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#65 ポーラ・アラカルト 2

今回も視点はポーラです



 緊急用に渡された管理頭脳で慌てて連絡を取ると、この嵐で船が出せないと言われました。

 食糧がないことを告げると1食くらい食べないのも修行になると。

 危ないからテントから外に出ずに、じっとしておくようにと言われました。


 嵐だとテントなんか吹き飛ぶのではと不安でしたが、管理頭脳によると最新式は嵐ぐらいではびくともしないのだそうです。

 無人島だからと、もしものことを考えて最新式を用意したのが功を奏したそうですが、それなら食糧も何とかしてほしかったです。


 とはいえ朝食に食べるものはなく、もともと昼食は帰りの船を降りた後にいただく予定でしたので、明日のいつ頃迎えが来るかわかりませんが3食抜きは確実です。


 私にいたっては4食です。


 最高司祭のお子様以外の子たちも昨晩の食事の量も少なく空腹の極みです。

 お昼に差し掛かるころには1人はまだ体力があるのかわがままを言っていますが、他の子たちはぐったりしています。

 相手にされないと暴れだすので私が頑張ってなだめていました。


 そうこうしていると5年生の子の様子がおかしくなりました。

 管理頭脳に診断してもらうと飢餓によるストレスと診断されました。

 ただそれはその子だけではなく、他の子にもその兆候が見られるといいます。


 そうなると嵐で危ないからといって、じっとしているわけにはいきません。

 管理頭脳の警告を無視して私はテントからでて、風雨の激しい中、食糧を探しに行きました。

 

 果物でも貝でもないものかと必死で探し回りました。

 ほうぼう歩き回って、やっと見つけたのが嵐のせいか波打ち際に投げ出されたお魚でした。


 蒼龍教は湖や川の魚はいいのですが、海の魚は食べることを禁じられています。

 蒼龍様の眷属だからです。


 そんな魚が今私の目の前に7人がお腹いっぱい食べれる量があります。



 これは蒼龍様の苦しむ我らへのご慈悲でしょうか?

 はたまた私の信仰を試しているのでしょうか?



 私だけならいくらでも我慢しましょう。

 ですがまだ年少な子たちが苦しむのは私には無理です。

 どうかご慈悲であってください。

 信仰を試しているのであるというなら、罰するのは私だけにしてください。


 私は覚悟を決め、魚を持って帰り調理しました。

 調味料も残りは塩しかありませんでしたので、さばいて塩焼きにしました。

 

 そしてみんなには川に打ち上げられていた魚だと嘘をつきました。

 

 上の子たちは気が付いていたようですが、私が責任を取るからと小声で言うと食べてくれました。


 最高司祭のお子様は何も気にもせず我先に食べていましたが、量はあるので助かりました。

 調子の悪くなった下の子にゆっくりと食べさせてあげながら、私もいただきました。


 お許しください、蒼龍様。

 お魚、とってもおいしかったです。




 翌日の昼過ぎに救助された私たちはそのまま病院に運ばれました。

 検査後、一泊することになりました。


 その時に面接に来てくださった担任の先生にお魚を食べたことを懺悔し、罪は自分にあるので他の子は許してほしいと嘆願しました。

 先生は緊急事態だから問題にならないはずだ、何も気にせずに体を休めなさいと優しくいってくださいました。


 その後、最高司祭のお子様が御父上にお魚を食べたことを告げ、事態が大きく動きました。

 遭難の件はマスコミを通じ広く広まっていました。


 そんな中最高司祭は、「自分の子供がいるというが、遭難している他の子供も蒼龍様の子であり、私にとっては実子と同じである。だが心配だからといって危険を冒して救助に行って二次災害が起きては意味がない」と公平さをアピールしたそうです。


 最初はどうにかして救助しようとしたのですが、どんなに怒鳴り散らして検討させても方法がなく、それならばと自分の聖人としての姿をアピールすることに切り替えたという噂です。

 それに1日くらいなら死なないだろう、少しやつれたほうが苦難を乗り越えたとして箔が付くと言う考えもあったようです。


 ですが、1人元気に救出された様子や、管理頭脳の記録を見れば誰のせいで他のみんなが余計な苦労をしたのかは明白です。

 それを隠すために私がみんなに無理やりお魚を食べさせたと大々的に公表されることとなりました。


『自分が食べただけならまだしも、なにもわからない年少者に嘘をついて戒律を破らせるなど言語道断の悪辣卑劣な行為である。神への背信行為で、他者の信仰を妨げる行為である。断罪せねばならない』と。


 仕方ない、緊急避難だと思った決断でしたが、そう言われますと返す言葉もありません。


 担任の先生は必死で抗議してくださったのですが、現在私と同じく謹慎になったそうです。 


 申し訳ないことをしました。

 経緯はどうあれ、私がみんなにお魚を食べさせたのは事実なのですから。

 もともと私一人の罪で終わらせてくれればと思っていたのですが、先生を巻き込んでしまいました。


 ほかにも同情的な方は多くいらっしゃいまして、謹慎中の生活を何かと気を使っていただいています。

 何の不自由ないのですが、皆さん口を揃えて「助けてあげたいのだが力及ばず申し訳ない」とおっしゃり逆に恐縮します。


 でも仕方のないことです。

 最高司祭の決定に逆らえる人などこの星にはいないのですから。


 明日の裁判では破門以下の判決は出ないでしょう。

 特区への追放までされなければいいなと思っていますが、望み薄でしょうね。

 私がいると最高司祭には目障りでしょうから。


 

 仕方ありません。

 あの時食べた、ただ塩をふって焼いただけのお魚をとてもおいしいと思ったのですから。

 その罰は受けるべきでしょう。




「判決を言い渡す」


 長く私の罪を語られましたが、短い弁護で切り上げられ、裁判長はそう切り出します。

 早く終わらせたいのですね。

 イヤな裁判をすることになったと一目見たときから顔に書いてありました。


「ポーラ・アラカルト。緊急処置であっても、そなたのしたことは許されざる行為である。たとえ未成年であっても蒼龍教に帰依している以上戒律は守ることは絶対であり、戒律やぶりを他人に強要することはあってはならないことだ」

 

 この星では卒業したら成人とみなされますので、私はギリギリ未成年です。

 とはいえ未成年だから何をしても許されるというほど世の中は甘くはないのです。

 罪は罪。

 罰は受けるべきでしょう。

 私はそう覚悟して、身を正し、裁判長に頷きます。


「よってポーラ・アラカルトを破門。特区への追放を命じる」


 予想通りの判決。

 傍聴人が若干ざわめきますが、最高司祭は満足げです。


 異議を唱える気もありませんが、唱えることを許されないのが結論の決まっている宗教裁判というものです。

 隣にいる係員に促されるまま退席しましょう。

 その時、



『その判決、異議あり!!』




感想、誤字報告、ブックマーク、評価ありがとうございます。


明日は逃げることができなかった忘年会です。

これから次話を仕上げて明日19時に予約投稿しておきます


ポーラ編の終わりで、本編の前振りになります

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