#63 ドラゴンと宗教と巫女と魚を巡る狂騒曲 9
なんかあほくさい話をしてるとどっと疲れたな。
とりあえず生。
あんな話を聞いた後だからつまみは魚にするかね。
アジの南蛮漬けあたりができるか?
ビールを持ってきつつ、OKですというピンクウサギ。
最近頼んだもの何でも出てくるな。
ありがたいことだ。
「船長が希望を言うのは食事くらいですからね。できる限りはと思っています」
そうかな?
あとは引きこもらせてくれとはよく言ってる気がするが?
「それはできれば希望しないでほしいです」
残念だ。
「しかしさっきの話ですが、船長を見てて昔のことを思い出しましたよ」
ほう、何かあったのか?
「ワイズで私に挑んできたマジリクって人間がいたのですよ。彼は私を倒すために私財を投げうち、娘を生け贄に、息子を囮に使って襲ってきました」
そんなの思い出されても。
俺はそんなにひどかったか?
「いえ、ワイズでは清廉潔白で私利私欲のない人のことを『マジリクのような人だ』と言われていますよ」
誉め言葉なのかよ。
「興味がおありでしたら惑星ワイズの神話を検索してください」
しかも神話の出来事かよ。
まあ機会があったらそうするよ。
ちなみにさっきのやり取りはどう思った?
「提案は乱暴でしたが、あれくらい強気でもいいと思いますよ。蒼龍はドラゴンの中でたぶんトップクラスで打たれ弱いと思いますから」
そうなのか?
「ええ、マイタンの民はドラゴンを見るとひれ伏して言いなりですからね。太古から現在までそんな中で神様やってますと、船長みたいに言うことを聞かない、文句を言う、怒る、無茶を言うなどされるなんて初体験で混乱の極みでしょう」
一般的なドラゴンは違うのか?
「滅ぼされていないドラゴンでも少なからず人間と戦ってますからね。蒼龍くらいですね、戦ったことも人間を殺したこともないドラゴンって」
それなら思惑通りにならないかな?
「あら、やっぱり意味が有りましたか。抑止力ですか?」
そうだよ。
蒼龍の頼みをすんなりきいてやると、他のドラゴンも何か言ってくる可能性があるからな。
俺は慈善事業している訳ではないので、何か頼む気ならそれなりのリスクは覚悟してもらうというメッセージなんだが。
「伝わってるとは思いますよ。今、ネットワークでは蒼龍にやめておけと止める意見の方が多いですね」
もうすでにドラゴン達の話題なのかよ。
「もちろん一番ホットな話題ですよ」
何をいまさらとカグヤは言う。
「滅ぼされた星のドラゴンたちは『後悔するからやめておけ』『人間を甘く見るな』『蒼龍のとこの人間とは違う』と実感がこもってますね」
イヤなこもりかただな。
「あとZ3-Jと大翠のドラゴンは船長に話しかけなくてよかった。引退した今の身となってトラブルなんてごめんだと言ってます」
まあそう言われるためにやったんだが、……お前らのとこの住人もひどかったぞ。
「地球のドラゴンに至っては『日本人は死なばもろともとか、神風特攻とか、滅びの美学があるから本気でやる。関わると負ける』と」
ひどい言われようだな。
昔の日本人はドラゴンに何をしたんだ?
生ビールのお代わりを注文しつつ、カグヤに蒼龍が俺の提案に乗るかどうかの予想を聞く。
「検討の余地なくしませんよ、普通は。1人の人生と多数の命なら天秤にかけるまでもありません」
まあそうだよな。
「宇宙適性が高いといっても地上でのテストです。それにゲートシミュレーターもしてないなら操舵適性がない可能性もありますからね。そんな人間を選ぶ選択肢がないですよ」
てかふと思ったが、俺なんか適性テストしてないのに適性があるって言われたんだが簡単にわかるもんじゃないのか?
「それは創造主だからです。スペースオペラを愛するあまり発見能力も持っているのかと」
さすがは女神様、何でもありですか。
できれば理由がもうちょっとましなものだったらよかったのにと思いつつ南蛮漬けを頬張る。
気持ちもうちょいピリ辛が好みなので次回からよろしく。
それはさておき、適性者発見能力はドラゴンにも必要な能力ではないのか?
「役割が違うとしか。私たちは宇宙に行ける環境を整えるのが使命で、それ以降のことは何も指示されていませんので。宇宙には自分の意志で飛び立ってもらいたいのではないでしょうか?」
おい、それなら俺の存在はなんだよ。
意志などまったくなかったぞ。
「それはまあ長く時間がたってますからとしか。若者のスペースオペラ離れもここまで深刻になるとは思っていなかったのでしょう」
腑に落ちないんだが?
「あと船長が初めてのケースですしね。成功するようなら今後変化があるかもしれません」
この場合、何をもって成功になるのだろうか?
「なんとなくスペースオペラっぽくなったら、じゃないですかね?」
ずいぶんと曖昧だな。
「そんな方ですから。それはそうと、船長はもしも蒼龍が船長の提案に乗った場合、ポーラという少女を受け入れる気ですか?」
俺は約束は守るタイプだぞ。
あとできない約束はしないタイプだ。
「そうですか。では万が一に備えて受け入れの準備はしておきましょうか」
可能性は低そうだけどな。
「ですね。でももしもの時に準備万端のほうがいいでしょう。蒼龍に対してここまで強気できたのですから、慌てると足元みられます」
まあ堂々と、できれば上から目線でやってやるかね、あの甘ちゃんには。
「でも意外でした。船長のことだから一人で引きこもりたいから同乗者を乗せたくないというかと思ってたんですが……あの子は好みの子ですか?」
おじさんはもう枯れ果ててるから、若い子見てもときめかないよ。
あと引きこもるから同乗者がいてもたまに会うくらいかなと、そんなに深く考えてない。
「そうですか」
あと強いていうなら、1人を救うために惑星中を敵に回すってスペースオペラのワンフレーズみたいかなと思っただけで。
「残念ながら立場は逆ですがね」
そうだな。
でもまあ決断するほうではなく、決断を迫るほうにも配役は必要だろう?
家に帰ってきて、ログインしてびっくりしています。
投稿を先にしようとまだ把握していないので、のちほど活動報告のほうでお礼を述べますが、差し当たって把握している分だけ
誤字報告ありがとうございます。
ブックマーク数が昨日から100以上増えていました、ありがとうございます
日間文芸・SF・その他異世界転生/転移ランキングで1位を取った模様です。
縁がないと思っていたので驚いております。
皆様のおかげです、ありがとうございます。
これからも頑張りますので、応援してくださると嬉しいです。