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#62 ドラゴンと宗教と巫女と魚を巡る狂騒曲 8

『いや、バカってひどくないか?』


 バカにバカといって何が悪い。

 ちっとは考えてものを言えよ。


『いや、もちろん宇宙船まではこちらで運ぶので、宇宙船に乗せてもらえればと思っている。50年もすればほとぼりも冷めるだろうからその間お願いできればと』


 だからバカも休みやすみ言えよ、この駄ドラゴン。


『駄っ! いや、いきなり怒り出してどうしたんだ? 何がそんなに?』


 何がそんなに? であるか!

 怒るポイントはいくらでもあるわ!

 まず一人の少女が過剰な罪を押し付けられようとしているのに最高司祭に異を唱えない他の奴ら。


『反対者はいるんだよ。でももう5期15年の間トップに座って、周りをイエスマンで固めているから誰も彼の意見に逆らえなくてねぇ』


 そのトップもおかしいだろう?

 お前のとこの宗教は最高司祭が気に入らなきゃ犯罪者にしてもいいのか?

 宗教に寛容さはないのか?


『教義とか戒律は人間がその時代に解釈してつくるものだから我に言われても困るんだが、これは教義とはかけ離れているね。あと組織に自浄作用がないのが問題だ』


 つまりこの宗教自体はもう終わっているんだな。

 他の惑星の国民が税金を払わないように、この惑星の信者にもお布施という概念がない。

 となると信仰というのはもっと純粋であるべきではないのか?

 信仰と宗教は別物だということなんだろうか?


『返す言葉もないが、それでも国家として考えると平和を維持できる』


 だから一人の生贄では許容範囲だと?


『それは……大を助けるために小を切り捨てるのはある程度は仕方ないことだろう?』


 正論だな。

 だから一人の少女を宇宙に捨ててしまえばとりあえずこの星は現状維持できると。


『それは言葉が過ぎる。どのみち宇宙を経験してもらいたかったんだ、早まっただけで』


 まあよくもいけしゃあしゃあと言えるな、駄ドラゴン。

 俺が一番腹が立っているのはな、俺に押し付けて、お前は何もしないってことだよ!


『何もしてないってそんなことはない。裁判前に宇宙港まで無事運ぶ』


 そこじゃない、その後だ。


『後?』


 俺にポーラを押し付けた後、お前は「やれやれ、なんとかなった」と喜び、その後別に最高司祭をどうこうしようとかもしないんだろう?


『え、いや、それは……』


 もっと言うならそもそもこの計画は、たまたま俺が近くにいるから「押し付けておけばいいんじゃねえ?」的な発想だろうが?


『…………』


 何が嫌いってな、お前みたいな上司もいたよ。

 トップのヒステリーを人に投げて、あとはよろしくねと逃げる奴だよ。

 こっちに苦労させて自分は安全で楽なところからご苦労様というだけの奴だ。


『我はそんな気では……』


 じゃあ俺の計画を聞け。




『ちょっと待ってくれ! それはあんまりじゃないのか? 下手したら何百、何千の人間が死ぬ。そして100年以上この星にダメージが残る』


 おい、俺には50年面倒を押し付けようとして自分が押し付けられたら苦情をいうってどうよ?


『これは規模が違いすぎだろう』


 50年っていったら、今までの俺の人生より長いんだぞ。

 数万年単位で惑星や何十億の人類を管理できるドラゴンと比べたら、これでもまだ俺の方が負担が大きいだろう。


『いや、……でもこれは』


 お前の気まぐれの善意に、何で俺やカグヤが50年も付き合わされなきゃなんないんだ?

 お前だって何か苦労するのが筋だろう?

 むしろお前が一番苦労しろよ。


『もちろん、報酬は……』


 金なんかいらないぞ!

 欲しいものは蒼龍に干渉されない自由か、蒼龍が対等に苦労する未来かだ。


『日下部船長、その言い方は』 


 不満か?

 物事の道理がわかってないドラゴンにはこれぐらいはっきり言わないとダメだろうよ。

 俺はお前のとこの物分かりの良い信者じゃないんだぞ。


『……仮に我が君の条件を飲んだ場合、1000人以上人が死に、100年数十億の人間が苦しむことに何の良心の呵責もないのか?』


 何言ってんだ?


 この質問は想定内だ。

 俺は肩をすくめ笑う。


「俺は提案しただけだろう? 人間を殺す決断をするのは蒼龍。実際に手を下し、人間を苦しめるのも蒼龍」


『なっ!!』


 仮にその結果、お前らの上の創造主に問い詰められたら俺は胸を張ってこういうだろう。


「ちょっと蒼龍の言い方に腹立てて煽ったけど、普通するとは考えもしないでしょう? 人間ひとりを助けるのに1000人殺して修復に100年かかるくらい星を破壊するなんて。こんなわかりきった損得勘定すらできないくらい蒼龍がバカとは思いませんでした、テヘペロ♡」


『…………』


 俺の言葉に絶句する。

 口をパクパクさせ、目が泳いでいる。


『カグヤ』


 やがて呻くようにもう一人に助けを求める。


『お前はどう思うんだ?』

「どうと言われましても……」


 今まで黙っていたカグヤは憐れむように蒼龍を見る。


「蒼龍、あなたは勘違いしているようですけど……、ウチの船長はドラゴンを滅ぼした地球の民の末裔ですよ。ドラゴンを苦しめることに何のためらいがありましょうか?」


 カグヤの言葉にさらに絶句する。


『……少し考えさせてくれ』


 このフレーズが出るまでずいぶんかかった。


「ゲート突入までに決めてくれればいいよ。ただするかしないかで答えてくれよな。しないというのであれば、また別の方法を提示するというなら、俺はマイタンに寄らずに次のゲートで飛ぶ」


 と最後に追い打ちをかけて通信を終了した。

 どっと疲れて椅子の背もたれに身を預けるとカグヤが声をかけてきた。


「お疲れ様です、船長。お酒飲みに行きませんか? 付き合わせてください」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 竜殺しの民と竜の庇護民。 これまで両者の差異についてぼんやりとした理解しかありませんでしたが。 今回でちょっと分かってきた感じがしてよかったです。 思ったよりかなり根深い感じがしてこれから…
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