し落ち着きまして、年内は何とか毎日更新できるかなと思っていますので、引き続き応援してください。